第1話『幼馴染を召喚!』2
少女の姿を確認すると、見慣れたピンク色の長髪が揺れていた。
青い学生服を身に纏い、大絶叫を続けているその少女を俺は立ち上がって再確認した。
間違いない。
これは夢か?
ラッキーにも程がある。
どうやら俺は【アイツ】を召喚で引き当てたらしい。
「シャル! シャルじゃないか!」
「ふぇ!? レ、レヴァン! レヴァアアアアン!」
美しい紅い瞳で俺を捉えたシャルが抱きついてきた。
シャルの発育豊かな全身が密着する。
「うわ! 待てまて! こんなところで抱きつくな!」
「ごめんなさいレヴァン! ごめんなさい!」
「ど、どうした!?」
「いきなり目の前が真っ白になったと思ったら、気づいたら誰かとキスしてた!」
「ぁ、それなら大丈夫だ。あれは──」
「大丈夫じゃないよ! レヴァンにファーストキス奪ってほしかったのにどっかの馬の骨に奪われちゃったんだよ! 今すぐ口直しのつもりでキスしてレヴァン! お願い!」
「待てって! その馬の骨は俺だから大丈夫だ! 口直しなんていらない!」
「──……え?」
「だから相手は俺だったってこと! 俺のファーストキスはお前に奪われたってこと!」
何言ってんだろ俺。
言い終えてから恥ずかしくなった。
「ええええ! じゃあわたしついにレヴァンのお嫁さん!」
「なんでだよ!? まだだよ! 俺の魔女になったんだよ!」
「なんだ魔女か‥‥‥」
「なんでガッカリする!?」
少なくとも俺はシャルを魔女として召喚できて本当に嬉しいのに。
この場に誰もいなかったらこのままシャルを抱きしめたいくらいには嬉しい。
いや本当に。
──っ!?
また殺気を感じる!?
ここ学校なのに暗殺者でも潜んでるのか!?
「お前ら……見たか?」
「見た」
「見たね」
「あぁ見た」
「エクトの内側スカート下敷き事件なんか比じゃねぇ。レヴァンの野郎はキスしやがった」
「しかもあれ例の娘じゃねぇか。どんだけラッキーなんだあの野郎」
「無能の癖に。無能のクセに。むのうのくせに。ムノウノクセニ」
非常に失礼な念仏が聞こえる。
まぁそれは右から左へ受け流そう。
それよりも俺が魔法を使えた件に関してだ。
いったい俺の身体に何が起きたんだ?
シャルを召喚できたのは良いが、そもそもシャルだって魔法は‥‥‥。
「レヴァンくんよくやったぞ! まさかこんな予想外が起こるとは思わなんだ」
オープ先生が嬉しそうに歩み寄って来た。
「いや俺も、本当にどうして出来たのか分かりませんよ」
「お前にも魔力があったという事だろう。今日沸いたのかもしれんぞ?」
「そんな都合の良い話がありますかね?」
「現に今がそうだろう? 国王様には良い報告が出来そうだ。それでは君、名乗ってもらえるかね?」
「あ、はい。魔道女子学校のシャル・ロンティアです」
「ロンティア? まさかあの魔法の名門家の?」
「はい。そうです」
「失礼なことを聞くが、魔法が使えないと記されているが本当かね?」
え? え? っとクラスメイト達がざわめき出した。
そーいえばみんな知らなかったっけ?
「間違いありません。私は魔法を使ったことがありません。レヴァンと同じで無能カップルです!」
「無能は余計だって」
俺は思わずツッコミを入れた。
「おいレニー。シャルが無能ってマジか?」
あれ? エクトにはシャルのこと教えてるはずなんだが。
忘れたのかアイツ?
「あたしに聞かないでよ。あの子のこと全然知らないし」
「なんだよお前、使えねぇな」
ボキィッ!
「ぁあああ! 指が! 指がああああ! あり得ない方向にいいいい!」
なんかエクトの悲鳴が聞こえる。
どうしたんだろう。
「魔法が使えない者同士が引かれ合ったというのか? うーむレヴァンくん」
「はい?」
「1回でいい。彼女とリンクしてみなさい」
リンクとは戦士と魔女が一つになる融合魔法のことを言う。
これをしないと強い魔法が使えないのだ。
「リンクを?」
「魔女召喚だけできた、なんて変な話はないと思うんだが試しだ。本当に魔力が沸いたのならリンクもできるだろう」
「なるほど。ならやってみるかシャル」
「うん。いいよ」
俺はシャルと手を繋いだ。
リンクする際に必要な条件が二つある。
『魔女の同意』
『魔女との肉体接触』
だから大半のコンビはこうして手を繋いでリンクする。
シャルとは何度も手を繋いでいるから特に意識することなくできた。
シャルは瞳を閉じて、リンクしようと念じ出す。
するとシャルの全身が光の粒子となって拡散し、散らばった粒子が俺の身体に溶け込んでいった。
驚くほどあっさりとリンクは完了した。
おおぉ~! とクラスメイトたちの声が聞こえる。
「できた‥‥‥」
俺の自然と出た言葉がそれだった。
俺が『魔女の召喚』だけでなくリンクまでこなした。
信じられない。
『で、出来たよレヴァン! 私たちリンク出来た!』
シャルの弾んだ声が響く。
少しエコーが掛かった感じで両耳に入ってくる。
「ぁ、ああ。本当にできたな‥‥‥」
やばい。
身体が小刻みに震えてる。
嬉しさと興奮で。
夢じゃないよなこれ。
(痛っ!)
