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第79話『サイスとベルエッタ』

 レヴァン・イグゼスとエクト・グライセンに挑戦状を送ってから数日が立った。

 

 獅子王の名を持つジフトス・リベリオンは、将軍にのみ与えられる城内専用の自室である報告書に目を通していた。


 すると自室のドアがノックされジフトスは「開いている」と答えた。


 そのままドアを開けて入ってきたのは我が愛妻であり魔女であるレジェーナだった。

 すでに40代を迎えているとは思えないほど若々しいレジェーナは露出の多い専用の軍服を身に纏いながらこちらにきた。


 相変わらず眼が冴える美人である。


「ダーリン! リリーザから挑戦状の返事が来たわよ」


「そうか。それでどうだ?」


「三ヶ月後に挑戦を受けるみたいだわ」


「三ヶ月後だと?」


「ええ。なんでも今は『ローズベル』に滞在して強化合宿をやっているそうよ」


 強化合宿?


「ふん、ゴルトとの戦いで身の程を知ったか」


 これでさらに厄介な存在になるな、と言葉には出さないが内心で呟く。


「大丈夫かしらダーリン? あのレヴァンって子とエクトって子はかなり強くなっちゃうんじゃない?」


 同じ不安をもったらしいレジェーナが心配そうな顔をする。


「言われるまでもない。だからこそサイスまでこのソルシエル・ウォーに出てもらうのだからな」


「そうね。集団戦なら『ベルエッタ』の『スターエレメント』が役に立つものね」


「その通りだ。レジェーナすまんが二人を呼んできてくれ」


「ダーリンの頼みなら」



 数分後、呼び出されたサイスが自室に入ってきた。


 短めの漆黒の髪と、相手の生気を吸ってしまいそうな鋭利なパープルの瞳が特徴的だ。

 コート状の軍服をスマートに着こなし、細身でありながら逞しさが窺えるその身を華麗に体現している。


「リベリオン将軍! お呼びでしょうか!」


 きっちり気を付けの姿勢をとってから言うサイス。

 生真面目な性格なのがレナード・サイスという男だ。

 自分を慕ってくれる可愛い部下みたいなものだが。


「来たかサイス」


「こんにちはサイス」


「レジェーナ様! 今日もお美しいですね!」


「んふ、ありがとうサイス。でもそういう言葉はあなたのお嫁さんに言ってあげなさいね?」


「ベルエッタに、ですか」


 サイスは露骨に顔をしかめた。


「そのベルエッタはどうした? 一緒に来いと呼んだはずだが?」


「はっ! 先に来ていると思っていたのですが‥‥‥」


「サイスよ。ベルエッタはお前の妻だ。せめて声を掛けてやるくらいの気遣いはしてやれ」


 サイスが望んだ本意の結婚ではなかったのは知っている。

 しかし仕方がないのだ。

 グランヴェルジュという国は、優れた血と血を交えてさらに優秀な人材をつくるという方針がある。


 特に将軍にまでなれる実力者と『スターエレメント』を持った有能者ならば、どんな理由があろうとも婚約を強制される。


 その代わり他よりも優雅な暮らしができる。

 

