第98話『若人たちの戦い』
甲高い雄叫びを上げた戦士と魔女たちは、目に光が灯り、一斉に立ち上がった。
その光景にギュスタは目を丸くしてしまう。
「あーー目が覚めたぜ!」
『もう最悪! 人の頭の中に勝手に入ってきて!』
「くっそー! 頭ん中いじられた気分だぜ」
『うー、まだちょっとクラクラするわ』
「おお! お前ら正気に戻ったのか!」
ロイグが喜ぶ。
「ああ戻ったぜ! バッチリな!」
正気を取り戻した仲間たちはみな『魔女兵装』を召喚し、目の前にいる『獅子王リベリオン』に構えた。
「形勢逆転だぜライオン野郎!」
仲間の誰かがそう言った。
しかし獅子王の表情は曇ってはいたが、決して追い詰められた獣の顔ではなかった。
48人のソールブレイバーに囲まれているにも関わらずに、だ。
「まさか、あんな歌で『ブロークン・ハート』の効果を打ち破るとはな。全員魅了して『やつら』の挟撃に使ってやろうかと思っていたのだが‥‥‥」
戦斧を肩に乗せた獅子王が呟く。
「お前にとっちゃ『あんな歌』でもな! 俺たちにとっては特別な歌だったんだよ!」
「そうだ! バカにすんじゃねぇぞ!」
「あっさり魅了されていた分際でよく言う」
嘲笑う獅子王に、仲間たちがグッと口をつぐむ。
そして獅子王は目付きを鋭くした。
その獲物を見るような鋭い眼光に、みんながビクついて一歩下がった。
が、それだけ。
みんな一歩だけで、そこで踏みとどまった。
みんな分かっているのだろう。
レヴァンとエクトのいないこの状況の深刻さを。
そしてこの獅子からは逃げられないであろうことも、きっと理解しているはず。
逃げられないのならば、引かずに戦うしかない。
みんなそれが分かっているから、たった一歩下がるだけですんだのだろう。
その様子を見た獅子王は「ふん」と鼻息をつく。
「良いだろう。この状況‥‥‥きさまらにはちょうど良いハンデだ。このワシを恐れぬというのなら、今すぐかかってくるがいい!」
戦斧を振り下ろし、地面にザンッと叩きつけた獅子王が吼えた。
※
『いくぜみんな!』
『おお!』
『俺たちの強さを見せてやれ!』
『うおおおおおおおおおおお!』
威勢ある仲間たちの声がテレパシー越しに響いた。
俺はそれを敵の攻撃を捌きながら聴いていた。
「みんな無茶だ! 獅子王を相手に戦うなんて!」
咄嗟に叫んでしまっていた。
どう考えても無謀だったから。
すると『レヴァン』とギュスタから返事がきた。
『俺達はこれから獅子王との交戦に入る』
「ギュスタ先輩! いくらなんでもそれは!」
『わかっている。だがやるしかない。幸いみんなの士気は高い。お前とエクトのためにも、できるだけ獅子王を消耗させてみせる!』
『そうだぜレヴァン! まかせとけ!』
『男みせてやるよ!』
『心配すんな! お前は前に集中しろよ!』
次々と送られてくるテレパシー。
そして。
『テレパシーはもう繋げんなよ?』
それを最後にテレパシーは切られ、仲間たちの声は聴こえなくなった。
数秒後。
『【リリーザ】=カロル=戦闘不能=エリア外へ』
『【リリーザ】=マクセ=戦闘不能=エリア外へ』
『【リリーザ】=ヴェル=戦闘不能=エリア外へ』
仲間たちの撃破アナウンスが流れ、俺は全身が熱くなった。
歯を食い縛り、正面を見る。
『グレンハザード』を握り直し、飛びかかってくる敵三人を捉えた。
「どけええええっ!」
『『ブレード・イグニション』!』
俺が『グレンハザード』を薙ぎ払うのと同時にシャルが魔法を付加する。
巨大な蒼炎の刃はその敵三人を容易く焼き払った。
敵は悲鳴を上げては光に包まれていく。
『【グランヴェルジュ】=ストーン=戦闘不能=エリア外へ』
『【グランヴェルジュ】=オルコス=戦闘不能=エリア外へ』
『【リリーザ】=ピアズ=戦闘不能=エリア外へ』
『【グランヴェルジュ】=ラルフ=戦闘不能=エリア外へ』
『【リリーザ】=ハミルト=戦闘不能=エリア外へ』
俺が撃破した敵のアナウンスの中にも、仲間の撃破アナウンスが混じる。
残りの敵はあと9人ほど。
「くそ!」
『レヴァン落ちついて! 私たちはここを突破することに集中しよう!』
「ああ、わかってる!」
みんな頑張ってるんだ。
『獅子王リベリオン』を相手に。
『【リリーザ】=レグナ=戦闘不能=エリア外へ』
『【リリーザ】=マレット=戦闘不能=エリア外へ』
『【リリーザ】=ギース=戦闘不能=エリア外へ』
『【リリーザ】=レール=戦闘不能=エリア外へ』
情け容赦ない仲間の撃破アナウンスが、怒濤の如く続いた。
次回の更新は明日の16時です。
ほぼ毎日更新します。
遅くても二日目までには更新します!




