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第124話『親友にも』

 午後になって、俺とシャルは予め呼んでおいたエクトとレニーと合流した。

 シェムゾさんたちとの約束の時間も近い。

 そのままエメラルドフェルにある『訓練用コロシアム』に向かう。


 その道中。

 川沿いの道を歩きながら、俺は隣を歩くエクトに話しかけた。


「なぁエクト」


「ん?」


「残りの将軍『剣聖』と『戦狼』のことなんだけど」


「ああ、どうした?」


「俺達から挑戦状を送って勝負を仕掛けてみるってのはどうだろう?」


「「ええ!?」」っと驚きの声を上げたのはエクトではなく、後ろを歩いていたシャルとレニーだった。


「いきなり何言い出すのよレヴァン」


 レニーに言われ、俺は立ち止まって振り向く。


「ゴルト将軍が言ってたんだ。『剣聖』と『戦狼』は『死神サイス』と互角の実力だって。それが本当なら今の俺達でも十分に勝てると思うんだ」


「え、そうなの? でも相手の魔女が持ってる『スターエレメント』が何なのか分からないじゃない」


「それは戦うまで分からないさレニー。もともとそうだったろ?『ブロークン・ハート』はヴィジュネールさんが教えてくれたから対策もできたけど、今回はゴルト将軍やサイスと同じで前情報がない。土壇場で対処するしかないのは変わらないんだ」


「それはそうだけど、そんなに急がなくてもいいんじゃない?」


「レニーの言うとおりだぜレヴァン。確実に勝つためにも、ここらでしっかり力をつけた方がいいだろ? まだまだ俺たちは将軍二人分しか実力がないんだからな」


「それは、そうなんだけど‥‥‥」


 できれば早めに『剣聖』と『戦狼』を倒して、ターゲットをグランヴェルトに絞りたい気持ちがある。


『剣聖』と『戦狼』が俺達と互角ならば、もしかしたらその対策を立てるために相手側も特訓などを始める可能性がある。


 手強いのが分かってる奴らに強化させる期間を与えたくない。


 魔女のレベル差だって、シャルとレニーは『魔法第三階層詞サードソール』しか覚醒してないが、それでも今までもなんとか勝ててきた。

 

 速攻で挑んでも、決して勝てない勝負ではないと思うのだ。


「なんだよ? すぐに挑みたい理由でもあるのか?」


「いや、まぁ、あるにはあるんだけど」


 俺とシャルの制約。

 これをエクトとレニーに告げるのは、さすがにどうなのだろう。


 いやでも、一緒に戦ってきたエクトとレニーに、こちらの事情を教えないのは、それこそ失礼かもしれない。

 でも告げた先で、エクトとレニーがどんな反応をするかが怖い。

 幻滅されたらどうしよう。

 最悪、親友をやめられるかもしれない。

 内容が内容だ。

 それもあり得る。


「レヴァン」


 俺を呼んだのはシャルだった。


「エクトくんとレニーにもちゃんと言おう?」

「シャル?」

「急いでるのは本当なんだもん。私たちの勝手にエクトくんとレニーを付き合わせるんだから、二人には知る権利があると思うの。私とレヴァンの制約」


 シャルの言葉にエクトとレニーが顔を見合わせ怪訝な表情を浮かべた。


「話が見えねぇぞ? 何の話をしてんだ?」


 腕を組んだエクトが言う。


「‥‥‥実は、エクト、レニー。聞いてほしいことがあるんだ」


 俺は、先のシャルの言うとおりだと思い、意を決してエクトとレニーに制約の事を告白した。



「こ、こ、こ、こ、子供っ!?」


 レニーが顔を真っ赤にして驚愕し、声を張り上げた。


「うん。まだ出来てるかは分からないんだけどね」


 少し恥ずかしげに腹を撫でながらシャルが頷く。

 

「ふーん‥‥‥なるほど。それで勝負を急いでんのか」


 そう言ったエクトは、意外にもこれといった反応を示さなかった。

 特別呆れることもなく、怒ることもなかった。


「強くなりたいからってバカだろお前ら? 他に方法なかったのかよ」


 ‥‥‥いや、無表情なだけで呆れていたようだ。

 

「すまん、その」


「ったく‥‥‥そんな制約を設けて本当に強くなれるのか?」


「なれそうな気がしてるんだ」


「は?」


「なんていうか『あの夜』から俺の中で覚悟みたいな何かが繋がった気がするんだ。だから」


「意味がわかんねぇよ」


「悪い。どう説明すればいいか分からないけど、今の俺なら、もっともっと強くなれる気がするんだ」


 シャルと身を重ねたあの日から、俺の中で沸き起こる情熱があった。

 それが何なのかは分からない。

 正体不明の情熱だ。

 でも自分でそれが情熱だと分かるほどには、それはポジティブな感情のものであるとわかるのだ。


 そしてその情熱は、俺自身を高めてくれそうな、無根拠な自信さえも与えてくれる。


 なんなのだろう?

 この楽しみで楽しみで仕方ないような、何を楽しみにしてるのかすら分からない熱く燃え続ける感情は。


「‥‥‥やりたいことやって頭ん中ハイになってんじゃねぇのかレヴァンお前」


「いや、それはない。断じて」


「そうかよ」


 エクトはため息を吐いて先を歩き出した。


「エクト!」と俺はおもわず呼び止める。


「勝手にしろよ」


「え?」


「勝手にしろって言ってんだよ。挑戦状でも何でも勝手に送ればいい」


「エクト‥‥‥」


「正直、オレはもう全国制覇なんざ興味ねぇんだ」


「な!? どういうことだよエクト!」


「必要なくなっただけだ。気にすんな。‥‥‥だからレヴァン」


 エクトは止まって、俺の方へ振り返ってきた。

 ポケットに手を突っ込んだまま。


「お前の好きなようにしろよ。オレとレニーは勝手についていくだけだ」


「っ! エクト、お前‥‥‥!」


「ふん」と鼻息を鳴らしてエクトは踵を返した。

 そしてまた先を歩き出す。


 エクト‥‥‥ありがとう!


 俺は親友の背に向かって大きく一礼した。



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