第83話『サプライズ』
いよいよ強化合宿も最終日となり、果たして、最後の夜を迎えた。
「おいレヴァン。こんな時間に何しようってんだ?」
並ぶ男子たちの先頭に立つエクトが眠そうな顔をしながら言った。
時刻は夜の22時。
良い子はとっくに寝ている時間だ。
良い子かどうかはわからないが、エクトが眠そうにしているのも仕方なかった。
「目が覚めるぞ。マジで凄いものが見れるからな」
俺はニヤリと笑って答えた。
ギュスタ・ロイグ・シグリー・マールや他の男子生徒全員をここ訓練用コロシアムに集めてほしいとシャルに頼まれたから、今こうやって指定された時間にみんなを集め終えたところだった。
シャルたちが何をするのかは、正直には知らない。
でも男子の誘導を頼まれたときにシャルに言われたのが先程の言葉なのだ。
来てみればコロシアム内部にあるステージには巨大なカーテンが幕を閉じている。。
全開にされた天井には、月の光に照らされた星の海が広がっていた。
淡い青色の月光。
刹那、聴き慣れぬBGMが流れ出した。
「な、なんだ?」
「なんだこの音楽?」
ギュスタとロイグが驚き、他の男子たちもざわめく。
次の瞬間、バッと巨大なカーテンが幕を下ろし、同時にブルーとホワイトのスポットライトがバンという音と共にステージを照らし出した。
「‥‥‥っ!?」
俺は、露になったその光景に眼を奪われた。
俺だけじゃない。
この場に集まった男子生徒たち全員が、カーテンの裏から現れた光景に釘付けになった。
まるでライブのように派手な光に満ちたステージには、しゃがんだシャルとレニー。
その背後にはロシェル・リエル・レイリーン・ロミナ。
さらに背後には女子生徒たち全員が身を屈めている。
可愛らしい妖精のような衣装に身を包むシャルとレニーが立ち上がった。
「みんな今日まで本当にお疲れ様でした! 辛い毎日を乗り越えたみんなに、私たちから贈りたいものがあります! どうか受け取ってください!」
声を合わせてシャルとレニーが言うと、BGMに合わせて他の女子生徒たちも立ち上がり、そして踊り始めた。
みんなが同じ可愛らしい衣装を着ていて、蒼で統一されている。
よほど練習したのだろうブレの少ない揃った踊り。
驚き戸惑っていた俺や男子生徒たちは、その美しい女子生徒たちの踊りに魅せられた。
そして始まる歌。
~負けずに乗り越えたね~
~信じていたよ~
~ずっと見ていたよ~
~負けない心で走り続けるあなたは素敵だった~
~きっと辛くて逃げ出したかった時もあったと思う~
~それでもあなたは諦めずにがんばってた~
~その姿が本当に素敵でした~
~勝つためにがんばるあなたに~
~わたしは何ができるの~
~何をしてあげられるの~
~何でも言って~
~わたしたち尽くします~
~尽くしますから連れてってください~
~あなたの夢の果てへ~
美しいとしか言えない合唱だった。
これだけ大勢で歌っているのに、ブレが少なく揃っていて、まるで透き通ったような歌声になっている。
心が洗われるような、今までの努力を報いてくれているような歌声だった。
センターで踊るシャルが俺にウィンクしてきて、あまりの可愛さにドキリとした。
他の男子たちは感動して涙を流している奴や、ノリにのって腕を上げているやつまでたくさんいる。
女子生徒たちが、俺たち男子生徒たちのために今日まで練習を積み重ねてきてくれた歌とダンスだ。
感動して涙を流したくなるのもわかる気がした。
女子生徒たちが、男子生徒たちのために。
今日まで。
その事実が、本当に嬉しかった。
胸が熱くなる。
~あなたががんばって私もがんばる~
~素敵だね~
~一緒にがんぱろうこれからも~
~わたしはちゃんとついていくから~
蒼く綺麗な星空をバックにして踊るシャルたちは本当に美しい妖精のようで、それは男子生徒たちを魅了して病まなかった。
綺麗だ。
みんな、身も心も凄く綺麗だ。
笑顔で歌い、踊ってくれているシャルたちを見ながら俺はそう思った。




