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第130話『グランヴェルジュへ』

「散々待たせといて今度はオレらが来いだぁ?」


 レニーのお手製であろうオニギリを食べながら、エクトが俺を睨んできた。


 今は学校の昼休み。

『相談』するためにエクトとレニーを学校の屋上へと誘ったのだが、説明してからの一言が、まさに先のエクトの言葉だった。


 睨まれながら俺もシャルのお手製サンドイッチを飲み込んで返事をする。


「早く戦いたいなら来てくれてってだけだ。俺も迂闊だったよ。産後の魔女の事を考えてなかった」


「オレはてっきり産後の安静期間も含めての一ヶ月だと思ってたぜ」


 どうやらエクトはそれを計算に入れてたみたいだ。

 やれやれ、俺もエクトの計算性の高さを見習わなければ。

 もう父親なんだし、甘いことは言ってられないしな。


「で、どうするのレヴァン?」っとレニーに聞かれた。


「それなんだが、一人で決めるわけにはいかないから、みんなで決めたいんだ」


「だからオレとレニーは勝手についていくって言ったろ。お前らが決めろよ」


「ほぉらレヴァン。私の言ったとおりでしょ? エクトくんならこう言うって」


「いやでもシャル。断りは入れとかないとだな……」


 親しき仲にも礼儀ありって言うし。

 エクトとレニーの友人関係は大切にしたい。

 たぶん、一生ものの宝のはずだから。


「シャルはどう考えてるの?」


 レニーに聞かれたシャルは頷く。


「私はグランヴェルジュに行ってみたいから『剣聖』さんの誘いに乗るのは賛成だよ」


「行ってみたいの?」


「うん。どんな国なのか、ちょっと気になるから。ほらお母さんの母国だし多少はね? ベルエッタさんやヴィジュネールさんにも会えるかもしれないし」


「なるほどね。なら迷うことないじゃないレヴァン。行きましょうよグランヴェルジュへ」


 レニーの言葉に背を押された気分になりながら、俺は頷いて返した。


「ありがとうレニー、エクト。ならシェムゾさんにこの事を話しておくよ」



 その後すぐにシェムゾへ連絡をつけ、グランヴェルジュへと向かう旨を伝えた。

 何かしら言われると思っていたのだが、案外と簡単に承諾してくれた。


 それからはノア将軍にも連絡を取り、こちらも準備を整えた。


 そして出発日。

 その日はギュスタやシグリー。ロシェルやリエル。オープ先生やアノン。そして他の学生のみんなに盛大に見送られた。

 あげくにわざわざ城からリリオデール国王様やフレーネ王妃まで見送りに来てくれた。


 道中では『エメラルドフェル』の住民たちからも応援の御言葉をたくさん頂いた。


 さらにテレビ局の人間までも出動していて、俺たちの出発を大きく報道していた。

『リウプラング』のロイグやロミナ。マールやレイリーンたちも、これで伝わっているに違いない。


 まだ出発だけだと言うのに大盛り上がりである。


 まるで大スターだ。


 誰も俺やエクトが『剣聖』と『戦狼』に負けてしまうなんて、微塵にも思っていない様だ。


 その大きな期待がプレッシャーとなるが、そんなもの今更で、散々背負ってきたから問題ない。


 負ける気もないし、負けるわけにもいかない。

 こんなにも応援してくれるみんなのためにも。

 何より、シャルと子供のためにも。

 

 応援してくれる住民たちを見ながら、俺はフと思う。


 俺は、いや俺たちは、ついにここまで成り上がったんだな、と。


 無能と言われていた過去の自分が、今では嘘のようである。



「あの、なんでお義父さんとグラーティアさんまでこちらに?」


 すでに線路を疾走する列車の内部で、ボックス席の向かいに座るシャルの両親に俺は今更ながら問いかけた。


 なぜシェムゾとグラーティアが同行しているのか?


「当たり前でしょうレヴァンくん。ソルシエル・ウォーを介してるとはいえ戦時中には変わりないんだから。敵国へ、学生のあなた達だけを向かわせるわけにはいかないわ。護衛は必要でしょう?」


 当たり前のようにグラーティアが言った。

 するとシャルが心配そうな表情で口を開く。


「それはそうだけど、お父さんお母さん仕事は大丈夫なの?」


「問題ない」と即答したのはシェムゾだった。


「仕事はかなり溜まっているが、それはレヴァンに手伝ってもらって消化するつもりだ」


「え?」


 俺はシェムゾの方に視線を向けた。


「レヴァン。お前は正騎士団の次期団長だ。幸い部下達もみんなお前ならと納得してくれている。子供も出来た以上、早めに俺の元に来てもらうぞ」


「は、はい! ありがとうございます!」


 団長の修行も兼ねて手伝えということか。

 こんなに嬉しい心遣いもない。

 

「いやぁしかし、ついに俺もお祖父ちゃんだぞ。なぁグラーティア。なぁなぁ」


 先ほどの真面目な顔はいずこへ。

 溶けたチョコレートのように表情を崩してデレデレにシェムゾはなった。


「わ、わかったから!」


 グラーティアは旦那の溶けっぷりに苦笑する。


 でも実際シャルが妊娠したことを告げた時、真っ先に涙を流して喜んでくれたのは他でもないグラーティアだった。


 おめでとうと何度もシャルに言って抱き締めたのもグラーティアだ。

 今では随分と落ち着いて、シェムゾの方が砕けてるように見えてしまっている。


 今回の件でも、護衛を買って出てくれたのはグラーティアだったらしい。

 彼女にとっては忌まわしい祖国へと向かうにも関わらずにだ。

 孫のためならば、それくらいどうと言うことでもないのかもしれないが。


「いいシャル? 激しく動いたりしたらダメよ? 今はまだ流れやすい時期だから絶対に無理をしたらダメだからね?」


「うん。わかってるよお母さん。ありがとう」


 今のグラーティアはまさに母になろうとする娘をしっかり導こうとしている母親の姿だった。


 随分と人間関係も変わったな。

 こんなにもしっかり親子をやっているシャルとグラーティアを見る日が来ようとは。


「エクトくん」


「はい?」


 隣のボックス席に座るエクトにシェムゾが話しかけた。


「君とレニーくんはいつ子供を作る気だね?」


 思わぬ問いかけにエクトは目を丸くして、彼の隣に座るレニーも驚きの顔を覗かせた。


 シャルとグラーティアが『何て質問してんだアンタ!』という顔でシェムゾに視線を集中させた。


 しかし当のエクトは目を丸くしただけでそれ以上は驚かず、むしろ小さく笑ってみせた。


「まだ分かりません。出来てたらいいなって感じです」


 え?

『出来てたら』って!


 エクトの言葉の意味を察した俺はレニーを見やる。

 レニーは頬を赤く染めて、モジモジしながら俯いている。


「ほほう! そうか! それは楽しみだなエクトくん!」

「そうですね。本当に」


 シェムゾと共にエクトが笑う。


 そうか。

 エクトとレニーも。


 なんだろ。

 何故か妙に仲間が出来た感じで嬉しい。

 不謹慎かもしれないが。


「エクトくんとレニーったらいつの間に」


 俺の隣でシャルが呟く。


「まぁ別に不思議じゃないだろ。婚約もしてる二人なんだし」

「でもまだ16歳だよ?」


「あら? どの口が言うのシャル?」


 グラーティアに突っ込まれてシャルはテヘヘと笑って誤魔化した。



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