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第168話『脳の限界』続

 シャルが詠唱を始めると、魔道書の文字が光り始めた。

 それも全部だ。


「おお?」っと俺とエクトがページを覗き込む。

 次いでレニーが覗き込み、目を見開いた。


「凄い……『第二セカンド』『第三サード』『第四フォース』全部の詠唱を詠んでる!」


 驚愕した声でレニーは言う。

 

 まさか『全同時詠唱』を今まさにシャルはおこなっているか?


「レニー、これは──」

「シッ! シャルが出来てる。今は静かにして」


 小声で黙らされ、俺は咄嗟に声を殺した。

 シャルの集中を乱さないための配慮だろう。


 がんばれシャル!


 内心で応援する。

 だが次の瞬間、魔道書の文字が光を無くしてしまった。


「ああああああああっ!」


 シャルが頭を抱えて叫びだした。


「ど、どうしたシャル!?」

「頭の中で三人のレヴァンが詠唱してたんだけど、みんなレヴァンだから声がダブってワケわからなくなっちゃった!」

「なんだそりゃ!? なんで俺が三人も!?」

「エクトくんの言ったとおりレヴァンが歌ってるイメージで詠唱してたんだけど、一つの魔法につきレヴァン一人をイメージして詠ませてたら声に声が重なってメチャクチャになっちゃった」

「あぁなるほど。頭の中でこんがらがるのか」


 このシャルの手こずり具合を見るに『全同時詠唱』の難易度は本当に半端ではないようだ。

 やはり土壇場でアレを一発で成功させたレニーが異常ということか。


「でもシャル。さっきより手応えあった感じじゃねぇか?」


 エクトが言った。

 シャルは「うん」と弾んだ声を出して頷く。


「さっきよりイメージしやすくなったよ。私もともと妄想大好きだから、こっちの詠唱方法が向いてるかも」


 確かにシャルは妄想が得意だ。

 今にして思えば俺が使っている『魔女兵装ストレイガウェポン』の『グレンハザード』と『ブレイズティアー』だってシャルの妄想の産物だ。


 俺が言うのもなんだが、長年シャルが妄想して練られていただけに武器としてのクオリティはとても高い。


 これほどの武器を妄想できてしまうのだから、これはシャルの長所と見るべきだろう。


「そっか。シャルは妄想が得意なのね。ならそれを駆使して『全同時詠唱』の修得を目指しましょう」

「はーいレニー先生! 妄想中レヴァンの声が頭の中でごっちゃになってワケわからなくなってしまうんですけど、どうしたらいいですか?」

「そうね……子供レヴァン・中年レヴァン・年寄りレヴァン・今レヴァンで分けて歌わせなさい」


 なんか嫌だなその分け方。

『今レヴァン』ってなんだよ。

『レヴァン本人』でいいだろ。


「わかった。やってみるよ」


 やるのかシャル。

 年寄りの俺を妄想するのか……。


「ねぇねぇレヴァン」

「なんだ?」

「レヴァンは中年ぐらいでもう髭生やしてるかな?」

「……それ、重要か?」

「妄想するのに重要です」

「そうか……じゃあ生やしてる方向でいいぞ」

「はーい……ぷぷ、全然似合ってないや」

「やかましい」


 俺とシャルのやりとりに、端で見ていたエクトとレニーが笑った。




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