第123話『広大な土地』
翌日の朝になった。
今日は学校こそやっているが、俺やシャルなど『ローズベル』から帰って来た生徒たちはまだ特別休日扱いとなっている。
俺達の学校通いがまた始まるのは明後日からだ。
今日は国王様から頂いた『土地』の拝見と説明を受ける予定がある。
だから俺はシャルを連れて、例の『土地』の場所へと向かう。
俺とシャルの格好は相変わらず戦士・魔女専用の試合用制服だ。
午後からシェムゾさんとの特訓を控えているから、あえて私服は着てこなかった。
しかし最近はだいぶ気温も高くなり、長袖が辛い時期に入ってきわけだが、この試合用制服には夏専用がない。
魔女はリンクしていれば気温など無視できるからいいものの、戦士はそうはいかない。
暑いものは暑いのだ。
「なんか暑くなってきたな最近」
俺が街の歩道を歩きながら言うと、隣を歩くシャルは頷く。
「もうすぐ夏だからねぇ。でも今年は海に行けなさそうだね。忙しいし」
「そうだな」
そもそもシャルは泳げないから海やプールは好きではない。
現に今、どこかホッとした様子のシャルがいる。
シャルの水着姿を拝めないのは残念極まりないのだが、忙しいのは事実だ。
制約のことを考えると、そんな海などで遊んでいる場合ではないから。
※
『土地』はエメラルドフェル居住区のど真ん中にあった。
そのあまりの光景に俺とシャルはこれでもかと目を見開いた。
「めちゃくちゃ広いな!」
「めちゃくちゃ広いね!」
思わず声を大にして叫んでいた。
それでもおそらく響き渡らないほどの広大な土地だった。
そこは手入れでもされてるのか、綺麗な芝生の絨毯が広がっている。
いったいこの『土地』は何坪あるのだろうか?
「こちらは約500坪の『土地』となります」
説明係のために来てくれた城からの使者。
いや、どこか不動産屋の人かな?
スーツ姿の身なりの良い男性だ。
「500坪! それはまた、凄いですね」
「そうですね。この広さならレヴァン様のお望みの家を建てることも容易だと思いますよ」
「それは良いのですが、これだけ広い『土地』だと維持費がバカにならないのではないですか?」
「その辺の費用はご心配なく。建築費だけでなく『土地』にかかる費用なども全て国が負担させていただくそうです」
「それ本当ですか!?」
「はい。リリオデール国王様からそう承っております。レヴァン様が金額のご心配をなされる必要はありません」
い、いいのだろうか?
いくらなんでも国にこれほど負担させて。
「国に全部払ってもらって、俺たちはもらうだけって、なんか悪い気がするんですが‥‥‥」
「そうでしょうか? レヴァン様とシャル様はリリーザの領地を二つも取り戻してらっしゃるのです。将軍も三人撃破してます。他の人間ならばどれだけ掛かっても達成できないかもしれない事を成してるのですから、むしろこれらは当然の報酬だと思いますよ?」
スーツの男性がニコリとしながら言った。
当然の報酬、と言われると、受け取る側の俺は疑問を持ってしまうが、それでも受け取っていいものだと安心はできた。
「それではレヴァン様、シャル様。どんな家を御希望かお聞かせ願えますか? ある程度の御希望を聞いて、こちらでオススメのハウスメーカーをリストアップしておきますので」
「そうですね。子供は四人つくるので大きい家にしてもらいます。大きくなったときのことも考えて子供部屋も四つ確保できる構成で。もちろん子供と遊べる広い庭も忘れずにお願いします。それといつか子供が友達を呼んできても恥ずかしくない立派な見た目の家がいいですね。ぁあ、あとこれだけ広い土地なら駐車場も8台ほど停まれる駐車場が欲しいですね」
「え、レヴァン? なんで駐車場に8台なの? レヴァンと私と子供四人なら6台分でいいんじゃ?」
「バカだなシャル。エクトとかレニーが遊びに来たとき用に決まってるだろう? そこらへんもちゃんと考えて設計しないとな」
「さっすがレヴァン! 言うことが先読み過ぎだね!」
「まかせとけ。あ、すいませんプールって出来ます?」
「ええ、場所の確保さえすれば大丈夫ですよ」
「じゃあ‥‥‥」
「いりませんから!」
いきなりシャルが俺の言葉を遮断してきた。
「なんでだよシャル。家にプールがあれば子供と遊べるだろう?」
「お風呂があれば十分です!」
「いやでもシャル。俺だってプールで子供と遊びたいし、お前の水着姿も見たいんだよ」
「誰がそのプールの手入れをするの?」
あ‥‥‥
「これだけ広い土地だと庭の手入れだけでも大変なのに、プールまで面倒見れないよ私は」
「そ、そこは俺がちゃんと‥‥‥」
「とにかくプールは必要ありません!」
「待て待てシャル! お前お風呂好きだろう?」
「お風呂とプールはぜんっぜん違うからね? お風呂は浸かる場所! プールは泳ぐ場所! わかる?」
「そ、それはそうですけど」
「プールはいりませんから!」
スーツの男性にシャルがキッと睨み付けながら告げた。
「か、かしこまりました!」とスーツの男性が深々と頭を下げた。
なんてこった。
美しい妻の水着姿を拝みながら、愛する子供たちと楽しいプールでのひとときを妄想したのだが、どうやら妄想だけで終わってしまうらしい。
さすがに贅沢が過ぎたか。
シャルの水着姿を他の男に見せたくないという気持ちもあって考えたマイホームでのプールなんだが、この結果は非常に残念である。
「‥‥‥水着なら、言ってくれればいつでも着てあげるから、ね?」
ションボリしてた俺の耳元でシャルが囁く。
「よっしゃ!」っと俺は思わず子供のように喜んでしまった。
元気復活である!




