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第16話『エクトの目的』

 高校生になってから、この1年1組で初めて授業を受けた。


 選手となって授業どころではなかったのだから仕方ないのだが。

 それにしても、久し振りにいつもの日常を味わっている気分になる。


 そして4限目が終わって、お待ちかねのお昼になった。


「はいレヴァン! お弁当だよ」

「待ってました! 学校じゃこれだけが楽しみなんだよ」


 俺はいつものようにシャルのお弁当を昼食として頂く。


 いつもと違うとこと言えば、シャルが同じ学校で、同じクラスにいることか。


 以前は【魔道男子学校】と【魔道女子学校】で別れていたから、こうして隣に座ってお昼を共にすることはできなかった。


「くっそーリア充め!」

「マジでシネ」

「無能のくせにぃぃ!」


 なんか外野がうるさいが、無視しよう。


「じゃあオレは購買に行ってくるわ」


 エクトがいつも通りに席から立ち上がる。

 俺は「おう」とだけ返事した。


 エクトは昔からそうだが、親からお弁当を作ってもらったことがないようなのだ。


 理由は詳しくは知らないが、エクトがそもそも親からのお弁当を拒んでいるとか。


 なんでだろう?


「エクト」


「あ?」


 エクトを呼び止めたのはレニーだった。


「なんだよ」


「これ。作ってきたから食べて」


 レニーがお手製のお弁当をエクトに押し付ける。


「なにいいいいっ!?」とそれを目撃したクラスメイト達が悲鳴のような叫びをあげた。


 非常にやかましい。


「弁当か?」


 エクトの問いにレニーは少し頬を赤くしながら頷く。


「シャルから聞いたの。あんたいつも購買で買ってお昼食べてるって」


 聞いて、俺はシャルに小声で尋ねた。


「おいシャル。なんでエクトのお昼事情を知ってんだよ」


「レヴァンが私に言ったんじゃん」


「そうだっけ?」


「そうだよ。あいついつも購買に行ってるって」


 お弁当を受け取ったエクトは、珍しく笑った。


「助かるぜレニー。購買っていつも混むから面倒だったんだよ」


 エクトは席に座り直して机にお弁当を広げた。


 礼を言われたレニーは「そ、そうでしょう?」と嬉しそうに口元をほころばせた。


「一人分でも二人分でも作る手間は同じだから、今日から作ってあげるわよ」


「そうなのか? ならこれからマジで頼んでいいか?」


「え? ええ、まかせて!」


 エクトはあっさりとレニーにお弁当をまかせた。

 レニーからすれば予想外だったのかもしれない。


 でも、それでもレニーはまかされたのが嬉しかったようで、満更でもない顔をしていた。


「レニーって思ったより積極的だよね」


「そうだな。エクトと出会ってまだ三日目なのに」



 そして学校が終わり、俺達はオープ先生の案内で『リオヴァ城』の前まで来た。


 その巨大な城は、一言で言うなら『装甲の塊』だろう。


 虹色を帯びた白銀の装甲。

 あちこちの胸壁に潜む大型の大砲。 


 蒼くて尖った屋根が城っぽさを出してるが、城というよりは城塞に近い感じがする。


「なんか、兵器みたいな城ですね」


 俺はオープ先生の車の助手席で思ったことを言った。

 すると隣で運転するオープ先生が笑う。


「兵器みたいか。なかなか鋭いなレヴァンくん。この城は元々兵器だったんだよ」


「そうなんですか?」


「そうさ。なんでも昔に悪魔のような強さを持った戦士と魔女がいたそうでな。そいつを倒すのに使われたらしい」


「一人のソールブレイバーを倒すためにこんな兵器を?」


「大袈裟に感じるだろうが、本当に強かったそうだ。大陸を消し飛ばせるほどの魔力を持っていたらしいからな。その気になれば世界も破壊していたかもしれんとさえ言われているぞ」


