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第112話『決意の夜』

 日が沈み始め、俺とシャルはジフトスたちと別れた。

 

 今日で寝泊まりも最後となるホテルへ向かっていると、隣を歩くシャルがうぅんと背伸びした。


「なんかどんどん話が大きくなってきたねレヴァン」


「そうだな。でもやることは変わらないさ。俺は俺の目的のためにグランヴェルトを倒すまでだ」


「うん。私もそれでいいと思うよ。国を変えるとかそんなの私たちには重すぎる話だし」


「ああ‥‥‥でもさシャル」


「うん?」


「俺は、今年中にはグランヴェルトを倒してお前と結婚したいと考えていた。でも、三ヶ月も費やして将軍二人分までしか伸びなかった。正直な話このまま行っても、今年中にグランヴェルトを倒せるとは思えない」


 俺は素直に今抱いている不安と焦りをシャルに告げた。

 するとシャルは目を丸くする。


「あ、レヴァンも伸びの悪さを気にしてたんだ。実は私もなんだ」


「シャルも?」


「うん。三ヶ月がんばったけど、覚醒したのは『魔法第三階層詞サードソール』だけだったもん。本当は『魔法第五階層詞オーバーソール』まで詠めるようになってる予定だったんだけど‥‥‥はぁ、世の中うまくいかないね」


 まさかシャルまで悩んでいたとは。

 お互いうまくいっていなかったということか。

 不謹慎だが、なぜかその事が無闇にうれしかった。


「そうか、シャルもか」


「うん」


「‥‥‥本気で焦ってないのかもな。俺たち」


 満足できない己の成長への捌け口が、そんな言葉になって出てきた。

 隣でシャルが驚いたようにこちらを直視してくる。

 しかしそれも束の間。

 シャルは「たしかに」と言って目を閉じ小さく頷いた。


「それはあると思う。あと二年待てば、結婚は、できるからね」


 そう、まさにそれだ。

 急ぐ必要がないんだ。

 俺の目的には。


 それはもう前々から言われていることで、わかっていながらも突き進んできた。

 早くシャルと家族を築きたいのは本当なのだから。


「どうするば自分に火をつけられるんだろうな」


 真剣に悩んでいた。

 自分を極端にまで燃えさせてくれる何かがほしい。


「んーありふれたやり方なら期限を設けるとか? この日までに達成できなかったら結婚しないとか‥‥‥」


 言ったシャルは、途端に青ざめた。


「いやぁああああ! そんなの絶対いやぁああああ!」


「自分で言って自分で嫌がってどうする! そんなすぐ変えられるようなものじゃ駄目だ。制約が弱すぎる。それこそもう逃げられないくらいの大きな制約を課せないと、俺たちはきっと本気になれない」


「逃げられない?」


「ああ。例えるなら今年中にグランヴェルトを倒さないと本当に大変なことになるくらいヤバイ制約がほしい」


 シャルを愛している。

 シャルと家族を築きたい。

 シャルとの間に子供がほしい。


 それ自体に嘘はない。

 だけど、それ自体がもはや当たり前となっている俺とシャルでは、自分達を高ぶらせるにはあまりにも熱量不足となってしまっているのかもしれない。


 もっと強くなるには、もっと強固な、それも絶対に逃げられないくらいのものが制約にほしい。


「レヴァンは、本当に早く家族がほしいんだね」


 包容力のある優しい微笑みでシャルが言った。


「ワガママなのは‥‥‥わかってる。でも俺は、グランヴェルトを倒して、正騎士団に入団して、マイホームを建てて、子供を儲けて、妻と子供とうまいものいっぱい食べて、たくさん笑って、家族の暖かさを感じたいんだ。もう一度、早く‥‥‥」


 一人は寒い。

 それは幼いとき、嫌と言うほど味わった。


「そうだね。レヴァンにはお父さんもお母さんもいないもんね」


 言いながらシャルは意を決したように俺の正面に立ってきた。


「わかったよレヴァン。生半可な制約じゃ、私もレヴァンも強くなれない。ならもう覚悟を決める制約をつくろうよ」


「覚悟を決める?」


 俺の問いに、シャルは頬をこれでもかというくらい赤くした。

 あのシャルがここまで赤くなるのは正直初めてだ。

 いったい何を?


「うん。たぶんこれが私とレヴァンにできる最大の制約だと思う。逃げられないし、間に合わなければそれは、レヴァンの大嫌いな『無責任』になる」


 シャルが何を言っているのか、最初はわからなかった。

 だが『無責任』という言葉が引っ掛かる。

 俺は『無責任』という言葉をどの場面でいつも使っていた?


「っ! まさか、シャル!」


「レヴァンが決めて。お願い。私はどっちでもいいから。‥‥‥心の準備だって、とうに出来てるよ?」


「シャ、シャル‥‥‥」


 確かに、これ以上の制約なんてない。

 俺とシャルにしかできない究極の制約だ。


 だけど、これは‥‥‥。


 シャルは俺を見つめて返事を待っている。

 赤くなっているが、その顔に迷いはない。

 

 シャルはどっちでもいいと言った。


 でも今、もしここで拒否したら、シャルは俺をどう見るのだろう?


 シャルが俺に失望することなど有り得ない。

 だけど今この瞬間だけは、そうは思えなかった。


「シャル‥‥‥」


「‥‥‥レヴァン」


 見つめ合い、互いの名を呼ぶ。


 俺は意を決して、シャルに答えを告げた。



 その夜、俺とシャルは生まれて初めて一つになった。


※この続きはノクターンノベルズにて記載しています。


https://novel18.syosetu.com/n2009ej/2/


※18歳未満の方はお控えください。

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