第96話『獅子王現れる!』
ギュスタ・ベルトンは戦慄した。
隣に立つロイグ・カーニーもそのような気配を見せる。
中にいるロシェルとロミナも、あまりの突然さに一声も上げない。
今、目の前には『獅子王』の名を冠する将軍が立っている。
厳つい顔の周りを黄金色の髪が覆い尽くし、それがまるでライオンのたてがみを思わせる。
分厚い身体と長身で巨人に見えるその男は、赤いラインの入った漆黒の軍服を身に纏い、赤いマントを背に垂らしている。
片手には巨大な戦斧。
もう片手には丸く大きな盾を装備している。
『獅子王がそっちにいるんですか!? すぐ行きます!』
『今いく! 待ってろ!』
レヴァンとエクトからのテレパシーでハッと我に返ったギュスタは『魔女兵装』である愛剣『ロイヤルドセイバー』と盾『ロイヤルガード』を構えた。
ロイグも持ち直したらしく、槍と大盾を構える。
彼の背後にいるクラスメイトたちも武器を構えだした。
どうやってここに来たんだ。
ここは『南西エリア』だ。
来るならばレヴァンのいる『西エリア』か、一年生の部隊が見張っている『南エリア』を突破してこないと来れない場所にある。
獅子王が来た方角的に『南エリア』から来たのだと推測する。
しかし、それなら一年生からの一報があってもおかしくはなかったはず。
なぜ誰にも見つからずにこの草原を駆け抜け、ここまで来たのか?
『ギュスタ! あれを!』
『お兄ちゃん! あれ見て!』
ロシェルとロミナが悲鳴のような声を上げた。
それもそのはずで、獅子王の背後にはこちらの味方であるはずの一年生部隊がいたのだ。
ギュスタはすぐに彼らの異変に気づいた。
目が光を無くしている。
「おいお前らどうした!」
ロイグが声を上げた。
「まさか『ブロークン・ハート』に!?」
咄嗟に思い付いた原因を口にしたギュスタは、獅子王を見やる。
獅子王は不敵に笑って見せると、大きく吼えた。
「やれ! レジェーナ!」
『んふ、まかせてダーリン!』
刹那、獅子王から発せられたピンクの光がギュスタたちを襲った。
反射的に盾で防御したギュスタは背後からの悲鳴を耳にする。
「うわああああ!」
「あ、頭が!」
「な、なによ、これ!」
「これが例の、嘘だろこんな!」
「いや、入ってこないで!」
男女の悲鳴が入り交じり、ドサドサと倒れていく音が聞こえる。
どうなっている?
このピンクの光のせいか?
眩しいだけで特に何も感じないこのピンクの光。
その光が収まり、ギュスタはすぐさま振り返った。
同じくロイグも振り返る。
その先の光景は、仲間がみな倒れている酷く絶望的な光景だった。
「嘘だろ‥‥‥おい!」
ロイグが信じられないと言った様子で叫んだ。
ギュスタも一気に仲間を減らされた絶望感に押されて口が開かなかった。
「ほぉ? お前たちには『ブロークン・ハート』が効かんようだな」
『あらあら一途な良い子たちねぇ』
獅子王とその魔女が感心した声で言ってくる。
やはりあのピンクの光は『スターエレメント』の『ブロークン・ハート』だったのか!
あれだけ対策をしたのに、こんな呆気なくみんなやられてしまうなんて。
「ロイグ! 構えろ!」
言ったギュスタは己の武器を構えながら獅子王を睨む。
ロイグも獅子王に向かって武器を構えた。
「なんだ? ワシと戦うつもりか?」
「当然だ!」
身の震えを悟られぬように必死に押さえながらギュスタは叫んだ。
将軍クラスだ。
自分とロイグが束になっても勝てる相手ではない。
だが、逃げるわけにはいかない。
「ふん。ワシよりもそいつらの相手をしてやったらどうだ?」
「なんだと?」
「見ろ」
獅子王が指差す先には、ゆらりと立ち上がってくる倒れていた仲間たちの姿が。
しかしその目は、あの一年生たちと同じで光を無くしていた。
『うふふ、さぁみんな。その二人をやってしまいなさい!』
獅子王の魔女が指示を出すと、正気を無くした仲間たちが一斉にギュスタとロイグに襲いかかってきた。
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