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『リリーザ防衛戦』2

 試合の流れが変わった。


 なんだあの二人は?


 あきらかに他の連中とは桁が違う。


 魔女が【無能】揃いとは言え、『潜在能力値』の高いガルバとクロイドが、ああも簡単に撃破されるとは。


 急速に戦況が悪化していく。


 グランヴェルトはリリオデール国王が用意した特別席でそれを眺めていた。


「ほぅ」

「へぇ~、やるじゃねぇか」

「いい動きだ」


 グランヴェルトの背後に並び立つ将軍たちは感心を籠めた声音で呟いている。


「グランヴェルト様、これは‥‥‥」


 隣に立つグランヴェルトの魔女ルネシア・テラが、今の戦況を目の当たりにして焦る声を発した。


「これがリリオデール国王が言っていた『生まれたての希望』とやらか」


 グランヴェルトは素直な感想で応えた。


 赤い髪の小僧とトンガリ頭の小僧はどちらもフレイムとフリーズしか使っていないところを見るに、宿している魔女のレベルはどちらも使い物にならない最低クラスだろう。


 ただ戦士の実力がズバ抜けている。


 赤い髪の小僧の剣技。

 トンガリ頭の小僧の銃技。


 学生の年齢であそこまで仕上げるのは途方もない時間を要したはずだ。


「希望と言うだけある。大した腕前だ」



『こちらレヴァンの魔女シャルです。東エリアの敵を撃破しました』


『エクトの魔女レニーよ。こっちも西エリアをクリアしたわ』


『おお! ありがとう1年!』

『これで正面の敵に集中できるわ!』

『よし反撃開始だ!』


 中央エリアの味方の士気が上がった。

 俺も味方と合流するために走る。


『おいギュスタ!何してんだ!』

『ティランを倒す! お前たちは雑魚をまかせたぞ!』

『待ってくださいギュスタ先輩!一人じゃ無理ですよ!』

『うるさいぞシグリー! このまま何一つ活躍できないで終わってたまるか!』

『ギュスタ!待て!』

『ギュスターーーー!』

『もう! なに考えてんのよアイツ!』

『ほっとけ! 付き合い切れん!』


 テレパシー越しに聞こえたそんな会話に俺は唖然とした。


 思わず足を止めてしまう。


 功を焦るとはこの事か。


 1年の俺とエクトが活躍して、自分たち3年が活躍できないというのがそんなにも許しがたいことなのだろうか。


 ギュスタ。

 何があんたをそこまでプライドの塊にしてしまったんだ。


『ギュスタさん一人で突っ込んで行ったみたいだよレヴァン。どうする?』


 呆れの色が窺えるシャルの問いに俺は少し考えた。


「シャル。エクトにテレパシーを繋いでくれ」


『うんわかった。もしもしエクトくん?』


『なんだよ』


「エクト。シグリー達の援護を頼む。俺はギュスタの加勢に向かう」


『はぁ? あんなヤツほっとけよ』


「今は味方だ。見殺しにはできないだろう」


『勝手にしろ』


「悪い」


 俺はギュスタのいる位置をマップで確認し、そこへ向かって荒野を走り抜けた。



 ギュスタに追い付いたのは北エリアに入ってすぐだった。


 枯れた大地の上でギュスタと、そしてティランと思われる敵がすでに対峙していた。


 ギュスタの身長は俺よりも頭一個分は高い。


 だが相手のティランは彼を優に越える二メートルの巨体。

 まるで筋肉の塊だ。


 そんなティランの得物は大型のハンマー。


 ティランは超重量のその武器を軽々と振り回し、ギュスタに反撃の隙を許さない。


 ギュスタは避けるので精一杯といった感じだ。


 やっぱり押されている。

 加勢しないと。


 しかしここで【グレンハザード】のフレイム弾を撃てば威力がありすぎてギュスタを巻き込んでしまう。


 かといって【ブレイズティアー】のフレイム弾では遠すぎる。


 ここは、回り込んで挟み込んだ方が良さそうだ。


