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第109話『セルシス・アモルテ』

「『潜在能力値』を知っているか?」


 サイスの質問にレヴァンは首を振る。


「いや、なんだそれ?」


「簡単に言えば『戦士』の優秀度だ。グランヴェルジュで産まれた男はまずこの『潜在能力値』を測られる。数値は1~1000まであるが、もちろん高い方が優秀と見なされる。将軍クラスに上がれるのは500以上の『潜在能力値』がある奴のみ」


「それってなんだ? 産まれたときから決まってる数値なのか?」


「そうだ。つまりは伸びしろ。そいつが将来どれだけ優秀な戦士になるかを示す数値だ。俺もリベリオン将軍もタイラント将軍も数値は800以上。『剣聖』と『戦狼』は900以上。グランヴェルト様は1000だ」


「‥‥‥で? その数値がどうしたんだ?」


「500以上の数値を持った者はその将来性から必ず将軍に抜擢される。必ずだ」


 目を伏せ、息を吐く。


「この『潜在能力値』を高くもって産まれた俺は幸せ者だった。あいつを好きになってしまうまでは」


「あいつ?」


「セルシス・アモルテ。俺の幼馴染だった女だ」


 答えて、重くなる胸の内を感じる。

 レヴァンも息を呑む気配を感じさせた。

 サイスはまた目を開けて、レヴァンを見る。


「俺はあいつに夢中になっていた。あいつも俺を好いてくれた。将来さえ誓い合ったほどにな」


「‥‥‥」


「だがグランヴェルジュは『スターエレメント』を持たない魔女を『無能』として扱う。セルシスには『スターエレメント』が宿っていなかった。だから将軍クラスの『潜在能力値』を持つ俺とは結婚なんて夢のまた夢。叶わぬ願いだった」


「そんな理由で‥‥‥」


「俺だって本気で好きになった女を簡単には諦められなかったさ。だからグランヴェルト様に相談もした。グランヴェルト様は、かまわないが将軍の地位を捨てることになるぞと」


 それでも構わなかった。

 セルシスと添い遂げられるなら、底辺だろうがなんだろうが知ったことではない。


「地位なんてどうでもいい。セルシスと地位を天秤にかけろというのなら、俺は迷わずセルシスを取る。取ろうと思った。なのに‥‥‥」


 身の内に生じた深い亀裂が疼く。


「グランヴェルト様がそれを許しても、両親がそれを許さなかった」


『たかが無能の女のために地位を捨てるな!』

『お前のようにその地位を得たくても得られない人間がどれだけいると思っている!』」

『お前は恵まれているんだぞ!』

『お前は将軍になってお父さんとお母さんを楽させてやるって言ったじゃないか!』


 狂気さえ感じた両親の怒り。


「いっそ殺してやりたかった。俺の大切な女を『たかが無能の女』と罵った両親を。こんなに両親を憎んだことはなかった。こんなにも『潜在能力値』を恨んだこともなかった」


「サイス‥‥‥」


「それでも地位を捨てようと思った。両親だって捨ててやろうと思った。あんな奴ら養ってやる価値もない! ‥‥‥だがそんな俺を止めたのが他でもないセルシスだった」


 そう。

 それが全ての過ちだった。


「『お互い新しい幸せを見つけよう』。あいつはそう言った。ボロボロになっていく俺を見るのが辛いと、あいつは‥‥‥っ!」


 どうしてあの時、その意見を認めてしまったのだろう?

 セルシスを拐って、リリーザへ亡命するという手もあったはずなのに。


「‥‥‥幸いなことに。セルシスは俺の親友に召喚されて、そいつの魔女になった。どこの糞とも分からん男に召喚されるよりよっぽどマシだったから、我慢もできた。安心もしていた」


 あの時、あの意見を認めてさえいなければ、自分にもっと度胸があれば。

 こんな末路にはならなかったはずなのに。


「けれどもあいつは俺を裏切りやがった!」


 忌々しい記憶を、沸き起こる感情と共に吐き出す。


「裏切った?」


「セルシスに何度も結婚を迫っていたらしい。だが、それはいい。その時の俺はすでにベルエッタと結婚していたからセルシスとあいつの問題に口を出す権利なんてなかったんだ。結婚をするにしてもしないにしてもセルシスが決めることだと割り切っていた。だけどあいつは! あいつは!!」


 歯が食い込みそうになるほど食い縛り、爪が掌にめり込むほど握りしめた。


『サ、サイス! セルシスが、セルシスが死んだ!』


 泣き崩れる親友の姿。

 

 幼馴染が死んだ。

 誰よりも愛した女が死んだ。

 セルシスが、この世から消えた。


『オ、オレは何もしていない! 何もしていないんだ!』


「そんなはずはないと捕まえて徹底的に拷問した。そしたら呆気なく吐いたさ」


 そう、吐いた。呆気なく。

 そして聞いた。

 こいつがセルシスに、何をしたのかを!

 

 この日ほど、俺は人を殺したくなった日はない。


「あいつは、セルシスを、無理矢理っ!!」


「もういい! もういいですわサイス!」


 気づけば荒ぶっていた息と身体。

 それは例の好きになれない女の声で一気に冷めた。


 涙を流して立つベルエッタの姿が、そこにあったから。




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