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第132話『アカシエルへ』

 時刻はすでに14時。

 列車から降りて『リコリス』の町へ足を着けた。

 久しぶりの俺の生まれ故郷だ。


 青い屋根の居住群はいつものリリーザの町並みで、違うとすれば地面がアスファルトでなく草木の多い砂利道になっているところか。


 首都から遠く離れたここはもはや田舎で、人通りも少なく、車さえ滅多に通らない。


 だが都会にはない静けさと自然豊かな暖かさがあり、風が吹けば春風のように気持ち良く、また草を舞わせ、心を和ませてくれる。


 相変わらずの生まれ故郷だ。

 限界集落とまで呼ばれるようになってしまった『リコリス』。

 戦火に巻き込まれて両親を失った過去もあるこの町で、俺はシャルを連れて両親の墓参りに行くことにした。


 グランヴェルジュから迎えの車がやってくるまで時間がある。

 エクトやシェムゾたちと合流先を決めてから別れる。


 そして着いた。

 俺の両親が眠る『リコリス』の町外れにある墓地に。


「父さん。母さん。久しぶり」


 数ヶ月ぶりの墓参りに俺はそう呟いた。


「お久しぶりです」


 隣でシャルも小さく御辞儀して呟く。


「最近忙しくてなかなか来れなかった。ごめん」


 言い訳っぽく話してから、俺は道中の店で買ってきた花束を添える。

 しゃがんで、墓石についた砂や埃をできるだけ払った。


「今日はどうしても伝えたい事があって来たんだ。聞いてくれ」


 本来ならば、一番に伝えなくてはならない相手だった。

 俺は隣に立つシャルの肩に手を置く。

 そして意を決して口を開いた。


「……俺とシャルに子供が出来たんだ」


 墓石の前で告白して、辺りの風が急にざわめく。

 なんとなく、両親が驚いているような、そんな感じがした。


「まだまだ小さな命ですけれど、私のお腹に来てくれました」


 シャルが自分のお腹を撫でながら嬉しそうに笑う。

 すると風のざわめきが止み、かと思ったら強めの風が一瞬吹いて花びらを舞わせた。

 ぶわぁっと広がり舞う花びらは、俺とシャルを祝福してくれているように感じた。


「……ありがとう。父さん母さん」


 なんとなく、そんな言葉が溢れた。

 レヴァンとシャルは目を閉じて手を合わせる。


 そして伝える。

 俺は今、最高に満たされていることを。

 シャルと子供。

 ずっと欲しかった『家族』が手に入りつつあることを。

 

 どうか見守っていてほしい。


 俺は黙祷を終えてゆっくりと立ち上がった。


「……怒られると思ったね」


 シャルが苦笑しながら言った。


「そうだな」


 俺もまた同感で、同じく苦笑してしまった。


 16の身で子供を持とうとする急ぎすぎた二人を、まさか祝福してくれるとは、さすがのシャルも思ってなかったようだ。


「子供が産まれたらまた来るよ。父さん母さん」


 孫の顔を見せにくる約束を作り、俺はシャルの手を引いてその場を去った。


 両親の墓を背にして願う。


 俺の背中が強くて逞しい父親のような背中に、両親から見えていますように。



 グランヴェルジュからの迎えの(リムジン)に乗り、ついに俺たちはグランヴェルジュ領内へと足を踏み入れた。


 地図だけで見ればとうにグランヴェルジュ領内なのだが、その殆どは元はリリーザの領内だった場所。


 最初からグランヴェルジュの領内である地を踏むのは、正直初めてだ。


 関所で入国の手続きを済ませ、グランヴェルジュ領内の最初の街『コールハート』に着いた。


「わぁ……ここがグランヴェルジュなんだ」


 車内の窓から外を眺めるシャルが興味津々に言った。

 

「思ったよりリリーザと変わらないな」


 俺は正直な感想を言った。

 町並みは殆どはリリーザと変わらず、違うところは住宅群の屋根が揃って赤色になっているところだ。


 町の雰囲気も、もっとギスギスしているのかと思っていたがそうでもなく、リリーザと変わらず人々は普通に暮らしている。


 正直、意外だった。

 殺伐としたものを想像していたから尚更。


「ついに敵国に来ちゃったわけね。あたしたち」


 レニーが言うとシェムゾが頷いた。


「その通りだ。シャルとレニーくんは車から降りたらレヴァンたちとリンクしておけ。この国にいる間はできるだけな」


「え?」とシャルとレニーがシェムゾを見る。


「万が一のためだ」とだけシェムゾは返す。

 するとコホンと咳払いしたリムジンの運転手が口を開く。


「着きました。こちらの駅から『アカシエル』に向かって頂きます」


 車を駅前に停めて運転手はそう言った。

 どうやらまた列車の旅になるようである。



『アカシエル』についたのはすでに日が沈んで暗くなった頃だった。


 人気の少ない『コールハート』と比べて、帝都に限りなく近いここ『アカシエル』の人口密度は都会のそれと同じだった。


 駅から出て、街並みを拝見する。

 やはりリリーザと大差ない屋根が赤いだけの街だ。


『案内の人はどこかな?』


 列車から降りてすぐにリンクしたシャルの声が俺の中から聞こえてきた。


「うーん……」と俺は唸りながら辺りを見渡す。

 タクシーやらなんやらが徘徊する駅前で、それらしい人物が見当たらない。

 代わりにリリーザの学生服を着たレヴァンたちと、リリーザの軍服を着たシェムゾにグランヴェルジュの市民たちからたくさんの視線をよこされていることにだけ気づいた。


 当然と言えば当然なのだが。

 

 それにしてもノア将軍が派遣しているはずの案内人がいない。

 駅の出口を間違えたのか?

 西側と東側があるし。


「おい。あれ見ろよ」


 エクトが言って指を差した。

 その差した指の先を見やると、そこは時計台。

 しかも巨大なディスプレイが設置された時計台だ。


 あんなものなら『エメラルドフェル』にもあるから特に珍しくもないのだが。


「っ!?」


 そのディスプレイに映っている映像に俺は驚いた。


『名誉挽回戦』

 ソルシエル・ウォー

 2対10


『剣聖ノブリスオージェ』&『戦狼ベオウルフ』

VS

『破剣のガルバ』『疾風のクロイド』『豪腕のティラン』

 その他7名。


 ディスプレイにはそう記されていた。


『疾風のクロイドって、あの時のアイツじゃないエクト?』

「ん? 誰それ?」

『いや誰それって……』


『ガルバとティランって『エメラルドフェル』で戦ったエースさんたちだよねレヴァン?』

「ああ、懐かしいな」


 ティランは覚えてたが、ガルバは正直覚えてない。

 あんなヤツいたっけ?


『名誉挽回戦ね。地に堕ちたソールブレイバー達が地位を取り戻すために戦うグランヴェルジュ特有のソルシエル・ウォーよ』


 シェムゾにリンクするグラーティアが答えた。

 地に堕ちた?

 地位を取り戻す?

 

「これはちょうどいい。よく見ておけレヴァン・エクトくん。『剣聖』と『戦狼』の戦い方を少しでもインプットしておくんだ」


 シェムゾに言われて俺は咄嗟に「了解」と答えていた。

 するとディスプレイには『剣聖』と『戦狼』と思わしき人物二人が画面いっぱいに映り出した。



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