 自分もレジェーナも、この国の決まり事に沿って結婚した。

 最初はダーリンダーリンと鬱陶しいことこの上なかったが、慣れてしまえば可愛いものだ。


 それにレジェーナとはそこまで相性が悪くなかったのもある。


「はっ! 善処します!」


「うむ。それで呼び出した内容なんだが‥‥‥」


「サイス!」


 例のベルエッタの声が自室のドアが開かれてから弾けた。

 ノックくらいしなさい、と言いたかった。


「やっと見つけましたわサイス! まったくあなたという人は! どうしてわたくしに声も掛けず先に行ってしまいますの!?」


 入ってくるなりプンスカ怒る若い女はサイスの妻であり魔女も務めるベルエッタ・サイスだった。


 金髪でやたらクルクルしている髪型と、碧眼が美しいベルエッタはドレス状の軍服を着ている。


 いま思えば普通の軍服を着ている人間が少ない。

 みんなオーダーメイドだ。


「伝達はされていたんだろう? ならば俺の事など待たずに先に行けば良かったのだ。夫婦だからと言って、常に一緒に行動せねばならないわけではあるまいに」


 心底相手するのが面倒という態度を全面に出しながらサイスが言った。


「んまっ! どうしてそんなに冷たいんですの!? わたくしの何が気に入らなくって!?」


「好みではないだけだ。その喋り方が特にな」


「なっ!」


「サイス」と、自分の妻に対して言い過ぎだという意を込めてジフトスは叱るように睨んだ。


 さすがのサイスもジフトスの睨みには顔を引きつらせる。


「‥‥‥申し訳ありません」


「お見苦しいところを御見せしましたわリベリオン将軍、レジェーナ様」


 夫婦揃って謝ってきた。

 どうみてもベルエッタは悪くなかったのだが、まぁいい。


「今回のソルシエル・ウォーの勝敗はお前たちに掛かっているのだ。それを夫婦喧嘩で忘れるなよ?」


「は、今回のソルシエル・ウォーはいつでしょうか?」


 サイスが聞いた。


「三ヶ月後だ。どうやら奴らはゴルトとの戦いで己の限界に気づいたのだろう。強化期間を設けている」


「強化期間‥‥‥無駄なことを。たった三ヶ月で我々を越えられるとでも思っているのか」


「サイス、若者を侮るな。お前とてその一人だ。若さが成長においてどれだけ重要かは知っているだろう。『ノア』と『エルガー』もそうだ。ワシとゴルトのようなロートルには伸びしろがない。それを考えれば、あのレヴァンとエクトという小僧どもの強化は侮れんぞ」


『剣聖』と『戦狼』の名を出しながら説明すると、納得したような表情をサイスは見せた。


「それでこのような布陣を‥‥‥」


「そうだ。負けるわけにはいかないからな。お前たちの『ヴェンジェンス・ソウル』とワシらの『ブロークン・ハート』は集団戦で最も効果を発揮する。これらをフルに使って奴等を倒す! 学生だろうがなんだろうがゴルトの仇のためにも容赦はせん!」


「友人のために全力で戦うなんて素敵ですわジフトス様!」


「素敵なことではないぞベルエッタ。当たり前の事だ」


「え、そうなんですの? サイス」


「俺に聞くな!」


「‥‥‥まさか二人とも、友達いないの?」


 何を思ったかのかレジェーナが二人を見て聞いた。

 一瞬だけサイスとベルエッタが凍りついたような気がしたが、それはサイスの鼻息で解凍した。


「そんなもの仕事に必要ありませんので」

「ですわ」


「‥‥‥まぁいい。それよりもレヴァン・イグゼスとシャル・ロンティアの情報を密偵に調べさせたところでとんでもない事実が発覚した」


 言うと三人の視線がジフトスに集中した。


「奴らはソールブレイバーになる前は魔法も使えぬ無能の中の無能だったらしい」


「なんですって!?」


 サイスが驚愕した。


「奴らが今、魔法を使って戦えるのはシャル・ロンティアの『スターエレメント』である『ゼロ・インフィニティ』のおかげだそうだ」


「そ、そんな無能だった奴が今ではリリーザの救世主と世間を騒がしているとは! 許せん! 無能は無能らしく地べたを這いずり回っていればいいのだ!」


「まったくですわ。底辺は底辺らしくしていればよろしぃのに」


 グランヴェルジュの価値観に染まり切ったサイスとベルエッタの言葉だった。

 変なところで気の合う二人である。


 しかしいつかこの二人の間に子供が産まれ、それがもし無能の魔女だった場合、同じことがこの二人に言えるのだろうか?


 無能と称される娘を二人も持つ身としては、このグランヴェルジュの才能主義には声を大にして賛同できるものではなかった。


 だが仕事に私情を挟むわけにもいかない。

 それが国の決まり事なら尚更だ。


「それよりもダーリン。いま『ローズベル』で強化合宿してる子達の中の魔女たちが、夜に歌とダンスの練習をしているって報告も入ってたの。私としてはそこが一番気になるわ」


「歌とダンス? なぜそんなことを?」


「ふん。どうせ思春期のガキどもの欲求不満を解消するためのものだろう。それかそれを利用した士気向上の策か」


「サイス。やつらを甘く見るなと言ったぞ? やつらは学生だが、今はリリーザ王国軍が支援している。もしかしたら『ブロークン・ハート』の対策かもしれん。どこで情報が漏れたか分からんがな」


「戦い方も随分と練られてるって報告もあるから、あの学生の中にやたら頭の切れる子が紛れてるのかもしれないわ。案外それがシャル・ロンティアだったりしてね」


 冗談混じりにレジェーナが言った。


 ジフトスは苦笑せざるえなかった。


「それはないな。この報告書にはシャル・ロンティアという女はレヴァンにしか興味がない恋愛脳の塊だと記載されている」


 そしてレヴァンの報告書にも同じことが書かれている。

 シャルにしか興味がない変態である、と。


 戦い方が上手いのは、軍の指導があるからに他ならないだろう。

 やはり手強い相手になりそうだ。


「なんにせよ三ヶ月後のソルシエル・ウォーに備えてお前たちは部下たちと鍛練に励め。細かい作戦は後に伝える」


「はっ!」


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