第91話『きっと彼女は疲れていた』
ベルエッタをホテルまで送り届けた俺とシャルは、自分達のホテルまで帰るため人気のない街中を歩く。
人目を気にしなくていいからか、シャルが俺の腕に手を絡めて身を寄せてきた。
「なぁシャル。なんでベルエッタさんは、俺たちを選んだんだろうな」
「え?」
「本心ではなかったにせよ、ベルエッタさんはずっと親の言いつけ守って無能の人間を貶してきたわけだろう? それが今回は親の言いつけを破って俺たちと友達になる選択をした。それがよく分からない」
「レヴァンには分からなかったんだ。私には分かったよ。同じ女だからかな?」
「どういう事だ?」
「愛してほしい人から愛してもらえなくて、友達が欲しくても親の目が怖くて作れない。その悪循環にベルエッタさんは疲れきってたんだと思う」
「疲れきってた?」
「うん。正直な話、私たちは出会うタイミングが良かったんだと思うよ。ベルエッタさんがどうしようもなく疲れきってて、癒しを求めてた時に出会えたから、友達になれた」
そうか、だからベルエッタは俺とシャルを選んでくれたのか。
最後までサイスの言いなりにはならずに、俺とシャルに罵声を浴びせなかった。
本性を知られて焦ったり、シャルにそれでも友達だと言われて泣いたり、そんな彼女の姿は少しタイミングがズレていたらきっと見ることができなかった。
旦那にも、両親にも、どこにも心の拠り処がなく、疲れきっていたベルエッタだったから友達になれた。
本当に縁というのはどこにあるか分からないなと俺は内心で苦笑する。
「あのサイスって人も、ぜんぜんベルエッタさんを愛してるって感じがなかったよ。まるで物を見るみたいな目でベルエッタさんを見てた」
俺はサイスがムカつく奴だったのは十分に理解していたが、ベルエッタを見ている目までは分からなかった。
シャルの観察眼には驚かされる。
「あいつにとってベルエッタさんはその程度の存在なんだろう」
「そうかもしれないね。他に好きな人がいて、国の決まりで無理矢理別れさせられたなら、まだあの態度も納得はするんだけど」
「どうだろうな。そもそも友達すらいなさそうな奴だぜ? 好きな人なんてそれこそいないだろう」
「うん。私もそう思う」
「だろ。ほら、もう遅いから帰るぞ」
「その前にあそこ寄ってかない?」
シャルが指差した先には虹色に輝く看板が立て掛けられた大人のホテル。
大人がラブラブするホテルだ。
俺は大きく嘆息する。
「わかったよシャル。そんなに行きたいなら『魔法第四階層詞』を覚醒させた時のご褒美に連れてってやるよ」
「ほんとに! やった! 明日絶対に覚醒してやるもんね!」
「ま、未成年者は立ち入り禁止なんだがな」
「え?」
「いや、なんでもない」




