第99話『サイス再び』
「醜いですね」
観客席から試合の流れを観ていたルネシアがそう吐き捨てた。
醜い、とは今『獅子王リベリオン』に立ち向かっているあの学生どものことだろう。
情け容赦ない獅子王の攻撃に、学生たちが何人も吹き飛んでいく。
まるで虫けらのように。
「お前にはそう見えるか?」
グランヴェルトが聞くと、ルネシアは迷わず頷く。
「はい。ヤケになっているようにしか見えませんね」
ヤケになっているのは同感だった。
たが、奴らの目は。
「俺には奴らが、美しく見える」
「グランヴェルト様?」
怪訝な表情でグランヴェルトに視線を向けるルネシア。
グランヴェルトは構わず続ける。
「ヤケにはなっているが、奴らは誰一人として諦めていない眼をしているだろう」
「え? いえ、私には‥‥‥」
そうは見えないらしい戸惑うルネシアに、グランヴェルトはふと笑った。
この女の一番の魅了はこれだ。
「いい。お前にはそう見えた。俺にはこう見えた。それでいい」
「‥‥‥も、申し訳ございません」
「気にするな。俺はお前のそういう正直なところは評価している」
「ぁ、ありがとうございます」
「奴らを見ているとシェムゾを倒した後のリリーザを思い出す」
「『リリーザの悲劇』ですか?」
「その後の話だ。シェムゾとグラーティアを失ったリリーザは、それこそあんな風に俺に立ち向かって来ただろう?」
「そうですね。狂ったかのようにグランヴェルト様に挑んできた身の程知らずばかりでした。でも、まさか狙いがグランヴェルト様を止めるためのソルシエル・ウォーのルールを利用した『大人達の全滅』だとは思いもよらなかったですが‥‥‥」
「絶望している様に見えてどこか諦めていない。だから俺には、あの小僧どもが美しく見える」
「美しく‥‥‥」と呟いたルネシアは視線を戦場へと戻した。
奴らを駆り立てるのはきっとレヴァンとエクトの存在。
あの二人がいるから、希望を捨てずにあんな無様で惨めな戦いを晒すことができるのだろう。
あんなのが美しいと感じるとは、我ながら悪趣味だとグランヴェルトは思った。
※
『【リリーザ】=グリッシュ=戦闘不能=エリア外へ』
もう、何人やられたのか。
何度目の撃破アナウンスなのか。
それは分からない。
俺は敵の数を見た。
やっと残り二人だ。
あと一息!
草原を蹴って敵との距離を一気に詰める。
「『ファイアランス』!」
『エクスプロード』ではない、別の炎の『魔法第二階層詞』を一人の敵が撃ってきた。
錐のように鋭利な槍状の炎が彼らの周りに召喚され、それはそのまま俺に向かって飛来する。
握り直した『ブレイズティアー』でそれら全てを難なく弾き、さらに加速を強める。
「くっ!」っと二人の敵の内一人が前に出た。
剣と盾というオーソドックスな装備をして、俺に向かってくる。
残された後ろの敵はライフルと盾を装備して後方支援に回るようだ。
さっきの『ファイアランス』でわかったが、このエリアで『シュトゥルーム』を維持して封鎖しているのは、後衛のあいつだ。
あいつさえ倒せば、ギュスタたちの救援に向かえる。
「うおおおお! 子供のくせにいいいいっ! ぎゃあ!」
うるさい敵をすれ違いざま足を切り伏せる。
ガクンと体勢を崩した敵の背中に向かって『ブレイズティアー』で数発の弾丸を叩き込む。
それによって敵が倒れ、アナウンスが聴こえる。
構わず、最後の敵に全力疾走する。
「く、くるな! くるなああああ!」
敵は軍人にあるまじき悲鳴を上げてライフルを乱射してくる。
避けるのもバカらしいほど精度のない射撃だった。
そのまま接近し、思いっきり蹴りをぶちかました。
敵はなんとか盾でそれを受けるが、威力を抑えられずにぶっ飛び、草原で倒れて何度か転がった。
銃も盾も落とした敵は、なんとか起き上がろうとする。
もう立たせまいと俺は敵の胸を踏みつけ、起こそうとしていた身を草原に叩き戻した。
「ぐあっ!」
「『エクスプロード・ゼロ』!」
俺は唱えて、踏みつけた足からそのまま起爆。
巻き起こる爆煙。
撃破のアナウンスが流れるが、同時に何人かの仲間のアナウンスも流れた。
ここ『西エリア』を囲っていた『シュトゥルーム』もおさまり、俺はすぐさま『南聖エリア』に向かって駆け出した。
刹那、悪寒が全身を襲った。
「っ!」
とんでもない闘気を感じる。
しかもそれは、俺に近づいて!
キィンッ!
振り向いた直後だった。
巨大な鎌が、俺に向かって振り下ろされていた。
なんとか『ブレイズティアー』で止めはしたが。
こいつは!
「お前の相手は、この俺だ。レヴァン・イグゼス!」
「死神サイスっ!」
『こんなときに!』
俺も、おそらくシャルも。
最悪なタイミングで現れた『死神サイス』を前に、一粒の汗を流した。
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