良かった夢じゃない。
「これは本物だな。レヴァンくんは魔力を持っている。そしてシャルくんもだ」
オープ先生が顎を撫でながら納得したように頷く。
それを聞いたクラスメイト諸君も上擦った声を上げ出す。
「マジかよレヴァンのやつ!」
「無能じゃなくなっちまった!」
「真のリア充になりやがった!」
「ど、どうすんだ!? レヴァンは戦闘能力テストも100点満点だろう!?」
「はっ! 本当だやべぇ! 隙が無くなった!」
魔法というアドバンテージを失ったクラスメイト達が動揺を見せ始める。
隙の無くなった俺はクラスメイトたちに追撃する。
「ざまぁみろお前ら! 今まで馬鹿にしてくれやがった借りは返してやるからな!」
「ぐっ! だが本当に魔法が撃てるのか!」
「なんだと?」
「魔女とリンクできただけで『魔法第一階層』が撃てるとは限らない!」
「そーだそーだ!」
『魔法第一階層』といえば『フレイム』『フリーズ』『ウィンド』の基本魔法のことか。
確かに以前の俺なら撃てなかったが。
やれやれ。
ここまできて往生際の悪いやつらだ。
「先生、ああ言ってるんで『魔法第一階層』使ってみていいですか?」
「バカ者。こんなところで魔法使うバカがあるか。場所を弁え‥‥‥」
「いいか見てろお前ら!」
「人の話を聞かんかい!」
ヴォン!
大太鼓を叩いたような爆音が響いた。
同時に俺の突き出した手のひらから火球が発射される。
あれは火属性のフレイム!
俺って火属性だったのか!
いやそれよりもなんだあのフレイム!?
質量がおかしい!
魔法が使えない俺でも知識くらいある。
一般的なフレイムはサッカーボールほどの大きさしかない。
だが俺の放ったあのフレイムはどうだ?
あきらかに通常の二倍はある大型フレイムだ。
「でけぇ!」
「なによあれ!?」
エクトとレニーが仰天の声を張り上げた。
大型フレイムは祭殿の支柱に当たって大爆発を起こす。
激しい爆風が巻き起こり、この場にいる全員を襲った。
「うわああああ!」
「フレイムじゃねぇよこんなのおおおお!」
「無能のクセになんだこの威力うううう!」
クラスメイトたちが爆風で転がりながら悲鳴を上げている。
俺も爆風を凌ぐため姿勢を下げた。
しかしそこで目に入ったのはレニーが爆風に押されて今まさに壁に激突寸前の光景だった。
やばい!
俺は咄嗟に姿勢を起こして助けに入ろうとした。
刹那、エクトがレニーの危機に気づいていたらしく、すでに救助に向かっていた。
レニーを抱き締めるようにかばい、己の身を盾にするように壁に激突した。
良かった。さすがエクトだ。
安堵した途端に爆風がおさまった。
煙が消えて『魔女の祭殿』の状況が確認できた。
祭殿は、今にも崩れそうなほどボロボロの黒コゲになっている。
「うそだろ‥‥‥ただのフレイムでこれかよ」
『す、凄い威力だったね。どうしちゃったんだろ私達』
「それは俺も聞きたいくらいだ。ん?」
ピシッと祭殿に亀裂がはしり、それは一気に端々に広がって、ついには崩壊を始めた。
「やべぇ!」
「い、いかん! みんな避難だ!」
オープ先生が叫んだ。
しかしクラスメイト達はとっくに逃げていた。
「うおおい! 待ってくれええええ!」
「先生早く!」
俺はオープ先生の腕を強引に引っ張りギリギリのところで祭殿を脱出した。
崩れ落ちていく『魔女の祭殿』はあっという間に瓦礫の山へと変貌した。
俺はみんなが無事か確認した。
良かった。
誰も欠けていない。
『レヴァン大丈夫?』
「ああ大丈夫。それより」
俺は瓦礫の山になった祭殿を見た。
どうしよう、これ‥‥‥。