第153話『アイスソール・フルパーティー』
レニーの唱えた『アイスレイン』と『アイスレイザー』が『氷の巨狼』に弾雨の如く降り注ぐ。
観客達の驚きの声がワァッと沸き上がった。
『氷の巨狼』は空から落ちてくる氷結晶の嵐に晒され凄まじい勢いでその氷の外郭を剥がされていく。
逃げようにも光線に四肢を撃ち抜かれ動けず、さらには転倒。
「ぐぁ! チッキショウが! レニーってやつは『魔法第四階層詞』までしか覚醒してないって話だったろう!」
『こんな土壇場で二つも魔法を覚醒させるなんて! なんなのよあの貧乏女!』
レニーの覚醒に怒りの声を轟かせるベオウルフとライザ。
しかし怒鳴るのも束の間、レニーの放った『アイスレイザー』と『アイスレイン』は『氷の巨狼』を完膚なきまで破壊した。
「うわあああ!」
『エルガー!』
ガラスが割れたような音を響かせながら、破壊された氷の外郭からついにあのシルクハットを被ったベオウルフ本人の姿が露になった。
ベオウルフは氷から放り出される形になり、受け身をとり損ね背中から荒野に叩きつけられた。
さすが最高レベルの『魔法第五階層詞』と『魔法最上階層詞』だ。
威力が桁違いである。
あんなにも苦労した『ブリザード・フェンリル』とやらをあっさりと破壊してみせた。
すげぇ……凄過ぎるぜ。
『エクト』とレニーに呼ばれてエクトは我に返る。
「レニー?」
『シャルのアイデアを借りるわ。あなたとあたしのラストバトルを思いっきり派手にしてあげる』
派手に?
どういうことだ?
「くそったれこのガキどもが! インチキも大概にしやがれ!」
『ちょ、エルガー! 落ち着いて!』
エルガーが立ち上がって『スナイパーライフル』と『ライフル』をそれぞれに片手に持って乱射してくる。
怒りのあまりに冷静さを失っているようだ。
弾道がブレブレである。
もしかしたら『ブリザード・フェンリル』を破られてヤケクソになっているのかもしれない。
ならばとエクトは『ステラブルー』でエルガーの弾丸を撃ち落として反撃の機会を窺っていると、全面にレニーの『アイスシールド』が展開された。
ありがたい、と思った次の瞬間『ブルーストライカー』まで展開された。
さらに次の瞬間にはエクトの頭上が光る。
それが『アイスブラスト』を放つ光だと分かった。
そして次の瞬間、エクトの左右に浮遊する光の球体まで召喚された。
これは先ほど見た『アイスレイザー』の!
そしてまた次の瞬間、上空から氷結晶が現れた。
間違いなくあれは『アイスレイン』の氷結晶!
ちょっと待て!
レニーは今、どれだけの魔法を唱えてるんだ!?
エクトが驚愕するように、観客達もまた驚きを爆発させた。
※
「なんだあれは!?」
レニー・エスティマールの芸当を見て、グランヴェルトが観客席から思わず立ち上がった。
隣にいる魔女ルネシアも、後ろに控えている将軍たちも、みながレニー・エスティマールの魔法に目を奪われ驚きを隠せずにいる。
『スターエレメント』を持たない無能の魔女だと思って眼中になかったが、これほどの芸当ができる魔女だったか。
あれは何なんだ?
全ての魔法を、レニー・エスティマールは唱えているのか!?
そんなことが、人間に可能だとは!
※
レニーの全魔法を展開する光景は、レニーの両親にも見られていた。
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっとあんた! うちのレニーが!」
「え、ええええ!? 魔法を全部唱えてる!?」
我が娘のとんでもない芸当をテレビ越しに拝見した両親は、そのままテレビにかじりつく様に見続けた。
※
『魔法第二階層詞』
『アイスシールド』
『魔法第三階層詞』
『ブルーストライカー』
『魔法第四階層詞』
『アイスブラスト』
『魔法第五階層詞』
『アイスレイザー』
『魔法最上階層詞』
『アイスレイン』
全ての魔法を発動させたレニーは――――大きく吼えた。
『見せてあげるわ! これがあたしのエクトへの本気の思い! 『氷魔法全同時詠唱』!』
※
降り注ぐ氷の結晶群と青き光線群。
そしてエクトを守る鉄壁の氷の盾群。
それはまさに『要塞』だった。
雪崩の如くエルガーに迫り来る魔法群。
それを見て、さっきまで熱していた思考は一気に冷め、銃を下ろしてしまった。
何なんだよあの女は。
なんであんな真似ができる。
全ての魔法を同時に詠唱して発動させるなんて。
『ぁ、あ……無理。あんなの、防ぎ切れない……』
目の前の光景に戦意を無くしたらしいライザが弱々しい声音で呟いた。
戦士としてエルガーはエクト・グライセンに負け、魔女としてライザはレニー・エスティマールに負けた。
『ごめん……エルガー』
「いや、お互い様だ」
刹那、エルガーはレニーの魔法群に飲み込まれた。
氷の結晶が容赦なく激突し、無数の光線が激しく身体を貫いていく。
悪い、ノア……こいつらも大概、化物だ。
そしてエルガーの意識はそこで途絶えた。




