第144話『エクトとレニーの』続
「『出来た』って……まさか、赤ちゃんか!?」
レニーがお腹に手を当てていることに気がついて、ようやくエクトは察した。
当のレニーは顔を赤くしたまま小さく頷き、学生服越しにお腹をさする。
「まだ確定したわけじゃないから言おうか迷ってたんだけど……未だに『あの日』が来ないから……もしかしたら、もしかするかもって……」
「マ、マジか……」
やばい。
なんか、いま、めちゃくちゃドキドキしてる。
あ、えと、こ、こんなときって、なんて言えばいいんだ?
う、レニーがオレの顔を見て、不安そうな顔をしている。
顔は赤いのに、オレの反応で不安そうだ。
まずい。
なんか言ってやらないと、勘違いされそうだ!
何を勘違いするのかは分からないが、勘違い?
いやいやいやいや落ちつけオレ!
くそ!
こんなことならレヴァンがどんな反応してたか見ときゃ良かった!
とにかく!
今の気持ちを素直に言うんだオレ!
「レニー!」
「?」
オレはレニーの両肩を掴んで、真っ直ぐに見つめて口を開いた。
「結婚しよう!」
「!?」
いやこれ言ったし!
とっくに言ったし!
婚約者相手に何言ってんだよオレは! 馬鹿か!?
レニーは目を丸くして、何度も瞬きをしている。
もうめちゃくちゃ反応に困ってるよこれ。
「ゴメン! 間違えた! その──……ぁ、ありがとう!」
言ってレニーを抱きしめた。
「あ……エクト……」
「あ! 痛いか? 大丈夫か!?」
嬉しすぎてうっかり抱きしめる両手に力が強すぎたかと不安になって、オレはすぐさま緩めた。
「大丈夫よ……できればもっとギュッてしてほしいな……」
オレの耳元でそう囁きながら、レニーはオレの背に手を回してきた。
それに応えるように、レニーの全身を包み込むつもりで、オレはレニーを抱きしめ返す。
レニーの柔らかく、温かい肢体が密着した。
今この身体にオレとレニーの子供が育まれようとしている。
そう思うと、何とも言えない不思議な気持ちになった。
その不思議な気持ちが逆にオレに落ち着きを与えてくれて、やっとレニーに感謝の言葉を紡ぎ出せた。
「ありがとうなレニー。お前、本当に良い仕事しかしねぇな」
「そ、そうかな?」
「そうだよ」
言って、オレはレニーの頭を優しく撫でた。
「何も心配いらねぇからなレニー。御両親への報告とか、学校の事とか、うちの両親の事とか、まぁそれらの面倒事はオレにまかせておけ。オレが責任を持って片付けてやる」
「エクト……」
当然だよな。
オレはレニーに『こうなること』を頼んだ身だ。
レニーはそれを果たしてくれた。
ならばその結果によって生じる面倒事は、オレ自らが片付けるべきだ。
それが女を孕ませた男としての責任だと思うのだ。
レニーには安心してお腹に宿った新しい命を育んでほしい。
「レニー……本当に、本当にありがとうな」
「あたしこそ、ありがとうエクト。……愛してるわ」
「オレも……愛してるよ」
ちょっと昔のオレでは決して言えなかった恥ずかしい言葉も、今なら難なく言える。
レニーが相手だからだろう。
気持ちを告白して、オレはレニーとそのまま唇を重ねた。
もう何度目かのキス。
それでも今回のキスは、いつもより甘いような気がした。




