表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

135/255

第111話『国を変えるには』

 サイスとベルエッタの成り行きを見届けた俺とシャルは、そのままジフトスとレジェーナを待たせている『ローズベル』の川沿い公園まで向かった。


 人気の少ないこの時間に、さらに人気の少ないこの公園は敵と喋るには十分な静かさだった。

 川の音だけが流れるこの場所で、なぜがゴルトとヴィジュネールの姿まであったのは予想外だった。


 だが特に問題があるわけでもなく、俺はサイスとベルエッタの事をジフトスに話した。


「そうか‥‥‥サイスはベルエッタと一緒に帰ったか」


「はい」


 俺が頷くと、ジフトスはどこか安堵したような顔を見せた。

 やはり彼はサイスとベルエッタのことが気掛かりだったのだろう。


 俺がサイスを『戦闘不能者休憩室』から呼び出したとき、ジフトスには何をするつもりだと問われたのは言うまでもなく、サイスの胸の内を知りたい事を伝えてみれば、ジフトスは成り行きを後で話してほしいと俺に願い出たのだ。


 サイスとベルエッタがうまくいっていないのはジフトスも知っていたようだった。


「正直、サイスの過去を聞いた時は、どうすればいいかわかりませんでした。あんなに辛い過去が彼にあったなんて」


 俺はあの時抱いた感想をそのままジフトスに告げた。


 幼馴染と結婚できず、別の女性と結婚させられ、信頼していた親友にも裏切られた。

 俺で例えるなら、シャルと結婚できず、レニーと結婚させられ、エクトがシャルを。

 

 確かにエクトになら、シャルをまかせてもいい。

 それくらいエクトのことを信用している。

 

 でもサイスは、俺でいうエクトのような存在に裏切られたんだ。


『友達』という言葉にやたら不快な顔を見せる理由が、今なら痛いほど分かる。


『運の良い奴だよ、お前は』


 あの時俺に向けて言い放ったサイスの言葉が脳裏を過る。


 運がいい、か。

 愛するシャルを自分の魔女として召喚できて、しかもシャルは『スターエレメント』を持った特別な魔女で、俺はそのおかげで魔法が使えるようになった。


 そして今も己の夢に向かって前進している。


 もはや疑う余地もなく、自分の星回りを認めざる負えない。 


「好きな人と結婚できないなんて、どうかしてますよ。あんなのが罷り通るなんて、変だと思わないんですか? 育児放棄の件だって」


 俺の傍らでシャルが強い口調で言い放つ。

 それに答えたのはジフトスの魔女レジェーナだった。


「思わないわ。生まれ育った国だもの。でもあの子達を見ていると、やっぱり疑問には思っちゃうわね」


「だったらあの覇王さんにみんなで言えば良いじゃないですか。国の粗を無くそうって。『スターエレメント』を持たない魔女を無能扱いしない。能力が高いからって無理矢理『戦士』と『魔女』を結婚させない。将来性がないからって育児放棄を許さない。これらを改変するだけでもだいぶ変わると思いますよ私は」


「あなたの言うことは分かるけどそれは難しいわ。ねぇ? ヴィジュネール」

「そうね」


「どうしてです?」


「国の価値観を丸ごと変えるのって簡単じゃないわよ? グランヴェルジュはずっと昔からこうだったから尚更ね」


「そんなこと言ってたらいつまで経ってもこのままじゃないですか! またサイスさんやベルエッタさんみたいな不幸な人が生まれますよ!」


「そうだシャル・ロンティア! だからワシらはお前さんらに期待しておるのだ」


 シャルとレジェーナに割って入ってきたのはゴルトだった。


「何を言っているのだゴルト?」とジフトスが怪訝な表情を浮かべる。


「ジフトス。お前は感じんか? このレヴァンとシャルなら、グランヴェルト様とルネシア様を越えられると」


 腰に手を当てて胸を張り、自信満々にゴルトは言い切った。

 ジフトスは露骨に顔をしかめる。


「過大評価だ。こんな小僧と小娘にそんなもの微塵も感じぬわ」


「まったく頑固者め。お前さんの頭の固さには呆れる」


「やかましい! 筋肉ダルマめ!」


「ふん! まぁとにかく、大衆を納得させるにはそれ相応の結果が必要だ。グランヴェルト様さえ倒せれば、この国も変えられよう」


「ちょっと待ってくださいゴルトさん! グランヴェルトを倒すのは俺の最終目的ですからそれはいいです。けど、グランヴェルトを倒さないと納得しない層があの国にいるんですか?」


「若いなレヴァンよ。残念だが現状に甘んじて今のままで良いという層はかなりおる」


 ゴルトが言って、ヴィジュネールが続けた。


「たとえ裕福でなくても、なんとかその日を生きていければそれでいいっていう人間は多いの。自分の生活を乱されたくないって考えは分からなくもないんだけどね」


「『潜在能力値』や『スターエレメント』など格差を生むものがこの国にはあまりにも多い。とくに『戦士』の格差がな」


 ゴルトの説明に俺はおもわず「え?」と間の抜けた声を出してしまう。


「意外かもしれんが『魔女』の方は9割が『スターエレメント』を持たぬ無能として扱われる。だからそこまでの格差は生まれんのだ。逆に『戦士』は細かい数値で測られるから、そこでまた多段に格差が生まれ、大人なら社会的地位。子供ならイジメや差別の対象になる」


 面白くない話だ。

 ただでさえ人間はそんな数値がなくともアーだコーだとイザコザを起こす生き物なのに。


「嫌な話ですね」


「同感だ。だからお前さんたちが結果を出せれば、この国はきっと変わる」


「でもまだグランヴェルトには勝てません。俺はまだまだ弱い。それに残りの将軍にも勝てるかどうか分かりません」


「うむ。グランヴェルト様にはまだ遠く及ばんだろうが『剣聖』と『戦狼』にならば今のままでも十分に渡り合えるだろう。なにせお前さんは『ヴェンジェンス・ソウル』でフルに強化されたサイスに打ち勝ったのだからな」


 意外だった。

『剣聖』と『戦狼』はどちらも『潜在能力値』が900を越えるとサイスは言っていた。

 だから『暴君』『獅子王』『死神』の三人よりも遥かに強いのかと思っていた。


 だから正直、拍子抜けした気分だった。


「『剣聖』と『戦狼』はあの程度なんですか?」


 おもわず口をついて出てしまった。

 俺は、エクトは、これからもっと修行して強くなろうとする身だ。

『剣聖』と『戦狼』がどちらもサイスのレベルだと言うのなら、あとは彼らの魔女が持つ『スターエレメント』にさえ気をつければ勝機は十分にある。


「はは!『あの程度』とは大きく出たなレヴァン。だが正解だ。あの二人はフル強化のサイスと互角の力を持っている。潰すのなら早めの方が良いかもしれんぞ?」


「‥‥‥そうですね。彼らの『スターエレメント』はいったい?」


「んー確か‥‥‥」


「教える訳がなかろうが馬鹿者が!」


 ゴルトを遮って怒声を上げたジフトス。

 俺を睨み付け、腕を組んだ。


「きさまらの力で乗り越えてみせろ! それで負けるならきさまらは所詮その程度だったということだ! わかったか!」


 さすが『獅子王』の名を持つ将軍だ。

 そこで躓き、這い上がれないのならば見込みはないと言いたいのだろう。


「わかりました。やってみせますよ」


 言葉が嘘だと思われたくないから、俺はありったけの気合いを込めて返事をする。

 その気が伝わったのか、ジフトスは「ふん」と鼻息混じりに笑った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