第100話『待たせたな』
マールは、最初からこうなることは分かっていた。
自分たち学生がたった三ヶ月の特訓で軍人に、それも将軍クラスの『獅子王リベリオン』に。
勝てるわけが、なかったんだ。
マールは痛む全身をなんとか立たせて、前を見た。
48人もいた仲間は、もうすでに10人ほどに減っている。
かろうじて立っているのは自分と、ギュスタとロイグとシグリーのみ。
でもみんな満身創痍。
息も上がっていて、立っているのがやっとだった。
マール自身もそうなのだから。
「どうした? もう終わりか?」
嫌みなくらい余裕な獅子王が嗤う。
悔しいが、獅子王は息ひとつ乱していない。
そして何より、キズひとつ付けられていないのだ。
48人のソールブレイバーが束になっても、所詮は学生。
本物の軍人には歯が立たなかった。
それでも、どうして‥‥‥ただの一撃も入れられないのだろう。
この三ヶ月間の努力が、すべて無駄だったと言われているようだ。
「ふん。所詮お前たちごときが挑んでいい相手ではなかったと言うことだ。たった三ヶ月の特訓でどうにかなるとでも思ったか?」
「思ったんですよ! 悪いですか!」
悔しいから、本気で叫んでいた。
獅子王がマールを睨む。
マールも負けじと獅子王を睨み返した。
『マ、マール?』
中でレイリーンが驚いた声を出す。
どうにかなると思ったのは事実だ。
エクトが言っていたんだ「オレとレヴァンに賭けてみろ」って。
彼らの強さは本物だった。
特訓で何度か見たが、あの歳で、あれだけの実力をもっている。
そんな彼らがいるから、この戦いにも希望が持てたんだ。
「どうにかなるって、思えたんです。レヴァンさんとエクトさんは、本当に強いから、勝てるって!」
「ほう? ようするに他人任せか」
「違う!」
マールは首を振った。
「他人任せなら、最初からあなたと戦うなんてことはしなかった!」
「そうだ! 少しでもあいつらの役に立つために! 俺達は!」
ロイグが言って、獅子王は。
「その結果がこれだ。きさまらはワシにキズひとつ負わせられず無駄に散って終わる!」
言って消えた獅子王は、気づけばマールの目の前にいた。
「あ‥‥‥っ!」
「マール!」
『マール!』
ギュスタやレイリーンたちが自分の名前を叫んだ。
ほぼ同時に獅子王が戦斧をマールに向かって振り下ろしてくる。
だめだ。
避けられない。
完全に反応が遅れていた。
やるだけのことはやった。
僕は、やりましたよエクトさん。
獅子王にダメージの1つも与えられなかったけど。
僕は、やれるだけのことは、やりました!
脳天に戦斧の直撃をくらって、ついにエリア外へ飛ばされる。
そう思ったのだが、戦斧の直撃は来なかった。
「‥‥‥?」
反射的に眼を閉じていたマールは、いつまで経ってもこない戦斧の一撃に、ついに眼を開けた。
そこには獅子王の戦斧を受け止めてくれている『氷の盾』が浮いていた。
これ、まさか!
「よぉ」という声が聴こえ、マールはその声の方を振り向いた。
黒髪のトンガリ頭で、真っ黒な瞳。
銀色に輝く銃を二丁装備した男が、そこに立っていた。
「またせたな。お前ら」
「エ、エ、エクトさん!」
半泣き状態の声でマールが叫んだ。
獅子王も現れたエクトを見て、顔を険しくした。
「来たか、エクト・グライセン!」
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