「魔女が化け物じゃねぇかよソレ」


 後部座席でエクトが呟く。


 オープ先生は「確かにな」と笑って「ほら着いたぞ」と車を止めた。



 俺とエクト。


 シャルとレニー。


 男女に別れてこの城の更衣室で礼装に着替えることになった。


 着慣れないタキシードをなんとか着て、大食堂のある三階へ。


 廊下に並ぶ兵士達やメイド達が丁寧にお辞儀してくる。


 そこで俺は今、凄い所を歩いていると再認識させられた。

 ちょっと前まではただの学生だったのに、今は城の中を歩いている。


「まだパーティーまで時間がある。その辺でゆっくりしてなさい」


 装飾豊かな大食堂に着いて、オープ先生が最初に言ったのはそれだった。


 そのままどこかへ行ってしまったオープ先生。

 取り残された俺とエクトは、とりあえず城のバルコニーに出た。


 すでに陽が沈み、夜景を楽しめるほどにはなっていた。

 室内から洩れる光に照らされながら、俺とエクトはシャルとレニーを待った。


 せっかくの夜景なのに隣がエクトという残念な状況だ。

 どうせならシャルとこの夜景を楽しみたかった。 


 肩を抱いて、身を寄せて、雰囲気が出てきたら、また口付けという流れも悪くない。


 それにシャルはドレス姿だろうから、きっと魅力的に違いない。


「なにニヤニヤしてんだよ気持ちワリィな」


 エクトからの一言。

 人が妄想してんのに水差しやがってこのやろう。


「べつに? 妄想はしてたけどニヤニヤはしてないぜ?」


「してたよ。どーせシャルとこの夜景楽しめたら良かったのになぁーとか思ってたんだろうが」


 す、鋭い。


「そんなの俺の勝手だろうが!」


「ああ。オレもそう思う」


「じゃなんで水差してきたんだよ!」


「ヒマだから」


 こいつ‥‥‥。


 俺は溜め息をついてから欄干に両手を置いた。


「恋愛脳なのは構わねぇけどよ、これからリリオデール国王様を説得しなきゃいけねーんだ。あんまり気を抜いてんじゃねーぞ?」


「わかってるよ」


 そして俺はあることに気づいた。


「‥‥‥なぁエクト」


「あん?」


「お前って、なんで全国制覇を目指してるんだっけ?」


「答える必要なし」


「いやあるだろ。俺はちゃんとお前に全国制覇の目的を言ったぞ」


「シャルと早くエッチしたいだけだろ?」


「それだけじゃない。子供も四人産んでもらう」


「そこまで聞いてねぇよ」


「いいからお前も白状しろよ。これから一緒に戦っていくんだ。お互いの目的を知っておいても悪くないだろ?」


「大した目的じゃねぇよ。クソ親父と約束してんだ」


「え?」


「オレが全国制覇を達成できたら、オレはオレの人生を歩ませて貰うってな。それだけだ」


「それだけって、なんだ? 普通に行ったら自分の人生を歩ませて貰えないのか?」


「『お前は私の跡を継ぐのだ。時期社長の自覚と覚悟を持て。グライセン家の長男として生まれた義務と責任を果たすのだ』」


 吐き捨てるようにエクトは誰かの言葉を紡いだ。


 それがエクトの父親のものであることは優に察することができたが。


「ふざけた親だろ? 勝手に産んどいて勝手に人の人生を決めつけてやがる」


 たしかにIG社の社長になんて、一般人からすればなりたくてもなれないものだ。


 エクトのみが座れる椅子と言ってもいいだろう。

 だがそれがエクトにとって幸せの椅子かどうかは別問題で。


「オレは自由になるんだ。くだらねぇ家の呪縛になんざ屈するかよ」


 エクトの眼は本気だった。


 エクトの目的も、よくわかった。


 でも。

 一つだけ分からないことがある。


 エクトは自由になって、その先で何をしたいのだろう?


 その疑問をエクトにぶつける前に、ドレスに着替え終えたシャルとレニーがバルコニーにやってきて。


「おまたせレヴァン! エクトくん! ほら見て! ウェディングドレス!」


 純白のドレスを着たシャルが裾をもって一回転してみせた。


 ふわりと舞うシャルの桃色の長髪とドレスが美しい。

 ずっと眺めていたいほど綺麗だ。


「おお。すげぇ綺麗だよシャル。‥‥‥てかウェディングドレスじゃないだろそれは」


「それっぽいでしょって意味で」


「なるほど」


 言ってからシャルの隣にいるレニーに目をやった。


 彼女は漆黒のドレスを身に纏っている。


 やはりレニーもシャルに負けずと綺麗だった。

 二人のドレスは色こそ違うが、胸元が大きく開いたデザインは同じで、シャルとレニーの豊かな胸の谷間が露出している。


 二人とも16歳とは思えないほどスタイルが良い。


「ほらレニー。せっかくドレス着たんだからエクトくんに見せようよ」


「いや、べつに見せなくても‥‥‥わ! ちょっと!」


 シャルに引っ張られたレニーはエクトの前に立たされた。

 エクトとレニーの目が合う。


 エクトはきょとんとしていて、レニーは顔を赤くした。


「あ、や、えと‥‥‥に、似合う、かな?」


「あ、ああ。かなり‥‥‥」


 さすがのエクトもレニーのドレス姿にはまいったようで、目をそらした。



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