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第168話『脳の限界』

 俺は約二時間ほどランニングしてから帝国ホテルに戻った。

 本当はあと二時間は走ろうかと思っていたが、やはりシャルが心配になって中断したのだ。


 エクトとレニーが側にいてくれてるだろうから心配はいらないが、やはり身籠っているシャルから俺が離れて行動するのはどうしてもダメな気がする。


 ここはグランヴェルジュ。

 敵国であってリリーザではないのだから。


 俺はぜんぜん使ってない自分の個室へ向かい、入って服だけかっさらい、そのまま大浴場へ走った。

 ささっと汗を流して、服もリリーザの学生服に着替えた。


 そしてシャルの部屋へと直行する。


「ただいまシャル! 身体は大丈夫か?」


 シャルの部屋に入るなり俺はそう言った。


 見ればシャルがテーブルに突っ伏して頭からプシューと煙を上げている。

 まるで壊れた機械のように。


「シャ、シャル!? どうしたシャル!?」


「あ、レヴァン。おかえりなさい」

「もう帰ってきたのか」


 そう言ってきたのは同じ部屋にいたエクトとレニーだった。

 エクトは壁に寄りかかって腕を組んでいる。

 レニーはテーブルを挟んでシャルの向かいに座っていた。


「え、いや、何があったんだシャルに!?」

「いや実はな『全同時詠唱』の仕方をレニーがシャルに教えてたんだけどよ」

「シャルの頭がパンクしちゃったみたいで……」

「パンク!? パンクって……おいシャル。大丈夫か?」


 頭から煙を上げるシャルに寄って背中を擦った。


「……無理」

「え?」

「無理だよこんなの……レニーの頭の中、どうなってんの……。やっぱりレニーの簡単発言はあてにならないよぉ……」


 突っ伏したままシャルが掠れそうな泣き声をもらした。

 案外と大丈夫そうで安心したが。

 

「え、そんなに難しいのか? その『全同時詠唱』って」

「オレに聞くなよ」


 そうエクトに言われてレニーに視線を移した。

 

「確かに難しいけど、シャルは『同時詠唱』もマスターしてるからすぐに──」


 え?


「『同時詠唱』? シャルが? 使えるようになってたのか?」

「あ、知らなかったんだレヴァンも」


 意外そうな顔でレニーに言われた。

 知らなかった。

 シャルのやつ、いつの間に?

 使えたのなら昨日の試合で使ってくれれば良かったのに。


「たった二つの魔法を使うだけの『同時詠唱』とはレベルが違うよレニー。難しすぎ」


 やっとシャルが顔を上げてそう言った。

 

「大丈夫よシャル。さっきも言ったとおり好きな歌を頭にインプットするつもりでやるの。詠唱を歌のバックサウンドに乗せて奏でるように詠唱すれば複数の詠唱も簡単になっていくわ」


 なるほど。わからん。


「な、なぁレニー。もうちょっと具体的にできないか?」


 俺の言葉にレニーが少し困った顔をした。


「具体的に……んー、『魔法第二階層詞セカンドソール』を唱える時は好きな曲ナンバー2を流す。『魔法第四階層詞フォースソール』なら好きな曲ナンバー4を流す。こうやって頭の中であらかじめ決めておけば複数の詠唱も簡単になっていくはずよ。ほら、好きな曲とかって簡単に頭の中で再生できるでしょ?」


「まー、なんとなく言いたいことは分かる」


 分かるが、これは難し過ぎるな。

 シャルが頭パンクするのも分かる気がする。


 詠唱を歌に変えて詠む。

 歌詞は詠唱のものにしなければいけないはずだから、歌そのものに詠唱を落とし込まなければならない。

 

 もうすでにこの作業の段階で難しい。

 

 レニーはこの作業さえもベオウルフ戦という極限状態の時にこなして『全同時詠唱』を使ったというのか。


 本当にレニーの頭の中はどうなっているのだ。

 100点しかとったことないという頭脳は伊達ではないということか。


 だとしたら平凡な頭脳を持つシャルには、これはあまりにも酷な特訓なような気がしてきた。


 そもそもの話『全同時詠唱』を今現在で使えるのは世界でレニーただ一人。

 『同時詠唱』ができるだけでも凄いのに。


「なぁレニー」とエクト。

「なに?」

「好きな曲じゃなきゃダメなのか? その、頭にインプットするやつ」

「ううん。別に他のものに代用できるならそれでもいいけど」

「ならシャル。レヴァンが歌ってるイメージでやったらどうだ?」


 何を言い出すんだこいつは。


「レヴァンが歌ってるイメージ? ああ! それならイメージしやすいかも!」


 意気揚々とシャルはテーブルに己の魔道書を広げた。

 変な文字が記されたページを開ける。


「このページはなんだシャル?」


 俺は聞いた。


「私が使える魔法の詠唱ページだよ。『魔法第三階層詞サードソール』とか書いてあるでしょ?」

「いや、俺には詠めないよ。なんか変なミミズみたいな文字しか見えない」

「オレもそんな風にしか見えねぇな」


 俺とエクトの反応にシャルは思い出したように頭を撫でた。


「そっか。魔道書って自分以外の人には詠めないんだったね」


 苦笑して、それからシャルはゆっくりと念じ出した。

 どうやら詠唱を開始したようだ。


 


 

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