 その時、ギュスタがティランのハンマーを盾で受けて、それでも勢いを殺せずにふっ飛んできた。


「うおわああああ!」


 飛んだ先にあった大岩に激突し、その大岩が粉々に砕けた。


「ギュスタ!」


 俺はギュスタに駆け寄り声を掛けた。


 ギュスタは粉々になった大岩群の上でぐったりしている。


 彼は激しく息が上がっていた。


 今の一撃ですでに満身創痍。

 これ以上の戦闘は厳しい。


「ふん、雑魚が」


 鼻息と共に吐き捨てたティランがこちらに近づいてくる。


 なんて巨体だ。

 本当に高校生か?

 そんな疑問を胸に、俺は【グレンハザード】を構えた。


「ま、待て、そいつは、わたし、がやる! お前は下がっていろ!」


 ギュスタがボロボロの身体を立ち上げて言い放った。


 身体が震えているのが分かる。

 もう立っているのが限界なのだろう。

 気を失わなかっただけでも大したものである。


「あんたもうボロボロじゃないか。ここは俺にまかせろ」


「うるさい! わたしはまだやれる!」


『やめてギュスタ! 見苦しいわ!』


「ロシェル!?」


『もういいでしょう? あなたじゃティランには敵わない。ここはあの子にまかせましょう』


「だめだ!」


『どうして!?』


「わたしはまだ! 君に恥をかかせたことを詫びれていない!」


『え?』


「魔法の名門家であるロンティア家の君を魔女として召喚したあの時から! ロンティア家の魔女を宿すソールブレイバーとして恥ずかしくない戦士でありたいと! 君の自慢の戦士でありたいと! わたしは己を磨き続けてきた!」


 っ!?


 どういうことだ?


 こいつ、まさかロシェルのことを?


「なのに! 昨日の模擬戦であんな無様な醜態を晒して、君の顔に泥を塗ってしまった! ロンティア家の長女である君に、あんな恥をかかせてしまった!」


『ギュスタ‥‥‥』


 そうか。


 そうだったのか。


 やっとわかった。


 ギュスタが功を焦る理由。


 3年のプライドやメンツだけではなかった。

 本当の理由が全て自分の魔女ロシェルを思っての行動だったとは。


 ギュスタの動機を理解した途端、俺の胸の内が熱くなるのを感じた。


 自分の魔女のために必死になるギュスタを見ると、似た理由で戦っているせいか俺は共感してしまった。


「だから! 今ここでティランを倒し、汚名を返上する!」


 深刻なダメージを負ったその身体でギュスタは走り出し、ティランへと向かっていく。


「うおおおお!」

『やめてギュスタ! もういいから!!』


「待てギュスタ!」

『ギュスタさん!』


 俺達の制止を聞かずにギュスタは特攻した。

 すると向かいのティランが片手を大地に着け、唱えた。


「『ブルーサーペント』」


 大地に着けた片手から氷の蛇が現れ、その身を大地に滑らせながらギュスタに接近し足に噛みついた。


「ぐっ! これは『魔法第二階層詩セカンドソール』か!」


 足を噛みつかれたギュスタは完全に動きを止められていた。


 その隙をティランが逃すはずもなく。

 ギュスタはティランの大型ハンマーを防御もなく食らった。


 フルパワーだったらしいティランの一撃で、ギュスタは五メートル以上吹っ飛ばされた。


『ギュスタ!? ギュスタ! いや! ギュスタ!!』


 ロシェルの声も虚しく。

 そのままギュスタは光に包まれて消えた。


『【チーム・リリーザ】ギュスタ=戦闘不能=エリア外へ』


「くそっ!」


 俺は思わずそう言っていた。


 拒まれていたとは言え、助けてやれなかった。


 歯を食いしばり、悔しさを噛み締める。


 ドンと音を立ててティランが俺の前に立ちはだかった。


「次は貴様だ」


「‥‥‥上等だこの野郎!」



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