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第139話『シャルとリビエラ』

【レヴァン・イグゼス】

『蒼炎』の名を持つリリーザの戦士。


【シャル・ロンティア】

『ゼロ・インフィニティ』を持つレヴァンの魔女&幼馴染。

今はレヴァンの子供をお腹に宿している。


【リビエラ・ノブリスオージェ】

ノアの魔女&妻。

『スターエレメント』持つグランヴェルジュの有力者の一人。

「ここがアカシエルの『教会』だ」


 サイスに案内されたのは『教会』と呼ぶには余りにも大きい城のような建物だった。

 リリーザにも『教会』はあるが、こんな大袈裟な建物ではない。

 丸いステンドガラスと高い天井。

 薄めの外壁で尖った屋根。

 あと鐘がある、ぐらいか?


 しかしグランヴェルジュの『教会』はまさに城だ。

 鐘もステンドガラスもあるが、本当にお飾り程度のものと化している。

 分厚い外壁と大きな扉。

 その『教会』の周りには広く手入れされた庭が広がっている。

 

 その庭で、この『教会』のシスターの格好をした女性たちが子供たちと遊んでいるのが見えた。

 

 まるで保育園だ。

 そもそもなんでこんなところに子供を?


「思った以上にデカいですね」


「当たり前だ。これくらいないと子供が入りきらんからな」


 俺の言葉にサイスは当然とばかりに返事した。


「あの、サイスさん」とシャルが小さく口を開く。


「なんだ?」


「グランヴェルジュって子供を保育園や幼稚園じゃなくて教会に預けるものなんですか?」


「いや」


「じゃあどうしてここへ? それも産まれたばかりの赤ちゃんまで」


 それは俺も気になっていた。

 ノア将軍の赤ちゃんがここにいるということは、少なからず『教会』というのはグランヴェルジュではそういう施設なのかと思っていたのだが。


「シャルさん……それは」

「いいベルエッタ。俺が説明してやる」


 どこか言いづらそうにしていたベルエッタを気遣ってか、サイスが代わりに俺とシャルに向き合ってきた。


「ここは親に育児放棄された子供が預けられ、育てられる施設だ」


「──……え?」


 一瞬何を言われたのか分からなかったらしいシャルがそんな声を上げた。

 俺も声にこそ出さなかったが、内心で衝撃を受けたのは言うまでもない。


 でも心のどこかで予想はしていたのか(あぁ、やはり)と愕然とした心境が沸いたのも事実だった。


「グランヴェルジュの育児放棄が許されている件は、さすがに知っているだろう?」


「それは……はい」


 シャルは頷いた。

 サイスは腕を組んで続ける。


「『潜在能力値』が低いからと男の子を棄てる親。『スターエレメント』を持たずに産まれたからと女の子を棄てる親。そんなのはこのグランヴェルジュには大勢いる。この『教会』はそんな子供たちのための受け皿だ」


「そんな……」


 泣きそうな声で、しかも涙目になったシャルは庭でシスターと遊んでいる子供たちに視線をやった。


「酷い国だな」


 俺も聞いてて溜まったイライラを吐き捨てるように呟いた。

 当のシャルも「うん……」と沈んだ声で頷く。


「これはこれは皆様御揃いでようこそ」


『教会』の扉を開けて現れたのは他のシスターとは少し格好が違う人物だった。

 他のシスターたちは紺色のローブを身に纏っているが、現れたのは赤いラインの入った漆黒のローブで、頭に大きな帽子をかぶっている。

 

 その者は女性で、金色の髪と瞳が窺えないほど細い糸目が特徴的だ。


 綺麗な女性だが、この格好……まさか軍人か?


「あなたは?」


 俺が聞くと、その女性は丁寧に御辞儀してから口を開いた。


「御初に御目にかかります。この『教会』の管理者を努めさせて頂いています。リビエラ・ノブリスオージェと申します」


「ノブリスオージェ!?」


 俺は驚いて思わず声を張り上げてしまった。


「ってことはあなたはノア将軍の魔女なんですか?」


シャルが俺に代わって問い掛ける。


「はい。間違いありません。私はノア様の妻であり魔女です。よろしくお願い致します」


「よ、よろしくお願い致します。俺は──」


「存じ上げております。レヴァン・イグゼス様。シャル・ロンティア様。それからシェムゾ様と……グラーティア様も。『教会』を御覧になりたいのなら私が御案内致しましょう」


 言われたシャルが困ったように俺を見てきた。

 どうしよう? と聞かれた気がした。


 おそらくこの『教会』を案内されても気持ちの良いものではない。

 だが、見なければいけないような気がした。


 一人の無能としてか。

 ここグランヴェルジュで俺が産まれていたらどうなっていたのか?

