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第116話『それぞれの帰宅』続

 相変わらず息苦しい家だ。

 久しぶりに見るデカ過ぎる我が家を見ながらエクトは思った。


 御高くとまった門をくぐり、迎えの執事に荷物を渡し、綺麗に手入れされた庭を通って玄関を開く。

 そこには久しぶりに見た銀髪の女性が。


「エクトちああああゃん! おかえりなさい!」


「はぶっ!」


 玄関をくぐった先で待ち構えていた母に思いっきり抱き締められた。

 レニーと同じくらいのボリュームがある母の胸に顔が埋まってしまう。苦しい。


「エクトちゃんすんごくカッコ良かったわよ! お母さん惚れちゃいそうだったわ!」


 キャッキャッと興奮する母の胸からエクトはなんとか脱出した。


「気持ちわりぃこと言ってんじゃねぇよ。つーか離れろ!」


 恥ずかしさもあって、突き放すようにエクトは母から離れた。

 やれやれと、吹き抜けのホールから自分の部屋に向かって歩き出す。

 すると母までついてきた。


「ごめんなさいごめんなさい! もうね、お母さんエクトちゃんに会いたくて会いたくて」


「そんなことより親父は?」


「あ、もちろん仕事よ」


「ったく、なんだよ‥‥‥跡継ぎを決意してやった息子より仕事を優先かよ」


 いや、何に腹を立ててんだ。

 帰ってくるなりウルセーのがいなかったのだから寧ろラッキーだろうに。


 何を期待してたんだオレは。ファザコンかっつーの。

 廊下を歩きながらエクトは自分に向けて溜め息を吐く。


「そう言わないでエクトちゃん。お父さんも今日はできるだけ早く帰るって言ってたから」


「いや別に帰ってこなくていいけどな。あと親父の身体は大丈夫なのかよ?」


「ええ。大丈夫よ」


「ならいいけど」


「うふふ‥‥‥エクトちゃんありがとうね。会社のことを決意してくれて。お母さん、本当に嬉しかったわ」


「礼ならオレじゃなくてレニーに言うんだな。オレはアイツがいなかったら跡継ぎなんてする気もなかった」


 というより、レニーがいなかったら決断できなかったってのが正解だが、それはあえて言わない。


「レニー? レニーって、たしかあなたの魔女の子?」


「ああ。明日か明後日か、まぁとにかく近々親父と母さんには紹介しなくちゃならねぇと思ってる」


「え? 紹介? ど、どゆこと?」


「オレはレニーを嫁にもらうつもりだ。あいつとなら、なんかうまく行けそうな気がするしな」


 淡々と告げると、母は面白いくらいに顔から汗を流し始めた。


「ちょ、ちょちょ、ちょ、ちょっと待ってエクトちゃん! ぉお母さんついていけない! ど、どゆことなの!? 嫁にもらうってなに!? 結婚前提なの!? いや、それよりも付き合ってるの!?」


「ああ付き合ってるよ。なんでそんなに驚いてんだ?」


 高校生の男女が付き合うなんて、そんなに変な話でもあるまいに。


「驚くに決まってるでしょ! あなたまだ16歳なのに結婚前提の付き合いなんて早すぎるわ!」


 なんだ結婚前提がおかしいってのか。


「早い? そうか?」


「早いわよ! 早すぎるわよ! なんでそんなに感覚おかしくなってるの!?」


 どうやらオレの感覚はおかしくなっているらしい。

 たぶんあのレヴァンとシャルというバカップルのせいだな。

 全然不自然に思わなかった。

 慣れってのは怖いもんだ。


 だけどレニーを手に入れたい気持ちは変わらない。

 そして嘘でもない。

 逃がさないように早めに取っ捕まえておくのも1つの方法だろう。


 オレはあいつじゃなきゃ嫌だから。


 早かろうがなんだろうが関係ない。


「別にいいだろ。ちゃんと紹介するって言ってんだし」


「明日!」


「あ?」


「明日そのレニーって子と話をさせてちょうだい。あなたに相応しい女かどうか、お母さんが見極めます!」


 うぜぇ。


「まぁ、別に構わねぇけど、明日は国王さまに城へ呼ばれてるから、その後でいいか?」


「城へ? 今度は何をするつもりなの?」


「いやオレたちじゃねーよ。呼ばれてんだ。オレとレヴァンとレニーとシャルと」


「‥‥‥まぁ、国王さまからの御呼びだしなら仕方ないわね。終わったらちゃんとレニーさんを連れてくるのよ?」


「わかってるよ。うるせぇな」



 その夜、エクトはレニーに事の成り行きを電話で話していた。


「‥‥‥という訳で面倒くせぇことになった。なんかお前と話がしてぇみてぇなんだよ。うちの母さんが」


『そうなんだ。いいわよ。遅かれ早かれだものね』


「悪りぃな。疲れてるところ」


『気にしないで。大丈夫よ』


「なら明日迎えにいくから準備して待ってろよ」


『うん‥‥‥ねぇエクト』


「なんだ?」


『本当に、あたしなんかでいいの?』


「なにがだよ?」


『だから、その、お嫁さんがあたしなんかでいいの?』


「何をいまさら」


『エクトがもう結婚まで考えてくれてたのは、正直うれしかったけど、でも‥‥‥』


「お前が言ってくれたんじゃねーか。オレを死ぬまで支えるって」


『うん‥‥‥』


「自信持てよレニー。オレはお前がいい。お前じゃなきゃ嫌だからな?」


『ありがとうエクト‥‥‥大好き。ありがとう』


「‥‥‥お前の方こそ、ありがとうな」


『え?』


「勝手に話を進めちまったからな。怒られるかと思った」


『怒ってるわよ?』


「え!?」


『明日は、覚悟して迎えに来てね?』


 マジかよ‥‥‥。



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