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第152話『最速の魔女レニー 覚醒の時』

 今ならわかるぜレヴァン。

 なんでお前があんなに強くなれたのか。


 ベオウルフのブレスと、ライザの『ブルーストライカー』を避けながらエクトは例の言葉を思い出す。


『『あの夜』から俺の中で覚悟みたいな何かが繋がった気がするんだ』


 あの時のレヴァンの意味不明だった言葉。

 当時は理解できなかったが、今のオレなら分かる。


 覚悟を決める。

 誰にでも口にできる安っぽい言葉だが、心から本気でそれを実行できる奴は少ない。


 故に、真に覚悟を決めた人間というのは恐ろしく強くなるのだ。


 レヴァンは、あの時から本当に覚悟を決めていたのだろう。

 だからあんな敵でなくて良かったと思えるほどのレベルにまで成長したのだと思う。


 その点オレは、覚悟を決めるのが遅かった。


 昨日だ。

 まさに昨日、レニーからの告白でやっと覚悟を決めることができたんだと思う。


 男は父親になるのが遅いと、誰かが言っていた気がするが、まさにオレがそうなのかもしれない。


 だが、オレも覚悟みたいな何かが繋がった。

 言葉では言い表しにくい何かが。


 だから──


『『アイスレイザー』!』


 突如耳に響いてきたのは氷の『魔法第五階層詞オーバーソール』の名だ。

 唱えてきたのは『ブルーストライカー』を引っ込めた敵の魔女ライザである。


 すると左前足を回復させた巨狼エルガーの左右に青い光の球体が現れた。

 エクトの周りを疾走する巨狼エルガー。

 彼に追従するその二つの球体から、輝く青い光線が放たれる。


『アイスブラスト』よりも弾速がある。

 しかも二つの球体は正確にこちらを捉えて何発も光線を撃ってくる。

 まさに『アイスブラスト』に連射性を追加したような厄介な魔法になっているのだ。


 エクトは舌打ちをして荒野を駆けた。

『アイスレイザー』は厄介だが、狙いが甘い。

 ライザはこちらの速度に追い付けていないようだ。


『ちくしょう! 速すぎて狙いがつけられない!』


 当のライザが声を荒げた。

 オレは構わず2丁の『ステラブルー』で攻撃を続ける。

 レニーも指示通り『ブルーストライカー』でオレと同じ場所を狙い続ける。


 しかし破壊してもすぐに再生されてしまう。

 さっきからこれの繰り返しだ。


 これではラチがあかない。

 やはりどうにも手数が足りないようだ。

 ここに来てオレとレニーの最大の悩みだった火力不足がいよいよもって際立ってきた。


 レニーが『アイスブラスト』を覚えたことで火力不足を補えたと思っていたのだが、その『アイスブラスト』では決定打にならないときた。


 レヴァンとシャルの火力なら、あんな氷の外郭なぞ簡単に剥がしてしまうだろうに。


「どうにも手数が足りねぇな。奴を削り切れねぇ」


 そう言葉を漏らすといきなりレニーが『エクト』と呼んだ。


「ん?」

『ありがとう』


 何故か急に涙声になってお礼を言ってきたレニーに、オレは虚を突かれた。


「な、なんだよ急に! なんで泣いてんだお前は!?」

『なんか、感極まっちゃって……凄いよエクト。こんなに強くなって……』


 感動するレニーにオレは意味が分からないまま敵の攻撃を避け続ける。


「だからなんだってんだよお前は!」

『嬉しいの! 子供ができたかもしれないって教えただけで、ここまで強くなってくれる人だったのが、本当に嬉しくて……ありがとうエクト……大好き』

「お前……」

「本当にカッコいいよ今のエクトは。あたしが見てきた中でも、今のエクトは本当に最高にカッコいい!」


 カッコいい、か。

 腹を括るのがレヴァンより遅れていたってのに。

 でも、なんだろう……腹の底にまで染み渡る言葉だ。

 レニーが言うからだろうか。


「……バーカ。オレを褒めちぎってる場合かよ。今は目の前のこいつを何とか倒さねぇと」

『大丈夫よ』

「え?」

『エクトは、あたしがこのまま妊娠確定したら、御両親への報告とか、学校の事とか、うちの両親の事とか、全部面倒見てくれるって言ってくれたよね?』

「ああ。当然だろそんなの」


 それが男の責任だと思うし、女に不安を抱かせないのもまた男の責任だと思うのだ。


『……ありがとうエクト。なら、この戦いはあたしに任せて!』

「は? 何言ってんだ急に?」

『信じてエクト』

「いや、だから」

『あたしは『最速の魔女』レニー・グライセンよ!』


 レニーが誇らしげに声を上げて名乗った。

 グライセン!?


「何をゴチャゴチャ言ってやがる!」

『余裕ぶってんじゃないわよ!』


 ベオウルフとライザの怒声が響いた。

『氷の巨狼』が疾風怒濤に攻めてくる。


 オレは敵を見据えて身構え──その時だった。


 敵に巨大な氷結晶が隕石の如く振り注いだ。

 同時に、エクトの左右に青く輝く光りの球体も召喚され、それは光線を乱射し始めた。


「なにぃ!?」

『うそ!?』


 ベオウルフとライザが驚愕する。


 おいおいマジかよ!


魔法第五階層詞オーバーソール』の『アイスレイザー』。

魔法最上階層詞ラストソール』の『アイスレイン』。


 レニーが、二つも魔法を覚醒させた!?


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