第169話『全ては孫の未来のために』
シェムゾとグラーティアは帝国ホテルを後にし『帝都ノルアーク』行きの列車に乗り込んでいた。
城への案内役はいない。
グラーティアが断ったからだ。
道のりは知っているからだろう。
窓際の席にグラーティアがついて、シェムゾが隣に座った。
そして一息つくと列車が揺れて、少しずつ加速を始めた。
ステーションから街並みへとスライドしていく景色。
他にも何人か乗車客がいるのを確認してから、シェムゾはグラーティアを見た。
「グラーティア。本当に良かったのか?」
「え?」
「グランヴェルトの呼び掛けに応じた事だ。やつの居城『ガーネディア』には良い思い出などないだろう?」
グラーティアからすれば、これから向かうグランヴェルジュの本城『ガーネディア』は忌まわしい記憶の場所だ。
王家の恥とされ、あげくに暗殺され欠けたほどの場所である。
そんな場所にグラーティアを連れていきたくなかったのだが、何を思ったのかグラーティア本人が行くと言い出したのだ。
いったいなぜか。
「そうね。あんな場所、見たくもなければ近寄りたくもなかったわ」
「だったらなぜだ?」
「『剣聖』と『戦狼』を倒したこのタイミングで私たちを呼ぶってことは、きっと最終戦の件だと思うの。その打ち合わせだとしたらレヴァンくんとシャルちゃんの完成にも関係する大問題だわ。しっかり話し合わないと不味いでしょ?」
「それはそうだが」
「レヴァンくんとシャルちゃん。シャルちゃんはレニーちゃんに任せたから大丈夫だと思うわ。でもレヴァンくんにはあなたを越えてもらわないといけない。グランヴェルトに勝つためにも、必ずね」
「……そうだな。レヴァンならきっと俺を越えてくれる。シャルのお腹の子供のために、あそこまで強くなれる男ならきっと」
疑う余地のないレヴァンの心の強さ。
昨日の『剣聖』との戦いでも、それはハッキリとわかった。
レヴァンは真剣に子供と向き合っているのだと。
中途半端な成長を少しでも見せれば叱り飛ばしていたが、そんなこと一度もなかった。
レヴァンならシャルと子供を幸せにする。
それはもう確信しているのだ。
「ええ。強くなってグランヴェルトとルネシアを倒して貰わないとね。私だって安心してお祖母ちゃんになりたいし。あなたも念願のお祖父ちゃんでしょ?」
「ああ、そうだな」
「それに……正直に言うとねシェムゾ」
「ん?」
「グランヴェルトを倒したい。ルネシアを見返したい。ちょっと前の私はそんな邪念があったわ。でも、今は違うの」
復讐に囚われていた女の意外な一言だった。
シェムゾは思わずグラーティアの眼を見つめる。
「産まれてくる孫のために、グランヴェルトという脅威は排除したい。今はその気持ちの方が圧倒的に強いわ」
その眼は、今までのグラーティアとは違う。
優しい祖母としての真剣な眼をしたグラーティアだった。
「……やっと大人っぽくなってきたなグラーティア」
苦笑混じりにシェムゾが言うと、グラーティアは目を丸くして、少し頬を赤くした。
「そ、そりゃもうお祖母ちゃんだし、多少はね……」
「ふふ、まだ産まれてもいないのにこれではどれだけバカになるか分からんな?」
「あなたに言われたくないわよ」
「違いない」
笑って同意して、そして思う。
全ては産まれてくる孫のため、か。
レヴァンとシャルを利用して復讐に燃えていた女が変わるものだ。
孫の可愛さは格別だと両親が言っていたの思い出した。
変えようもないドス黒い感情を抱いて生きていたグラーティアをここまで変えてしまうとは、孫の力とは本当に恐ろしいものだ。
まだ産まれてもいないのにこれなのだから。
でも確かに、シャルが妊娠したことを知ったとき、誰よりも喜んでいたのはグラーティアだった。
きっとあの時に、グラーティアは変わったんだろう。
自分の復讐よりも、孫の未来のためにと。
「グラーティア。俺は……レヴァンが俺を越えたとき、そのまま正騎士団に入団させようと思っている」
「え?」
「リリーザへ戻ったらレヴァンと一騎討ちするつもりだ。それを正騎士団への入団試験にしたいと考えている。どのみちシャルも妊娠している以上は高校も中退だ。早めに入団させた方がいいだろう」
「良い考えね。それならみんな納得するはずよ」
「だろう? それにもう国王には頼んであるんだ」
「何を?」
「レヴァンとシャル専用の正騎士団の制服だ」




