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第80話『父としての感謝』

 強化合宿が始まってから、すでに2ヶ月が経った。


 今では20キロを走り切れない男子生徒は一人もいなくなり、一人一人の戦闘力もかなり上がった。


 女子生徒の方は、ロシェル・リエル・ロミナの3人が『魔法第二階層詞セカンドソール』を覚醒させ、レニーに至っては『魔法第三階層詞サードソール』を覚醒させるまでに成長。


 そして俺は。


「うおおおおっ!」


 訓練用コロシアム内に雄叫びを響かせ、俺は捉えたシェムゾさんに『ブレイズティアー』で斬りかかる。


 二本の内一本の切っ先がシェムゾさんの腕をかすめた。


 届いた!


 そう思った矢先、前のめりになって危うくつんのめりかけた。


 慌てて態勢を立て直し、シェムゾさんのいる方へ振り向く。


 しかしシェムゾさんは『魔女兵装ストレイガウェポン』を消して、戦闘態勢を解いていた。


「‥‥‥強くなったな息子よ!」


 心底嬉しそうにシェムゾさんが言った。


「い、いえ、息子じゃないですよ‥‥‥」


 この2ヶ月で何度言ったかわからない返事を、俺は息が上がったままの状態でする。


「おめでとうレヴァン。やっと俺に攻撃を当てたな。昨日のエクトくんもそうだが、お前たちの成長には嬉しく思うぞ」


 そうか。

 昨日エクトはシェムゾさんに攻撃を当てたな。


 先を越されて悔しかったが、追い付けて良かった。


 当のエクトは今ギュスタ先輩たちとリリーザ王国軍を相手に実技ソルシエル・ウォーをやっているが。


「シェムゾさん! 当てたって言っても、切っ先をかすめただけですよ?」


「当たったことに変わりはない。それにエクトくんだって銃弾を一発かすめただけたぞ?」


 そうだったのか。


 昨日エクトが腑に落ちない顔をしていたのはこれだったのか。


「さぁ、もう夕方だ。今日はこの辺にして休もう」


『はーい』

『お疲れ様』


 似たような声を出して俺とシェムゾさんから出てきたのはシャルとグラーティア。


「凄いわねレヴァンくん。シェムゾの動きにどんどん対応できるようになって来ているわ」


 そう褒めてくれたのはグラーティアだった。

 すると俺の傍らにいたシャルが自慢気に胸を張る。


「そりゃレヴァンだもん! ね?」


「そ、そうだな」


「ふふ、自慢の彼氏だものね」


 笑って答えるグラーティアは、なぜかシャルに寄った。


「ねぇシャルちゃん、今からちょっと時間ある?」


「え?」


 突然のグラーティアからの問いにシャルはキョトンとした。

 何度か瞬きをしてから。


「あるけど」


と答えた。


「良かった。ならこっちに来て」


シャルの手を握り、グラーティアはそのまま訓練用コロシアムの外へと出ていった。


シャルは戸惑いながらも引っ張られて行った。


「グラーティアさんどうしたんですか急に?」


「シャルとゆっくり話をしたいって言っていたからな。たぶんそれだろう」


「話ですか?」


「そうだ。ああ見えてシャルの事には後悔と反省をしている身でな。シャルに許してもらうにはどうしたらいいか、ずっと悩んでいた」


「‥‥‥」


「グラーティアの正体は知っているのか?」


「グランヴェルジュの元王女というのは聞きましたが」


「なら話が早いな。とにかく昔のあいつは安定のしない女だった。まぁ、グランヴェルジュの価値観を持ったままリリーザに来てしまったのだから仕方ないのだが」


「そもそもグランヴェルジュの人間をどうやって召喚したんですか?」


「それは未だにわからん。普通に『魔女の召喚』をしたらグラーティアが出てきた。何かの運命だったんだと今では思っているがな」


「‥‥‥あの、聞きたいんですが、なぜグラーティアさんはシャルを愛してやれなかったんですか? グラーティアさんはグランヴェルジュでは無能扱いされていたんですよね?」


 魔法の使えない無能だったシャルのことを、誰よりも理解できそうな人だったのに。


 聞かれたシェムゾさんは顔を曇らせた。


「‥‥‥グランヴェルジュは才能の無い子供は育児を放棄してもいい国でな。リリーザの価値観に馴染みきれていなかったあいつは、魔力のないシャルを捨てようとした」


「‥‥‥」


「もちろん止めた。ここはグランヴェルジュじゃないリリーザだと説得もした。‥‥‥だがグランヴェルジュに散々無能扱いされてきたグラーティアにとって、自分の腹から出てきた娘が、魔力のない無能の娘だったという事実は、グラーティアのトドメになってしまったんだ」


「トドメ?」


「グラーティアは自分を無能だとは認めたがっていなかったんだ。王女である自分が無能など有り得ない、とな」


 まさかそんな性格だったとは。


「だが王族の血を引いているにも関わらず『スターエレメント』は授からず、娘たちロシェルやリエルにも『スターエレメント』は与えられなかった。最後の望みをと賭けて産んだシャルは‥‥‥」


「‥‥‥そうだったんですか」


「俺はなレヴァン。お前には本当に感謝している」


「え?」


「シャルがあんなに良い子に育ってくれたのは、間違いなくお前のおかげだからだ」


「それは俺も同じです。シャルが側にいてくれたから、俺は強くなれました。腐らずに生きてこれたんです」


「そうか‥‥‥でもお前には本当に、本当に感謝しかない。リリーザで最強だのなんだの言われているが、俺は自分の家族さえまとめ切れん男だ。グラーティアを一人にはできない。でもシャルも愛しい。こんなことをやっていて、ついにはシャルが家出してしまってお前の元に走った」


「‥‥‥」


「お前は、誰よりもシャルを大切にしてくれていた。そして思った。お前なら良いと」


「え?」


「結婚の話だ。お前ならシャルを間違いなく幸せにしてくれると」


「シェムゾさん‥‥‥」


「頼むからお義父さんと呼んでくれないか?」


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥わかりました。お義父さん」





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