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第15話『託された思い』

 1年1組の教室に入ると、クラスメイト達の視線が一気にこちらに集中する。


「お! リリーザの救世主が来たぜ!」

「レヴァン! エクト! 昨日はおつかれさん!」

「お前らにお客さんが来てるぜ」


 言われて俺は「客?」と言い、指差された方に目を泳がせた。


 そこには2年のシグリーと彼の魔女リエルが立っていた。


「シグリーさんに姉さん。どうしたんですか?」


 俺の隣でシャルが聞いた。


「昨日の礼を言おうと思ってな。お前達がいなければ、昨日のソルシエル・ウォーは負けていた。すまない。ありがとう」


 あまりにも意外な一言だった。


 頭を下げるシグリーと共にリエルも小さくお辞儀する。


 昨日までの血の気が抜けたのか?

 そう思わせるほど大人な対応だった。


 しかもこんな1年の教室のど真ん中で、俺達に感謝をするなんて。

 とても昨日までプライドに縛られていた人間の姿とは思えない。


 そう思ったのは俺だけではないようで、エクトやシャル、レニーをはじめ、クラスメイト達の全員がシグリーとリエルのお辞儀に虚をつかれていた。


「お前達の戦闘リプレイをテレビで見た。悔しいが、本当に悔しいが‥‥‥お前達の実力には感服した。だから足を引っ張ったことも謝罪する。すまない」


 わからないものだ。

 相手を認めて謝罪する。

 こんな大人でも難しいことを、シグリー先輩たちは今やっている。


 これほど大人の対応ができる彼らを、上級生のプライドというものは簡単に歪めてしまうものだったということか。


「いえ、シグリー先輩たちが前線で敵の注意を引いてくれていたおかげで俺とエクトは動きやすかった。それにギュスタ先輩がティランをうまく孤立させてくれたから俺はティランと一対一が出来て戦いやすかったです」


 決して俺とエクトだけで勝てたわけじゃないことを伝えるために、俺は思い付く限りの言葉を発した。


 するとシグリーがフと笑う。


「優しい奴だなレヴァン・イグゼス。そこのエクト・グライセンも見習ったらどうだい?」


「余計なお世話だ」


 腕を組んだエクトがそう吐き捨て、シグリーがやれやれと肩をすくめる。


 相性の悪い二人だが、以前のような険悪な雰囲気は二人の間にはもうなかった。


 それに気づいたのか、レニーとリエルもホッとしている。


「シグリー先輩。あの、ギュスタ先輩は?」


 俺は気になっていたことを聞いた


「ギュスタ先輩なら落ち着いている。今日もロシェル先輩と一緒に学校に来ていたよ。‥‥‥なんかやたらロシェル先輩と進展したみたいだがな。なぁリエル」


「そうね。朝から腕組んで通学してたし」


 シグリーとリエルの言葉を聞いて、経緯を知っている俺とシャルは顔を見合わせて笑った。


 ギュスタとロシェルは昨日のソルシエル・ウォーで戦闘不能になったから、もうソルシエル・ウォーには参加できない。


 参加権を失ったからだ。


 そのかわり新しい恋が実った。

 良かったと思う。


「ところでお前達はこれからどの将軍から潰すつもりだ?」


 突然のシグリーからの質問に俺達はまた虚をつかれた。

 するとリエルが口を開く。


「ここから攻められる都市『ローズベル』『ディオンヌ』『リウプラング』に将軍が配置されたじゃない? どいつから戦うのか聞いてるのよ」


 え?

 将軍が配置された?

 初耳なんだが。


「おい待て。将軍が配置されたってなんだ?」


 エクトが聞き返す。

 リエルが呆れたように溜め息を吐いた。


「ニュースぐらいちゃんと見ときなさいよ。さっき言った3つの都市に『獅子王リベリオン』『死神サイス』『暴君タイラント』が防衛チームリーダーとして配置されたの。たぶん、あんた達を警戒してのことだろうけどね」


 ええええっ!?

