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第146話『決戦目前』

 そして、朝を迎えた。

 決戦を控えているというのに静かな朝だった。


 帝国ホテルのスタッフたちもどこか緊張を張り詰めさせてさせている様子でぎこちない。


「準備はできているな?」


 シェムゾが帝国ホテルの出口前で立ち止まり、俺たちに向かって確認する。


 俺は振り返り、まず正面のシャルを見た。

 シャルはいつになく真面目な顔で頷く。

 俺も頷いて返し、シャルの左右にいるエクトとレニーも見やる。

 するとエクトとレニーも問題ないと言った表情で頷き返してきた。


 みんなに問題がないことを確認し、俺はシェムゾの方へ視線を戻した。


「問題ありません。お義父さん」

「よし。いくぞ」


 俺たちは帝国ホテルの外へと出た。



『たった今レヴァン選手たちが帝国ホテルから出て参りました! これからアカシエルのコロシアムへ向かうようです!』


『ついに来ましたねこの時が』


『はい。『暴君タイラント』『獅子王リベリオン』『死神サイス』と、グランヴェルジュの猛者たちを破ってここまで来たレヴァン選手とエクト選手。果たしてこの試合も無事勝利を掴めるか!』


『信じましょう彼らを。みなさんは覚えているでしょうか? 彼らが最初に活躍した『エメラルドフェル』でのソルシエル・ウォーの時。その時と比べると、とても強いオーラを感じます』


『確かに。強者のオーラですかね』


『そうですね。本当に、よくぞここまで来てくれたと思っています』


『この短期間で『リウプラング』と『ローズベル』を取り戻し、今回の戦いでは『ディオンヌ』を取り戻そうとしているレヴァン選手とエクト選手。期待が高まります!』


 そんなテレビの実況を、リリオデールは顎を撫でながら聴いていた。


 無駄に広い『リオヴァ城』にある自室で、青いソファーに腰を下ろしながら息を吐く。


「心配なのですか?」


 こちらの顔を覗き込んで言ってきたのは愛妻フレーネだった。

 まだまだ老いを感じさせない若い顔が視界を覆う。


「フレーネ。レヴァン君たちは勝てると思うか?」


 挑戦状を送る許可を出しておいて今更ながら不安になっていた。

 聞けば『剣聖』と『戦狼』はあのグランヴェルトの手ほどきを受けているとのこと。

 その情報が、挑戦状の許可を出したリリオデールを後悔の海に沈めた。


 グランヴェルトからの手ほどきと、彼らの持つ詳細不明の『スターエレメント』。


 とてつもなく『剣聖』と『戦狼』が強くなっていたらどうしよう?


 彼らの『スターエレメント』がとんでもなく強力なものだったらどうしよう?


 考えれば考えるほどに不安が沸き上がってくる。


「大丈夫ですよあなた。ほら、レヴァンさんやエクトさんの顔を見てください」


 言われてリリオデールはテレビに視線を戻した。

 フレーネが続ける。


「とても凛としていて自信に満ち溢れた顔をしています。負ける気なんてサラサラない。そんな顔です。信じましょう。彼らを」


「……そうだな」



『エメラルドフェル』の『魔女契約者高等学校ブレイバーズガーデン』では、今日の授業を中止にしてレヴァンたちの試合を応援することになっていた。


 全生徒が体育館に集合し、ステージの上に設置された巨大なディスプレイに注目する。

 ギュスタもまた、その生徒の一人となっていた。


 ディスプレイには『アカシエル』の街中を歩くレヴァンたちの姿が生中継され映っている。


「いよいよですねギュスタ先輩」


 隣に立つシグリーに言われて「ああ」と短くて返事をする。


「勝てるのかしらあの二人。相手の二人も相当ヤバそうな顔してたわよ?」


 背後でリエルが不安そうな声を出した。


「大丈夫よリエル。きっと勝つわ。ねぇギュスタ」


 ロシェルの言葉に「もちろんだロシェル」としっかり返した。

 正直、あのレヴァンとエクトが負けるなんて想像がつかない。

 いや、見たくない。


「レヴァン勝てよ!」

「お坊っちゃんも負けんな!」

「シャルがんばって!」

「レニーさんもファイト!」


 レヴァンたちのクラスメイトたちが口々にざわめく。

 そしてその担任であるオープ先生も。


「みんな! 試合が始まったら全力で応援するぞ!」


 と声を掛けていた。

 彼の隣に立っている魔女アノンが「おおー」と言うと、クラスメイトたちも一斉に「おおおおー!」と声を張り上げた。

 仲の良いクラスだと思っていたが、さすがである。


 そうだ。

 我々は、レヴァンたちの応援をするしかできない。

 

 みんな見ている。

 がんばれよレヴァン!



