第102話『無能の魔女の覚醒』
エクト・グライセンを仕留められる。
ジフトスにはその確信があった。
なぜなら奴の魔女レニー・エスティマールは現在『ブルーストライカー』を展開している。
つまり奴を守る厄介な『アイスシールド』はない。
そのうえ『ブロークン・ハート』の光を浴びせ、奴の視界を奪った。
突然のフラッシュで驚き戸惑っているだろう。
これ以上の好機はない!
「もらったぞ! エクト・グライセン!」
『ガオガン』を構え、光の向こうにいるであろうエクトに向かって乱射する。
乾いた発砲音が何重にもなって空へと響いた。
「エクトさん!」
あの小娘のような小僧が叫ぶ。
ほぼ同時に『ブロークン・ハート』の光が収まっていく。
ゆっくりとエクトの姿が見えてきた。
エクトは。
奴は。
『氷の盾』に守られていた。
「なんだとっ!?」
『そんな!? 『ブルーストライカー』を展開していたはずじゃ!?』
レジェーナ共々驚愕してしまった。
空を見上げれば、そこにはまだ6本の氷柱が浮遊していた。
奴の魔女が展開した『ブルーストライカー』は、まだそこにあったのだ。
どういうことだ!?
魔女は魔法を一つずつしか唱えられないはずだ!
『グラーティアさんに教わった『同時詠唱』。コツさえ解れば案外簡単ね』
同時詠唱だと!?
ジフトスはレニー・エスティマールの言葉に耳を疑った。
無能の魔女グラーティアが、有能者に対抗するために考えたと言われている『同時詠唱』。
一つの魔法を口で詠唱し、もう1つを脳内で詠唱する。
思考と動作を切り離した神業とも言える詠唱法。
それをこの小娘は、今!
「残念だったなおっさん」
視界を回復させたエクトが、こちらを見据えて嗤っている。
忌々しいほど余裕の笑みを浮かべている。
「お、おのれ!」
ジフトスは動けなかった。
さっきので仕留められなかったから。
「オレの女は有能だろう?」
エクトが『ステラブルー』を構えた。
すると全ての『メテオレイ』を撃ち落としてきた6本の氷柱『ブルーストライカー』と、何個もの氷の盾『アイスシールド』が彼の周りを浮遊する。
いつでも攻撃・防御が可能な、完璧な状態となった。
戦士の実力も、魔女の実力も、すべてあっちが上回っている。
認めたくなかった。
自分ではなく『有能者』のレジェーナが、あんな『無能』の魔女の小娘などに!
「み、認められるかああああ!」
『ガオガン』を構えて発砲。
しかし撃った弾は全て『アイスシールド』によって防がれる。
「撃ちまくれ! レニー!」
『了解!』
エクトとレニーの声が弾けた。
次いで『ブルーストライカー』と『ステラブルー』による光線と弾丸の嵐がジフトスを襲った。
それはまさに弾雨。
盾で防いでも全て防ぎ切れるものではなかった。
左肩を撃ち抜かれ『ガオガン』を落とす。
足を撃たれて体勢を崩す。
右肩を撃ち抜かれて盾を落とした。
何一つ装備のない無防備な状態になったジフトスに、エクトとレニーの苛烈な弾幕が襲いかかる。
全身の至るところを光線と弾丸が貫通していく。
重なる激痛。
体のあちこちから血ではなく光の粒子が飛び散っていく。
まさかこんな、無様な結果になろうとは。
すまないゴルト。
ただの一撃も、奴に与えられなかった。
度重なる激痛でジフトスの意識が薄れていく。
ワシはここまでだサイス。
受け取れ!
最後に強く念じた。
そしてすぐ後、蜂の巣にされたジフトスの意識は、ついに消えた。




