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第131話『エクト・グライセン』

 ふと気づけば、俺は真っ白な空間にいた。


 あれ?


 俺はさっきまで列車に乗っていてはずなのに。


 ここはどこだ?

 シャルは?

 みんなはどこへ?


「お父さん!」


 突如シャルの声が響いた。

 声の方へ振り向けば、そこには学生服のシャルがいた。


「シャ……ル?」


 俺は名前を言い切れなかった。

 何故なら、いま目の前にいるシャルはどこか不自然だったからだ。


 見慣れた桃色の長髪。

 大きな胸。

 引き締まった腰。

 安産型とか自称していた尻。


 相変わらずのスタイルの良さ。

 どこをどう見てもシャルなのだが。

 この違和感はなんだろう?


 しかもさっき俺に向かって「お父さん」と言っていた。


 まさか、いや、そんなはずは。


 目を凝らしてよく見る。


 そして俺はようやく違和感の正体に気づいた。


 彼女の瞳がシャルの紅ではなく、俺のエメラルドグリーンの色となっていた。


 ってことは!

 やはりいま目の前にいるのは俺とシャルの!


「お父さんのバカ! 洗濯物いっしょにしないでって言ったでしょう!」


 はいぃっ!?



「ま、待て! お母さんの手間を考えなさい! まとめて洗った方が早……ぁあ! 待て! 待ってくれ! 父さんが悪かった! だから待って!」


「……こいつはいったい何の夢見てんだ?」


 夢で魘されているレヴァンを見ながらエクトは呆れた。


「夢の中ではすでに父親になっているようだな」


 シェムゾが笑いながら言う。

 

「父性芽生えんの早ぇんだよこいつは」


 眠って魘されたままのレヴァンを見ながらそう言ってやった。

 周りを見ればシャルもレヴァンの肩に顔を置いて熟睡している。

 レニーもエクトの肩でスースー寝ていた。

 グラーティアもシェムゾの肩で。


 なんだこれ。

 野郎の肩で寝るのが女の間で流行ってんのか?


 おかげで無闇に動けねぇし。


 エクトとシェムゾ以外は睡魔にやられて全滅している。

 ガタンゴトンと規則正しい列車の揺れだけがエクトとシェムゾを揺らす。


 他の乗客も『鬼神』『蒼炎』『要塞』と有名人が三人も揃っているこちらを見て興奮していたが、今では飽きて静かになっている。


 たしかに列車に乗ってからすでに2時間が経過していた。

 それだけの時間があれば飽きるのも無理はない。

 まぁ、やや鬱陶しかったので助かるが。


「『リコリス』まで列車に乗ったら、そこからは車での移動になるからな」


「了解です」


 そうシェムゾに返事したエクトは『リコリス』という町の名前に覚えがあった。

 たしか、レヴァンの生まれ故郷だったはず。


 10年前に戦火に巻き込まれた町と、今では有名だ。


 まだソルシエル・ウォーが設立される前の話だ。

 ソールブレイバーが戦場を駆け、相手の息の根を止めるためにナイフと拳銃を常備していた頃だったはず。


 オレがまだ6才の時か。

 レヴァンと出会う2年前。


 そういえば、レヴァンとはいつ親友になったんだっけ?

 覚えてないな。

 気づけば親友になっていた気がする。


 オレが言ったわけでもなく、レヴァンが言ったわけでもなく、どちらも親友だと言った覚えはない。


 ……今更、どうでもいい。

 レヴァンが親友だということには、今はもう変わらないのだから。


「シェムゾさん」


「なんだ?」


「レヴァンはグランヴェルトに勝てると思いますか?」


 これから戦うのは『剣聖ノブリスオージェ』なことは承知の上で、先の敵の話を振った。


 シェムゾは意外そうな目でこちらを見てきた。

 エクトは構わず続ける。


「リリーザで最強とまで称えられた『鬼神』のあなたでさえ勝てなかったのに」


「そうだな。正直なところ分からん」


「え?」


「だが、レヴァンのここ最近の実力の伸びは君も知っているだろう?」


「ええ」


「レヴァンはもう俺を越える一歩手前まで来ている」


「でもそれじゃ勝てる説明になってませんが」


「ああ分かってる。俺とグラーティアはシャルの『ゼロ・インフィニティ』に賭けているんだ」


「シャルの『スターエレメント』にですか?」


「そうだ。シャルが覚醒していく毎に『ゼロ・インフィニティ』の効果は上がっていっている。シャルが『魔法最上階層詞ラストソール』まで覚醒したとき『ゼロ・インフィニティ』がどんな力を解放するのか、そこに俺とグラーティアは期待しているんだ」


「ただ火力がとんでもないことになるだけでは?」


「だとしたら、レヴァンはグランヴェルトには勝てない」


「なぜです?」


「グランヴェルトの魔女ルネシアが持つ『スターエレメント』。あれは────」



 何かしらの話し声が聞こえて俺は、世界が滅びるよりも恐い夢からやっと覚めた。


「しかし君もやることが早いなエクトくん。すでにレニーくんに仕込んでいたとは。これではレヴァンやシャルの事は言えんな? んん?」


「し、仕込むって……いや、まぁ、そうなんですけど……」


 何やらシェムゾとエクトとの会話が聞こえる。

 俺は目を閉じたままにして、起きたことを悟らせぬように耳を澄ました。


「オレもレニーも、たぶん仕事に追われて子供作ってる暇なんか無いかもしれないって思ったんです」


「仕事?」


「PG社ってご存知ですか?」


「それはもちろん。っ! そうか君はあのPG社の!」


「ええ。オレは親父の跡を継ぐって決めたんですよ。レニーと一緒にですが」


「そうか。それで早めに事に移ったというわけか」


「そうですね。幸いレニーも産んでくれると言ってくれたので」


「はは、なるほどな。良い嫁さんをもらったじゃないか。君とレニーくんならきっと上手くいくだろう」


「ありがとうございます。母も『できたら』学校は終わらせてさっさと家に来いと急かしてきますよ本当に」


「すでに忙しいな。……しかし、それだったらなぜ君はレヴァンに力を貸すのだ? もう戦う理由はないだろう? 国のためか?」


「まぁ国のためって言っておけば響きはいいんですけどね」


「やはり違うのか?」


「ええ。オレはそこで寝てるバカのために戦いたいだけです」


 エクト……。


「そうか。友のためか」


「動機としては弱いでしょうが」


「いや立派な動機だよエクトくん。たった一人の友のためにここまで来たのなら大したものだ」


「……ありがとうございます」


 ありがとうエクト。

 俺もお前がいなかったら、ここまで来れなかった。


『暴君タイラント』の時も、『死神サイス』の時も、ここぞという時に助けてくれたのはいつもお前だったよな。


 ありがとう。

 本当に。


 俺はお前ほど頼りになる、信頼できる男を知らない。



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