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第119話『称号の下賜と』

 レニーの家に向かったらしい使いの者が、エクトとレニーを見つけられずに帰って来てしまった。

 

 エクトの家にも迎えに回ったらしいのだが、エクトはとうにレニーの家に向かったと聞かされたとか。


 そんな話を俺とシャルは場内の控え室で聞いていた。

 俺の目前ではシェムゾさんが部下らしき人物が言葉を交わしている。


「病院に向かったのを見たという情報もあったのですが、そこでもやはり‥‥‥」


「行き違いになってしまったと」


「はい」


「ふむ、困ったな。早くしないと授賞式が始まってしまう」


 腕を組んだシェムゾが弱った顔を浮かべる。

 エクトとレニーは本当にどこへ行ってしまったんだろう。

 心配だ。

 あのエクトが側にいるんだ。

 レニーの身に何かあるとは思えないし、エクトにはそもそも心配なんて不要なのだが、さすがに行方不明となると。


「なんでエクトくんとレニーは病院に行ったんだろ?」


 机に腕を乗せて高価そうな椅子に座るシャルが聞いてきた。

 隣で座る俺は小さく首を傾げる。


「なんだろうな? レニーに何かあったのかも」

「もしかして!」

「どうした?」

「レニーのお腹に赤ちゃんが!」

「なるほど」


 ぶっちゃけ言うと思った。

 正直なところ俺もそう思ってしまったからだ。

 最近というか、ずっと前からエクトとレニーが仲良くなっているのは知っていたし、そういう関係になっていてもおかしくはないと思ったのだ。


「すみません! 遅くなりました!」

『すみません!』


 派手に控え室のドアを開けて来たのは俺と同じ格好をしたエクトだった。

 レニーの姿が見えないのに声が聞こえた。

 リンクしているらしい。


「おお! エクトくん!」っとシェムゾ。

「あ! いったいどちらに?」っと使いの者。


『ちょっと母が倒れてしまいまして、それで病院に」


 レニーがリンクを解除しながら告げた。

 どうやらオメデタではなかったようだ。

 しかし予想以上に大変な事になっていたみたいである。


「なんと! 御母様は大丈夫なのかね?」


 シェムゾの問いにレニーは「はい」としっかり頷いた。


「命に別状はないとの事なので、御心配ありません。遅くなって申し訳ありませんでした!」


 深々と頭を下げるレニーに、エクトも隣で「すみません」と同じく頭を下げた。


「いや、いい。そんな事情があったのなら仕方ない。顔を上げなさい。もう少しで君達の授賞式が始まる。呼ばれるまでここで待機しててほしい」


「授賞式?」と顔を上げたエクトが疑問の声を上げる。


「君とレヴァンに国王様から『称号』が与えられる。そのための授賞式だ。もちろん『称号』だけでなく他にもあるのだが、それは楽しみにしておくといい」


 言ってシェムゾは使いの者と一緒に部屋の外へと出ていった。


「『称号』だぁ? なんで今さら」


 エクトが向かいの椅子に座るなりそう言ってきた。

 彼の隣にレニーも腰を下ろす。


「いや今さらってエクト、むしろ今だからだろう? 俺達は成果を上げてきたじゃないか」


『暴君タイラント』『獅子王リベリオン』『死神サイス』と、グランヴェルジュの誇る将軍を三人も撃破してきたのだ。

『称号』くらい下賜されてもなんらおかしくはない。


「まぁ、そうだけどよ。いったいどんな『称号』が与えられるんだか。ダセェのだけは勘弁だぜ。例えば『要塞』とか」


 俺とシャルはカチンと一秒くらい凍った。

 別に俺とシャルは悪くないのだが、なぜか冷や汗が出る。


「なんで『要塞』なのよ?」


 レニーがエクトに聞いた。


「母さんが言ってたんだよ。オレとお前の戦い方はまるで難攻不落の要塞みたいだって」

「良いじゃない強そうで」

「やだよ。ダセェっつーの」

「そう? レヴァンとシャルはどう思う?」


「え!? いや、カッコいいと思うけどな『要塞』も。なぁシャル?」

「うんうん! エクトくんのイメージにピッタリだと思うよ!」


 お前さっきと言ってること違うじゃん。

 とシャルに突っ込みそうになったが言わない。


「お前らどうせ『蒼炎』とかだろ?」


 なんで分かるんだよ。

 いや、まぁ、先に当てたのは俺なんだが。


「『要塞のエクト』と『蒼炎のレヴァン』でしょ? あたしはカッコいいと思うけどね」


「ダセェよ。まぁ何にせよ、本当にそんな『称号』が与えられるわけねぇと思うぜ? 本当にオレに『要塞』とか付けてきたら国王のネーミングセンスを疑うけどな」



「レヴァン・イグゼス。エクト・グライセン。そなたらの多大なる功績を讃え! 称号『蒼炎』『要塞』を与える!」


 リリオデール国王様が威厳たっぷりの声で告げた。

 その国王の隣に立っているシェムゾは、見事に俺の視線から目を逸らしている。

 

 俺は今、エクトの隣に立っている。

 気になる親友の横顔をチラリと覗いた。


 さすがのエクトも、国王の御前で不服な顔をするという無礼は犯していなかった。

 内心はどうであれ、以前よりかなり大人っぽくなっているなと、レヴァンは不意にそう思った。


「『エメラルドフェルの防衛』『暴君タイラントの撃破』『リウプラング奪還』『獅子王リベリオンの撃破』『死神サイスの撃破』『ローズベル奪還』」


 リリオデール国王様が俺達の功績を述べていく。

 その声はここ『リオヴァ城』にある大広間に響く。


 俺とエクトの背後には魔女であるシャルとレニーが並ぶ。


 さらに背後には兵士たち。

 その周りにはテレビの人間たちまで成り行きを見ている。


「これら全ての功績に諸君には『土地』も与えよう!」


 え?


 俺の理解が追い付く前に、背後の兵士たちが盛大な拍手を起こした。

 

「『土地』って‥‥‥」


 そう言葉を溢したのはレニーだった。

 それに応えるようにリリオデール国王様が沸き起こる拍手を片手で制した。


「救国の英雄に対して我々は諸君にあまりにも無償だった。どうか許してほしい」


「え、あ、いえ‥‥‥」


 突然の褒美に戸惑いながら、俺はなんとかそれだけ返した。

 無償って‥‥‥あれだけ強化合宿では支援してもらったのに。


「何もない『土地』だから望みの家を建てるとよかろう。建築費などは全てこちらが負担する」


「そ、そこまで!?」


「不服かな?」


「いえ!」


 もとより望んでいた『土地』と『マイホーム』を、まさかこんなにも早く手に入れられるとは思ってもなかった。


『蒼炎』という称号よりも100倍は嬉しい。


 しかも建築費などは国が負担してくれるとは。

 こんなに恵まれていいのだろうか?


 いや、シャルとのこれからの事を考えれば、マイホームは必須。

 国王に自分の功績を認められ、国から褒美を与えられたのだ。

 良いも悪いもない。

 快く受け取ろう。

 胸を張って受け取ろう。


 こんなにもありがたい褒美はないのだから。


「ありがたき幸せ! 国王様の広きお心遣いに感謝致します!」


 できるだけ失礼のないように、精一杯の敬語で応えた俺は頭を垂れた。


「感謝致します!」とシャルたちも続いて応えた。


 間もなく、また兵士たちから盛大な拍手が沸き起こった。



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