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第151話『大人の二人』

「レニー! オレと同じ場所を狙え! 集中砲火だ!」


 エルガーの正面に立つエクトが、己の魔女に指示を出した。


『了解!』と、あのレニーとかいう無能の魔女が返事をする。


 なるほど。

 火力が足りないなら手数でって魂胆か。

 

「無駄なことを!」


 エルガーは吠え、荒野を蹴って跳躍した。

 巨狼を空中へ飛ばしたエルガーは、そのままエクトのいる方へ爪を振り下ろす。

 

 あまりにも単調な攻撃だが、これは次のブレス攻撃への布石。

 こちらの破壊力ゆえにエクトは大きく飛んで回避せざる終えない。

 大きく飛ぶ回避はそれだけ着地後に硬直を生む。


 エルガーが狙うのは、まさにそこだった。

 この爪を避けて飛んだ先を狙う。

 レニーの『アイスシールド』が密集する前にフルパワーのブレスを叩き込む。

 それで奴は落ちる!


「おらぁああ!」


 威勢の良い声と共に振り下ろした爪は──


「──は?」


 自分でも驚くほどあっさりと、目の前のエクトを真っ二つにした。


『やった!』


 ライザが弾んだ声を発した。


「いや! 違う! 手応えがねぇ!」


 敵の感触に気づいたエルガーが声を上げた。

 案の定、真っ二つにしたエクトは霧のように消える。


 残像!

 しまった!

 獅子王のおっさんの時にも使っていたのに盲点だったぜ!


 ドドン!


「っ!?」


 2発の銃声が響き、同時に左前足に弾丸が叩き込まれた。

 さらに『ブルーストライカー』による光線も何発かぶち込まれる。

 左前足の氷が大きく削れていく。


「く! このガキ!」


 残像に騙され反撃が遅れた。

 咄嗟に放ったブレスも当然のようにエクトは回避し、また左前足に弾丸と光線が飛来する。


 氷の外郭がさらに削られる。


 くそ!

 話が違うじゃねぇか!

 エクト・グライセンは、あのレヴァン・イグゼスと比べて大して伸びてないって話だったろ!


 何なんだよこいつは!

 明らかに情報よりも強いじゃねぇか!


 エルガーが苛立ちを募らせていると、ライザが展開していた『ブルーストライカー』で反撃し、エクトを狙って弾幕を張った。


 それに合わせ、エルガーもブレスを再度放つ。

 対するエクトは途端に『青いオーラ』を全身から発し、その弾幕を潜り抜けてきた。


「は!?」


 なんだありゃ!

 なんの魔法だ!?

 青いオーラが出る氷魔法なんて存在したか!?


 いったい何なんだよあれは!


「ぉおおおおおおおお!」


 エクトがライフルを連射しながら、雄叫びと共に烈火の如く迫ってくる。

 奴に追従する『ブルーストライカー』もまた光線を乱射しながら突撃してきた。


 そのあまりの迫力に気圧されそうになる。


「ライザ! 奴を近づかせるな! 弾幕を張れ!」

『やってるわよ!』


 しかし、ライザの『ブルーストライカー』は全てレニーの光線に撃ち落とされた。


「くそったれ!」


 がむしゃらにブレスを吐いた。

 当然、当たらなかった。


 エクトは残像を大量に残し、青いオーラを全身で引きながら、ゼロ距離まで詰めてきた。


 速い!止められない!

 ガンナーのくせにこんな距離で何を!?


 エルガーの疑問はすぐに解答された。

 散々ライフルや光線で削られた左前足。

 そこに辿り着いたエクトが放った攻撃は。


「おぅらあっ!」


 気合いの入った声と共に撃ち放ったのはキックだった。

 そのキックの衝撃は左前足のトドメとなり、バコォンと崩壊音を響かせ弾けとんだ。


「蹴りだとぉ!?」


 エルガーは驚愕した。

 左前足を破壊された巨狼は態勢を崩しかける。


 その隙をエクト・グライセンが逃すはずもなく、さらに怒濤の追撃を掛けてきた。


 残像を生むほどの速さ。

 謎の青いオーラ。


 やべぇぞこいつ。

 これじゃあノアを助けるどころか、こちらがやられちまう!



