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第88話『友達だから』


 俺はエメラルドフェルに住んでいたからローズベルの街の良い店など知らない。


 とはいえこんな夜中にやっている店などそもそも限られている。

 24時間営業の店など、俺が知っているのはファーストフード店くらいだった。


 だからアクアロートから少し歩いた先で見つけたファーストフード店に入店し、適当に物を注文して席についた。


 俺とシャルで座り。

 テーブルを挟んだ向かいの席にベルエッタが座る。


 俺とシャルはともかく、ベルエッタの格好は明らかにファーストフード店に来るような格好じゃなかった。

 

 ドレスを着たベルエッタの来店に店員さんが少し驚いていたのは言うまでもない。


 しかし当のベルエッタはまるで気にしていない様子だった。

 時間帯もあって客が少ないのもあるのだろうが。


「ふふ、こうやって誰かと話しながら食べる食事は久しぶりですわぁ!」


「え、御家族の方とかはいないんですか?」


 驚いたシャルが聞く。


「わたくし結婚して自立してますからマイホーム暮らしですわ」


「マイホーム! いいなぁ~! ねぇレヴァン。私たちもマイホーム考えておかなきゃね」


「そうだな。子供は四人つくるから大きい家じゃないとダメだ。大きくなったときのことも考えて子供部屋も四つ確保できる家じゃないとダメだな。もちろん子供と遊べる広い庭がついた家がいいな。いつか子供が友達を呼んできても恥ずかしくない家がいい」


「こ、この人! まだ子供もいないのに子供のことばっかり考えてますわ!」


「レヴァンは子供好きだもんねぇ。子供が出来たら私のことなんかかまってくれなさそう」


「そんなはずないだろうシャル。死ぬまで愛してるに決まってる。いや死んでもだ」


「んもぉレヴァンったらぁ~。のぼせちゃうよ私~」


 シャルは顔を赤くして、嬉しそうに俺の胸に指を突き立ててグリグリしてきた。


「‥‥‥あなた方はホントに仲良しですわね」


 さすがに三度目で慣れたのか、ベルエッタは呆れた様子でそう言った。


「でも、羨ましいですわ。あなた方が‥‥‥」


 切ない顔を見せるベルエッタになんと声を掛けようか迷っていると、ちょうど良いタイミングで店員さんが注文した物が持ってきてくれた。


「あら! これとっても美味しいですわ!」


 よほど空腹だったらしく、さっそくハンバーガーを手にとって食べだしていたベルエッタは、顔を輝かせながらそう言った。


 この感想には、正直驚いた。


 ベルエッタはその喋り方や纏っている気品などから、どこかの良いとこ育ちのお嬢様だと俺は思っていた。


 だからこんなハンバーガーなど食べても舌に合うはずはないとも思っていた。

 別に友達でもなんでもない相手だから、そんな舌に合う店など端から探す気はなかったのだが。


「ベルエッタさんって、本当は友達100人もいないでしょ?」


 ブハァーーーーーッ!


 シャルの言葉に、ちょうどドリンクを飲んでいたベルエッタが盛大に吹き出した。


 その吹き出したドリンクは俺に全部命中した。

 黒糖混じりの炭酸水が目に染みる。


「な、なんですの急に!?」


「だって誰かと話しながら食べるのは久しぶりって言ってたじゃないですか。友達が100人もいるんなら、そんなことまずないと思いますよ?」


「う‥‥‥そ、それはあれですわ。なかなか予定が合わなくて」


「別にそんな嘘つかなくてもいいじゃないですか」


「う、嘘じゃありませんわ! わたくしには100人の友達が‥‥‥っ!」


「あーそうですかぁ。なら私とレヴァンがベルエッタさんの友達になる必要はないですねぇ」


「え?」とハンカチで顔面を拭く俺と、そしてベルエッタがシャルを見た。


「ベルエッタさん凄く寂しそうだっから友達になってあげようかなぁって思ってたんですけど、本当に100人も友達いるなら別に良いか~なんて」


「ちょちょ、ちょっ! ちょっと待ってくださいな! わたくしと友達になってくださいますの!? 本当に!?」


 驚くほど顔色を変えてベルエッタが身を乗り出してきた。

 しかしシャルはワザとらしく首を傾げる。


「えぇ? でも100人友達いるんですよね? だったら私たちなんて」


「ぁあアレは嘘! 嘘ですわ! 友達なんて出来たことないですわ! だ、だから!」


「だから?」


 シャルが意地悪な笑みを浮かべて聞き返す。


「だから、その!」


 顔が赤くなり始めたベルエッタ。

 最後の言葉が出てこないようだ。

 シャルはただベルエッタの言葉を待っている。


「と、と、友達に! なりなたいですわ!」


 噛んじゃったよこの人!

 なりなたい、てなんだ!?


「おしい! おしいですよベルエッタさん! でも良いですよ。友達になりましょう!」


「へ!? い、良いんですの!?」


「良いですよ。ね? レヴァン」


「え、ぁ、ああ。まぁ」


 顔面を乱れひっかきされて、あげくドリンクの雨を食らわしてきた相手と、なんで会ってわずかな期間に友達にならなきゃいけないんだ。

 っと反論したかったが、友達になった以上はそれくらい許してやるしかないかと俺は自分を納得させた。


 凄く矛盾を感じるが、気のせいだと思う。


 しかしシャルの物好きにも困ったものだ、

 こんな素性の知れない相手と友達になるなんて。


 さすがに無防備すぎる。

 あとでよーく言っておかないといけないな。


「ぁぁ‥‥‥友達! やっとわたくしにも、友達が!」


 心底嬉しそうにベルエッタが両手を絡めて呟いた。


 よく見ると俺の分のハンバーガーまで食べてやがるが、友達になった以上はそれくらい許してやるしかないか。


 軽いデジャヴを感じるが、きっと気のせいだ。


「ベルエッタッ!」


 怒声と共にバンッ! と荒々しい音を響かせて店のドアを開けてきたのは一人の男性だった。


 黒色の髪とパープルで鋭利な瞳をした男性は、どうみてもグランヴェルジュの軍人である格好をしていた。


 ズカズカとこちらの席に近づいてきて、ベルエッタがその男性を見た。


「あなた、サイス!」


「人を呼び出しておいてこんなところで何をやっている!」


 サイスと呼ばれた男はいきなりベルエッタの腕を掴んで無理矢理に席から立ち上がらせた。


「い、痛いですわ! そんな乱暴に! あなたがいつまで経っても来ないからわたくしは!」


「うるさい! 話は外で聞かせてもらう!」


「おい!」


 俺はベルエッタを引っ張るサイスの腕を掴んで止めた。


「レ、レヴァンさん‥‥‥」


 ベルエッタが震えた声を出す。

 

 ギラリとサイスが俺を睨んでくる。

 その睨みに負けずと睨み返した。


 先程のベルエッタの言葉から察するに、ベルエッタがアクアロートで待っていたのはこの人物だったようだが。


「離せ。お前には関係ない」


 低く、敵意に満ちた声音だった。

 確かに少し前なら関係なかったが、今はもう違う。


「あんたが離せよ。ベルエッタさんは俺とシャルの友達だ」


「友達、だと?」


 サイスの眉間がギリギリと露骨に寄った。




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