 とクラスメイト達が驚愕の声を張り上げた。


 お前らも知らんかったんかい。


「マジかよ‥‥‥」


 エクトが舌打ちする。


 さすがに俺も驚きで言葉を失っていた。

 まさか将軍クラスがこうも速く出張ってくるとは。

 大人気ない配置だが、これは戦争だ。


「ま、こっちの強さに合わせてくれるほど優しくはないか」


 俺が呟くと、エクトが。


「オレ達にビビってる証拠だろ」


「確かにな」


「あの、リエル先輩」


 エクトの隣にいるレニーが前に出た。


「なに?」


「その将軍たちの魔女はどのくらいの魔法が扱えるんですか?」


「全部よ」


「ぜ‥‥‥、」


 レニーが絶句した。

 俺の隣のシャルも口元を押さえて驚愕している。


「どの将軍の魔女も『魔法第二階層詩セカンドソール』から『最上階層詩ラストソール』まで詠める最高レベルしかいないわ。それに‥‥‥」


 リエルの次の言葉は俺達を見事に凍らせた。


「あいつら全員『スターエレメント』を持った『奇跡の魔女』なのよ」


『奇跡の魔女』がどれだけレアな存在かはみんな知っている。

 だからこそ余計に敵の大きさに畏怖されそうになる。


 魔法は全てのレベルが解放済み。

 それだけでも魔女として強力なのに『スターエレメント』持ちと来た。


 どんな能力なのかは分からないが、強力なのは間違いない。


「それから『暴君タイラント』からお前達に挑戦状が来ているらしい」


 凍った俺達にシグリーが言った。


 挑戦状という単語が凍った身体を溶かし、俺はシグリーを見た。


「挑戦状ですか!?」


「ああ。【ゴルト・タイラント】が送ったとテレビ局に公言していた。どうにもお前達と戦いたいらしい」


「しかもこっち側がかなり有利な好条件付きでね」


 リエルが言った。

 俺は「というと?」と聞き返す。


「二対一で勝負しようって言ってきてるの。タイラントは一人。レヴァンとエクトは二人ってことよ」


 まさかの二対一を向こうから希望してくるとは。


 舐められている。


 そんな気分にもなったが、それだけ相手が自分の実力に自信がある証拠とも取れる。


 シャルとレニーの魔法火力がまだ足りない今、この二対一という条件は数少ないアドバンテージになる。

 出来れば勝算の高いこの条件を飲んで挑みたいが。


「そもそもリリオデール国王様はオレたちが将軍とやりあうのを許してくれるかって話だがな」


 言ったのはエクトだった。


 そうだ。

 俺もその部分が心配だった。


 勝てる見込みの少ないこの挑戦に、リリオデール国王様が納得してくれるのだろうか。


 いま俺とエクトが負けて参加権を失えば、リリーザはまた窮地に陥ってしまう。


「おそらく無理だろう」


 真顔でシグリーが告げる。


「お互いの魔女に力の差がありすぎるからな。勝てるという理由を国王様に証明できない。武器だけの勝負なら、まだ勝算はあったのだろうが」


 シグリーの言葉にシャルとレニーが俯く。

 それを見たリエルが慌ててフォローした。


「そもそも学生対軍人のソルシエル・ウォーなんて歴史上に例がないのよ。学生が軍人に勝てるわけないし、力の差があって当然なんだから」


 歴史上に例がない、か。

 ならばなおのこと挑戦したい気持ちが沸く。

 俺達が歴史を刻むことができるわけだし。

 それに俺の夢のためにも、このまま止まるわけにはいかない。


「エクト。作戦を練ってタイラントの挑戦を受けよう。勝てる作戦を考えれば国王様にも説明できる」


「そうだな。ここで立ち止まっているわけにもいかねぇ」


「え!? 本当に戦う気なの!?」


 レニーが驚きの声をあげた。


「当たり前だ。悪いが付き合ってもらうからな」


「なんでそんなにチャレンジャーなのよ‥‥‥」


「挑戦を受けるなら、少し先輩らしいことをしてやれるが」


 シグリーの発言に俺達は「え?」と振り向く。


「僕がエクト・グライセンの保険になろう。そしてレヴァン・イグゼス。君はディオネが保険になると言っている。この事を国王様に伝えておけば、必ずタイラントの挑戦を受けさせてもらえるはずだ」


「どういう事ですか?」


「ソルシエル・ウォーのルールだ。学生同士のみが許されたルールなのだがな。お前達が仮に負けたとしても、参加権を失うのは保険役となる僕とディオネだ。お前達の参加権は失われない」


「そういえばそんなルールがありましたね。いや、でも、」


 俺が言いかけている途中で、シグリーが首を振る。


「これは他の2年・3年にも了承を得ている。この学校の全員からだ。みんなお前達の実力を認めているからな。あの将軍たちとまともにやり合えるのは、お前達しかいないと思ってる」


 まさか、あんなに下級生を馬鹿にしていた上級生たちに支援してもらえるなんて思ってもみなかった。


 実績に勝る証明はないということだろう。


「シグリー先輩、あの、なんていうか、ありがとうございます!」


 俺は感謝の意を籠めて頭を下げた。

 隣でシャルも一緒にお辞儀する。


「よせレヴァン・イグゼス。僕は昨日の借りを返したいだけだ。リリーザの領地を少しでも取り返せる可能性があるのなら、僕の参加権くらいくれてやるさ」


 言うだけ言って、シグリーはリエルを連れて教室から出ていった。


「‥‥‥まさかあいつらに助けられる日がくるとは思ってもみなかったぜ」


 エクトが締まりの悪い顔で言った。

 

 エクトも散々シグリーたちを馬鹿にしていたから気持ちが悪いのだろう。

 俺もそうなのだが。


「そうだな。でもせっかく背中を押してもらってるんだ。シグリー先輩とディオネ先輩たちのご厚意を使わせてもらおう。二人の参加権を保険にすると国王様に伝えるんだ。もちろん、勝てる作戦も考えてからだがな」


 負けても大丈夫になったからと言って、負けては話にならない。


 やはりこの勝負、挑むからには勝たねばならない。


「なにか作戦あるのレヴァン?」


 シャルに聞かれ、俺は頷いた。

 

 さっき思い付いた作戦だ。

 だがこれはかなり有効かもしれない。


「エクト。お前昨日のソルシエル・ウォーで『アイスオーダー』を使わなかったよな?」


「あ? ああ。まぁな」


「よし。ならそれでいこう」


 相手にバレていない武器が一つだけある。


 魔法で勝てないなら、エクトの『アイスオーダー』に賭けるしかない。

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