「凄いな……」


 エクトの戦いを観客席で眺めていたシェムゾが、思わずそう呟いた。


「ええ、本当に凄いわ……あの子」


 隣に座る愛妻グラーティアも同意だったようで、あまりの凄さに眼を奪われている。

 グラーティアだけではない。

 他の観客たちもエクトの戦いに魅了されている。


 皆が『スターエレメント』を前にして一歩も怯まないエクトに驚いているようだ。


「俺の知っているエクト君の動きじゃない。いったい何があったんだ?」


 シェムゾは顎を撫でながら呟く。

 レヴァンと共に彼の面倒も見てきた身だ。

 だからエクト君がどれほどの実力かは把握していたつもりだったのだが。


 あのエクト君が発している『青いオーラ』。

 あれは恐らく、彼の闘争心が可視化したものだろう。

 戦士は、あるレベルにまで達するとオーラが出る。


 レヴァンはとっくにオーラを出していた。

 しかし昨日までのエクト君にはそれがなかった。


 いったい、何があったのだろう。

 何が彼を強くした?

 何が彼のリミッターを外した?


 考えられるものと言えば……まさか、レニー君が?


「ねぇあなた」


 突如グラーティアに呼ばれ、シェムゾは我に返った。


「ん? 何だ?」

「レニーちゃんなんだけど、あの子、いよいよ有り得ない領域に入ってるわ」

「有り得ない領域?」

「さっき魔法を3つ同時に使っていたことに気づいた?」

「ああ。それならさっき見たな。『アイスシールド』と『ブルーストライカー』を展開させたまま『アイスブラスト』を撃っていた」

「ええ。3つ同時に魔法を唱えるなんて、あの子いったいどんな脳みそしてるのかしら」


 たしかに、レニー君のあの芸当はまさに神業だ。

 例えるなら、脳の中で歌を3つ同時に歌うのと変わらないのだから。


「実を言うとねあなた。レニーちゃんがやってるあの『同時詠唱』はシャルちゃんが考えたものなの」

「そうなのか?」


 グラーティアは頷いて続けた。


「シャルちゃんいわく『凄い同時詠唱』らしくて、口での詠唱を封じて、脳に神経を集中させるの。そして脳を多層化して複数の魔法を同時に詠唱する」

「脳の多層化? そんなことが人間にできるのか?」

「有り得ないでしょ? でも見て。レニーちゃんがすでにやってるわ」


 ……たしかに、間違いなくレニー君は3つ同時に魔法をやっていた。

 

「シャルちゃんもレニーちゃんも、相手が『スターエレメント』を持っているのは分かっていたから、何も準備をしていなかったわけじゃないわ。ただ、あまりにも難し過ぎることにチャレンジしていたのよ。まさか土壇場でレニーちゃんがあれを成功させるなんて思わなかったけど」


 特訓ではシャルもレニーもどちらも同時詠唱以上のものは使いこなせていなかったな。

 シャルに至っては同時詠唱すらままならなかったようだが。


「レニー君は土壇場に強い子なんだろう。それか、もしかしたら……」


 エクト君と同じ理由で、限界を越えたのかもしれない。


 凄いな本当に。

 彼らが敵でなくて、本当に良かったなレヴァン、シャル。


 あんな化物染みたオーラを出す戦士と魔女だ。

 彼らが敵だったらと思うと、さすがの自分でもゾッとする。


 この二人の突然の強化は、自分の予測が正しければ、レニー君がエクト君の子供を宿したに違いない。


 それならば、あの強さにも納得ができる。

 何故ならば、腹を括った男女というのは強いのだ。

 理屈抜きで、本当に強くなる。


 強くなければいけないと、本能的にわかっているからだ。


 それでいい。

 年齢じゃない。

 大人になるということは、腹を括って強くなるということなんだ。


 このまま攻めて勝利を掴め!

 君たちはもう、大人になれる力を持っている!


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