「ついに残りの将軍との戦いか」


『リウプラング』の『魔女契約者高等学校ブレイバーズガーデン』の全校生徒が集まった体育館で、レイリーンがそれとなく呟いてきた。


「そうだね。でもエクトさんたちなら、きっと勝てるよ」


 マールはディスプレイに映るエクトを観ながら言った。


「私もそう思う」とレイリーンが笑いの混じった声音で返してきた。


「シャル、がんばってね」

「レヴァン。応援しかできねーが、がんばれよ! 勝ってくれ! 頼む!」


 マールとレイリーンの背後で、ロイグとロミナが祈るように両手を絡めて呟いている。


 ……みんな応援しています。

 勝ってください。

 エクトさん!


※ 


【ソルシエル・ウォー】

〈バトル形式〉チームデスマッチ(2対2)

〈戦場〉荒野

〈勝利条件〉敵の全滅

【チーム・『蒼炎』『要塞』】VS【チーム・『剣聖』『戦狼』】


 ノアは大型ディスプレイに記された今回のルールを確認する。


 コロシアム内部にある巨大なフィールドに足をつけた。

 そこは晴れた空の下に広がっている。

 フィールドを囲む観客席と、それに座る観客たちの声援がやかましく響く。

 

 まだ【SBVS】も展開されていないフィールド『北エリア』で、ノアはエルガーと共に試合が始まるのを待っていた。


「さて、俺たちの生活を脅かす悪い虫は、駆除しなくちゃぁな」


 エルガーが腕を組ながら不敵に嗤ってそう言った。

 悪い虫、とはレヴァンたちの事だろう。

 まったくの同意見だ。


「焦るなよエルガー。作戦通りにやるんだ」

「わかってるよ」

「ならいいけど。リビエラも行けるね?」

『はい。問題ありませんノア様』

「良かった。ライザは?」

『有ったらとっくに言ってるわよ』

「ふふ、なら良かった。この試合には他の将軍もそうだがグランヴェルト様も見ている。負けるわけにはいかないよ?」


 ノアがみんなに言うと、エルガーが真っ先に返事をした。


「負けねーよ。そのために良い歳こいて特訓なんかやったんだからな」


『エルガー様の言うとおりです。我々は負けません。私には『同時詠唱』と『トゥインクル・レイド』があります』


『そうね。アタシにも『同時詠唱』と『ブリザード・フェンリル』があるわ。あのシャルってガキはまだ『同時詠唱』使えないみたいじゃない?』


「油断するなリビエラ、ライザ。たとえシャル・ロンティアが『同時詠唱』を使えなくても、彼女には『ゼロ・インフィニティ』がある。あの火力はそれだけで驚異だ。絶対に侮るな」


 念を押すようにノアは言った。



『南エリア』で試合の開始を待つ俺と、その隣に立つエクト。

 シャルとレニーとのリンクも済ませ【SBVS】の展開を待つ。


「……お前の隣に立つのも、これで最後だな」


 突然、そんなことをエクトが言ってきた。

 俺は驚いた。

 シャルとレニーも驚いたような気配を感じさせる。

 

 当のエクトの方へ俺は視線を向けた。

 しかしエクトはこちらと視線を合わせるつもりはないらしく、前を向いたままだった。


 それでも俺は言葉にした。

 この戦いについてきてくれた親友に。


「……ありがとうエクト」


「そのセリフは勝ってからでいい」


 素っ気なく言われ、でもそれが逆にエクトらしくてホッとした。


『フィールド上のソールブレイバーは『魔女兵装ストレイガウェポン』を装備してください!』


 やっと流れたアナウンスに従い、俺は『大口径リボルバーブレード』の『グレンハザード』を召喚した。


 エクトは『スナイパーライフル』の『アイスオーダー』を召喚。


【SBVS】が展開され、フィールドは『荒野』と化す。


 いよいよ始まる。


『5・4・3──』


 カウントダウンが始まった。


 やっとノア将軍と会える。


 首を洗って待っていろよ。

 俺に嘘をついたことを後悔させてやる!


『2・1……戦闘開始!』


「シャル! エクト! レニー! いくぞ!」


「「「おおっ!」」」


 俺とエクトは一気に駆け出した。


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