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第144話『エクトとレニーの』

「おいノア。リビエラのこと、あれでよかったのか?」


『教会』の渡り廊下でエルガーは前を歩くノアに言った。


「なんの事だい?」


「とぼけやがって。リビエラはどう見ても子供のこと引きずってんじゃねーか」


「そんなの育てる価値のある数値を持って産まれてこなかった赤ちゃんに言ってくれ。僕に言われても困る」


 冷酷な男だぜこいつは。

 勝手に産み落としといて、物心ついた時には親がいないって状況を少しは考えてやれってんだ。

 自分とライザがまさにそれだったので笑えない。

 数値も測らず棄てられていた事を考えるに、よほど無責任な理由で自分を孕みやがったに違いねぇ。


「君とライザは子供を作らないのかい?」


「作らねーよ。ライザもいらねって言ってるしな。俺とライザは美味い飯毎日食って優雅に暮らせればそれでいいのさ」


 教養もへったくれもない自分とライザに親が勤まるとも思えねぇ。

 それに、なんの罪もねぇガキどもを犠牲にしてまで守るこの国の秩序とはそもそもなんだ?


 いったいなんの価値があるんだか。

 理解に苦しむ。


 こんな疑問を持つ故に、無責任に子作りなどできないし、したくない。

 ライザもその辺は自分と同じ考えだ。


 それでもこの国の秩序ゆえに、自分とライザが美味い飯にありつけているのも間違いないから皮肉なもんだ。


「自己中だね君は」


「褒め言葉だ」


「やれやれ……それより明日の話だ」


 ノアは休憩室と書かれた扉を開けて入っていく。

 エルガーもそれに続いた。


 内部は丸いテーブルが一つと、小さな椅子が3つ。

 部屋の隅には自販機もある。


 椅子にドカッと座ったエルガーは足をテーブルに乗せた。


「で? 明日の話ってなんだ?」

「エクト・グライセンの『潜在能力値』を聞いたね? 君と同じ『970』だ」

「ああそれか。クソ面白くねぇ話だ」


 あんな生意気なガキと同レベルってだけで腹が立つ。


「そしてレヴァン・イグゼスの方だが、さっき聞いたとおり彼は『78』しかない」


 これだ。

 正直、信じられねぇ。

 グランヴェルジュの常識がひっくり返るレベルだ。


「そんな数値の奴にここまで追い詰められるとはな」


「僕も驚きだよ。これ以上、こんな数値の無能に勝ちをやってはいけない」


「作戦はあんのか? そのレヴァンってガキは数値はともかく、かなりのレベルになってるって話だぜ?」


「そうだね。彼と1対1で戦うのは無謀だろう。できるならば2対1にしたい」


「どうやってだ?」


「雑魚を先に片付ける。最初に撃破するのはエクト・グライセンだ」



「へ、ヘァックシュッ!!!」


「ちょ、ちょっと! 手を当てなさいよ!」


「わ、わりぃ」


 帝国ホテルのエクトの部屋で、盛大な嚔を放ったエクトは、素直にレニーに謝った。


 ちょうど今、レニーに起こされたところなのだが、なぜ起こされたのかわからない。

 ホテルの晩飯タイムまで寝かせてくれって頼んだのに。


「まだ5時じゃねーか。晩飯ってたしか7時だろ?」


「う、うん……その、ごめん」


 レニーが奇妙なほど素直に謝ってきた。

 なんだ?


「どうしたんだ?」

「実は、その、エクトの耳に入れておきたいことがあって……」


 あのレニーが物凄く顔を赤くしてモジモジしている。

 いや、顔はよく赤くしてるが。


「なんだよ?」


 聞いてみて、レニーがまた顔を赤くして俯いてしまった。


 おいおい。

 なんだってんだいったい。


「──……ぃなの」


 掠れてほとんど聞き取れないレニーの声。


「あ? なんだって?」


「だから、その……『出来た』かもしれないの。あたしも……」


「──────……え?」


 エクトは今、何を告白されたのか、しばらく理解できなかった。



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