 彼らはどんな扱いを受けているのか?


 知りたくはないけど、知りたい。

 そんな複雑な感情が入りまじって交差する。


 気になるなら、見せてもらおう。

 そう決意して、俺は言った。


「お願いします」


「ではこちらへ」



『教会』の内部はもはや病院と保育園が合体したような施設になっていた。

 たくさんのシスターたちが忙しそうに子供たちの面倒を見ている。

 

 白く綺麗に掃除された廊下を歩き、少し先にいくと新生児室があった。

 ガラス越しに、たくさんの赤ちゃんたちが気持ち良さそうに眠っている。


 この中にノア将軍の赤ちゃんもいるのだろうか?

 しかし、どの子も名前がまだつけられていない。


 代わりに変な番号だけ立て掛けられている。

 俺の目の前で眠っている赤ちゃんには『78』と番号がふってある。

 その右側の子は『221』。

 その左側の子は『203』。


 えらく離れた番号だが、なんだこれは? 


 俺は部屋の名札を見やるとそこには『新生児 男の子』と書かれているのに気づいた。

 この番号はまさか例の『潜在能力値』を指してるんじゃ?


「ここにいるの、みんな、親に棄てられた子達なんですか?」


 震えた声でシャルはリビエラに聞いていた。

 リビエラは顔色一つ変えずに頷く。


「ええ、間違いありませんよ」


「この子達はここで育てられて、どうなるんです?」


「最低限の教育を施し、グランヴェルジュを支える労働力になってもらいます」


 シャルの質問に対して無感情の機械のように答えるリビエラ。

 そんな彼女にシャルは目付きを鋭くした。


「リビエラさんでしたよね? 随分と淡々と説明してきますけど、何とも思わないんですか?」


「何をですか?」


「何をって……ここの子達が可哀想って、思わないんですか!?」


「同情の余地がありません。彼らは神に選ばれなかった哀れな子達ですから」


「神に選ばれなかった?」


 オウム返しにシャルが聞いて、リビエラは「はい」と返す。


「グランヴェルジュとはそもそもがこの国の神の名です。このグランヴェルジュの地で産まれ、育った血は、皆が神に選ばれる可能性を持っています」


「その可能性ってのは、男の子は『潜在能力値』で、女の子は『スターエレメント』ってことでいいのですか?」


 割って入るように俺が確認を取るとリビエラは微笑んできた。


「御話しが早くて助かりますレヴァン様」


 なんとも言えない嘘臭い笑みだと俺は思った。


 つまりグランヴェルトやルネシア。

 そしてその配下の将軍たち以外はみんな神に選ばれなかった哀れな存在ということか。


 それはそれは哀れな構成の国だな。


「リビエラさん。あなたとノア将軍の子供もここへ運ばれたと聞きましたが……母親のあなたがいるからここへ預けられたのですよね?」


 真剣なシャルの声は、どこかまだ震えていた。

 それはなんの震えなのか、俺にはすぐにわかった。

 だがリビエラは当然わからない。


「いいえ違います。あの子もまた、神に選ばれなかった哀れな子でした。だからこちらへ」


「ふざけないで!」


 ついに怒りを爆発させたシャルの怒声が弾けた。


「自分の子供までそんな目で見て母親として恥ずかしくないんですか! そんなワケのわからない『潜在能力値』とか『スターエレメント』とか! そんなの無しでもっと純粋に愛してあげられないんですか! あなたは!」


「シャ、シャルさん落ち着いて!」


 ベルエッタがシャルを宥める。

 グラーティアも無言だがシャルの背中を優しく擦り出した。


 しかし怒鳴られたリビエラは、まるで臆した気配などなかった。


「子供が親を選べないように、親もまた子供を選べません。優秀な子だったならば、私も、ノア様も、純粋にあの子を愛していたでしょう」


「そんな! そんなので! それで愛したなんて口にしないで!」


 殴りかかりそうな勢いでシャルは怒鳴りあげた。

 しかし、それでもリビエラは冷静だった。


「あまりお怒りにならない方が良いのでは? お腹の子に響きますよ?」


「っ!」


 ハッとなったシャルはお腹を押さえて、そのままリビエラを睨み付けた。

 その視線をものともせず、リビエラは一歩下がって俺たちにまた丁寧に御辞儀した。


「そろそろあの子の授乳の時間なので、私はここで失礼させて頂きます。……それではシャル様。また明日」


「……」


 シャルは特に返事をせずに、無言のままリビエラを見送った。

 

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