第173話『最強の魔女』
軽く20人ほど蹴散らした後、エクトは背後から駆けてくるレヴァンの気配に気づいた。
「エクト! レニー! 下がれ! あとは俺とシャルがやる!」
「なんだよ急に。シャルが覚醒でもしたか?」
『したよエクトくん! 私もダブル覚醒したの! レグのおかげで!』
エクトを追い越していくレヴァンから聞こえたシャルの声。
同時に見えたレヴァンの身体から発せられる蒼い粒子。
なんだありゃ!?
「え、おま、ダブル覚醒!? レグ!?」
『レグって誰?』
レニー共々謎の名前らしきものに疑問の声を上げた。
「気にすんな。俺とシャルの子供のことさ。それより残りの敵は俺とシャルがやる。二人は休んでてくれ!」
「お、おう」
『気をつけてねレヴァン、シャル。敵はまだ40人ほど残ってるわ。左右のエリアに展開してる』
「わかった! 本気でいくぞシャル!」
『うん!』
次の瞬間、レヴァンは加速し、消えた。
残像すら見えない凄まじい速度だ。
あれに対応できる自信はない。
「レニー。レヴァンのやつ、なんか身体から蒼い光が出てなかったか?」
『出てた。何かしらあれ。いつも出してたオーラじゃなかったわ』
たしかにいつも出してた戦士のオーラじゃなかった。
闘争心が可視化したものでないのなら、あれはいったいなんの光だ?
まさか『ゼロ・インフィニティ』か?
先ほどシャルがレグとやらのおかげでダブル覚醒したと言っていた。
だとしたらシャルはこれで全ての魔法を使えるようになったと言うことだ。
使える魔法が解放されていく毎に火力が上がるという『ゼロ・インフィニティ』は今や最高火力になっているはず。
ならばあのレヴァンの身体から出ていた蒼い光の正体は、魔力か?
※
『右エリア』に展開してる部隊に目掛けて俺は全速力で疾走した。
こちらを捕捉したらしい多数の敵が俺に向かってライフルを構えてくる。
「シャル! 本当にいつでも好きなときに魔法を使っていいんだな?」
『いいよ。大丈夫。信じてレヴァン。もう敵なしだよ私たち』
「わかった! なら──」
俺はこの眼で確認できる敵の数を把握した。
そして。
「【ガイアフレア】!」
我が娘の名を借りた『魔法第四階層詞』を発動させた。
すると俺が捕捉していた敵全てに【ガイアフレア】が炸裂し、一度に何十人もの敵を爆砕した。
「うわああああ」と敵の悲鳴が爆音混じりに聴こえてきた。
「本当にできた! 凄い!」
『ね?』
【ガイアフレア】は敵一人につき一発が限界だ。
しかしシャルの『蒼炎全家族魔法永久無限詠唱《イグゼスソール・エターナル・インフィニティ》』は常に魔法の詠唱が完了している状態を保っている。
この『連続詠唱』のおかげで【ガイアフレア】は捕捉した敵の数だけブッ放せるというわけだ。
これは本当に凄い!
全ての魔法がいつでも発動できるというのは、つまり隙がない。
しかもさっきの【ガイアフレア】の威力も凄い。
シャルが全ての魔法を覚醒したことで最高火力になった『ゼロ・インフィニティ』。
それによって底上げされた魔法の威力は半端ではなかった。
一歩や二歩で脱出できるものではない巨大な円陣が敵の足元に浮かび、誰一人と逃げられずに大爆発に巻き込まれた。
範囲が広すぎる大爆発は他の敵をも巻き込み、10人ほどしか捕捉していなかったが、どうやら20人以上は巻き込んで敵を撃破したみたいだった。
何故なら『右エリア』に展開していた部隊は、さきほどの【ガイアフレア】で全滅していたのだから。
「ヤバいなこの威力」
『予想はしてたけど、これほどとはね』
さすがのシャルも驚いていたようだ。
【ガイアフレア】でこれなら『魔法第五階層詞』の【メテオディザスター】や『魔法最上階層詞』の【コロナ・プロミネンス】はどれほどのものなのか。
俺は敵の残存部隊がいる『左エリア』に向かって、手をかざした。
「【メテオディザスター】!」
【メテオレイ】の強化版である炎の魔法を放った。
上空から蒼い光の渦が大量に発生し、その渦から蒼い炎を纏った巨大な隕石が現れる。
【メテオレイ】のような小さい隕石ではない。
そんなレベルの大きさではなかった。
遠目でハッキリとした大きさは分からないが、おそらくその辺の一軒家と同じぐらいの大きさだと思う。
その巨大な隕石が『左エリア』に弾雨の如く降り注いだ。
迎撃しようとしたのか、敵からの発砲も確認できたが、巨大な隕石郡の進行を阻止できるものではなかった。
草原に隕石が直撃すると、轟音と共に発された衝撃で地震が起きた。
度重なる地震。
『左エリア』は隕石郡の猛襲に遭い、火の海になっていた。
あれではもう生き残っている敵はいないだろう。
しかし止まない。
【メテオディザスター】は降り続ける。
『レヴァン! やり過ぎやり過ぎ!』
「あ、俺か!」
シャルに言葉で叩かれハッなった俺は慌ててかざしていた手を引っ込めた。
すると間もなく【メテオディザスター】が止んだ。
地震も止んで、俺はホッとした。
そうか。
詠唱がずっと完了しているから自分でキャンセルしないと魔法は止まらないのか。
これは迂闊だった。
無限に降り続ける隕石なんて、考えただけで恐ろし過ぎる。
なんて恐ろしい力を手にしてしまったのか、と思う反面、これならグランヴェルトにも勝てると思えた。
こんなにも凄い詠唱を考えてくれていたシャルには頭が上がらない。
「シャル。本当にありがとう。見事としか言いようがない」
『……』
「シャル?」
『グゥ~……』
「寝てる……」
レニーも越えて、間違いなくリリーザ最強の魔女へとなったのに、ここでまさかの熟睡とは。
いつもの睡魔に襲われたのか、それとも──
「……そうか。そうだよな。頑張ってたもんなシャルは。……お疲れ様。お母さん」
俺の中で眠るシャルに、そう囁いた。




