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第145話『二人は父親』

「レニーにも子供が!? 本当かよエクト!」


 雨が止み、夜風が気持ちいい星空の下、帝国ホテルの屋上で俺はエクトに聞き返した。


「ああ。まだ確定じゃねぇみてぇだがな。『あの日』が来ねえんだとよ」


 腕を組んでどこか落ち着きなさそうにしかながらエクトが答えた。

 

 夕食と風呂を終えて、そして話があるとエクトに呼ばれてここまで来たが、予想以上にめでたい話だった。


「そうかぁ。ついにレニーも」


 正直、エクトがレニーに仕込んでたって話は列車で盗み聞きしてたから知っていたのだが。


「なんだよ。あんまり驚ろかねぇな?」


「いやいや驚いてるぜこれでも。お前ってばレニーといつの間に」


 嘘っぽくなってないか心配な返しだったが、エクトは特に問い詰めては来なかった。


 するとエクトはそのまま屋上の欄干に手を乗せて、小さく息を吐く。


「……正直、実感沸かねぇんだよな。父親になったっていう実感」


「そりゃそうだろう。まだ産まれてないしな」


「お前もそうなのか?」


「いや、俺はもう確定してるし、父親になったつもりではいるよ。無事に産まれて、抱いて、それから初めて父親になったってことになるんだろうけどさ」


「そうか……ま、そうだよな」


 言ってエクトは夜空を見上げた。


「けど、まぁ、実感は沸かねぇけど、想像以上に嬉しいもんだな」


「だよな! やっぱ嬉しいだろ?」


「ああ。オレとレニーの子供。そう考えるだけで、なんか、無性に嬉しくなる」


「わかるぜ。俺もシャルが妊娠してくれた時は泣きまくったからな」


「泣いたのかよ!?」


「当たり前だろ? 人生初の子供だぞ? 来てくれたんだぞ? 俺とシャルのところに」


「来てくれた?」


「ああ、俺とシャルはそう思ってるよ。だから『ありがとう』って言うんだその子に。……本当は先に『ごめん』って言わなきゃダメなんだけどな。俺たち」


「なんで?」


「知ってるだろ? 強くなるために、自分を奮い立たせるためにシャルのお腹に来てもらったんだ。だから──」


「謝るくらいなら行為に及んでんじゃねぇよ」


 ピシャリとエクトの言葉に叩かれた。


「オレがお前のガキならそう言ってるぜ?」


 付け足すように言って、エクトは俺をまっすぐに見てくる。


「その子の事を思うなら結果を出せ。グランヴェルトに勝てるのは、この世でお前とシャルだけなんだからな」


 列車で話していたグランヴェルトの『魔法無効化』。

 これを破れる可能性があるのはシャルの持つスターエレメント『ゼロ・インフィニティ』のみ。


 この世で俺とシャルしかグランヴェルトに勝てないというのは、過言ではないのだ。


「……そうだな。ありがとう。エクトの言うとおりだ」


「わかりゃいい」


「明日の試合、絶対に勝とうなエクト!」


 俺はエクトに向かって拳を突き出した。


「当然だ。オレもお前もこんなところで躓いちゃいられねぇからな」


 エクトも拳を突き出して、互いの拳をゴンと突き合わせる。


「オレとレニーがお前に力を貸せるのはこれで最後になるだろう。『ベオウルフ』の方はオレに任せておけ。奴は個人的に気に食わねぇからオレの手で倒したい」


「わかった頼むよ。俺もノア将軍と戦いたかったからな」


「なら決まりだな。負けんじゃねーぞ?」


「負けるかよ。父親ってのは無敵なんだ」


「だったらオレも無敵だな。問題ねぇな」


「さっきまで実感沸かねぇとか言っといてお前」


「さてなんの事やら……」


「お前な!」


 俺はエクトのすっとぼけに大きく笑ってしまった。

 エクトもまた、俺に釣られてか一緒に笑い出す。


 こんな風にエクトと笑い合うのは、凄く久しぶりな気がした。


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