第1話『幼馴染を召喚!』
「オープ先生! 魔法の使えない俺に『魔女の召喚』なんて出来ませんって!」
情けないと思いつつも俺は言っていた。
そんな俺の声は、この学校の中庭にある支柱だらけの『魔女の祭殿』に虚しく響く。
さらに俺の声を聞いた周りのクラスメイトたちが遠慮なく笑い飛ばしてきた。
「まだ言ってるのかレヴァンくん。しょうがないだろう? 『魔女の召喚』は国の義務だ。お前さんも16歳になった以上、魔女を召喚してソールブレイバーにならねばならん」
担任のオープ先生が面倒くさそうに答えた。
やや後退気味の頭髪とチョビ髭が特長的なオープ先生は、体格のいい身体にスーツを着て教師専用の青い制服を肩に羽織っている。
教師というより軍の教官のような姿だ。
「ソールブレイバーにはなりたいですよ。そりゃ‥‥‥」
ソールブレイバーとは。
簡単に言えば『魔女をその身に宿して戦う戦士』のこと。
魔女を召喚して契約しないと上位の魔法が使えないのだ。
「お前はソルシエル・ウォーに参加して全国制覇を目指したいと言っていただろう。これはそのチャンスだと思ってやりなさい」
「そりゃ確かに言ってますけども‥‥‥」
そう。
ソルシエル・ウォーというソールブレイバー同士が戦う試合に俺は出場したいのだ。
ある夢を叶えるために。
でも俺は生まれてから一度も魔法を使えたことがない。
普通ならば人間には魔力とやらが覚醒するはずなのだが、俺は例外だったようで覚醒のカの字も起こらない。
そんな俺に『魔女の召喚』なんて魔法が使えるわけがない。
召喚だって立派な魔法だし。
それに。
「なんで俺がアイツの次なんですか?」
俺は前方に立つ親友を指差した。
「それもしょうがない。これは戦闘能力テスト順だからな。お前さんは魔法こそ使えないが戦闘能力だけはエクトくんと並ぶ学内No.1だ。エクトくんの次にやるのは当然だろう?」
戦闘能力は俺の数少ない自慢の部分だ。
魔法が使えないなら身体を鍛えるしかないからな。
「エクトより俺を最初にしてくれれば良かったのに。これ新手の嫌がらせですよ先生」
「そう言うな。エクトくんを最初にしたのは『魔女の召喚』のお手本となってもらうためでもある。彼は誰かさんと違って魔法が使えるからな」
「お手本ねぇ……」
まぁ俺がやっても、お手本とか以前の問題だから仕方ないか。
そう思っていたとき、誰かが俺の肩を叩いてきた。
振り向けばそこには憎たらしい顔した例のエクト・グライセンがいた。
「ま、そーいうこった。次の人のために華麗に成功させてやるよレヴァン・イグゼスくん。いや魔力ゼロの無能くん」
「とか言って失敗すんなよエクト?」
「するかバーカ」
言い捨ててエクトが中央にある魔法陣に足を運んだ。
この魔法陣がないと、隣の『魔道女子学校』で待機している魔女(女子生徒)達を召喚できない。
エクトが魔法陣に接近するとクラスメイト達が声を上げる。
「お坊っちゃーん! 見せつけてやれー!」
「お坊っちゃんカッコいいー!」
「お坊っちゃん華麗に決めちゃってー!」
男子生徒達のすっぱいラブコールが贈られる。
エクトは大手企業の御曹司なのでよくお坊っちゃんと呼ばれる。
「おい今オレのことお坊っちゃんって言った奴前に出てこい」
「いいから早くやりなさい」
拳を鳴らしたエクトをオープ先生が言葉で叩いた。
へいへいとエクトは返事をしながら俺と同じ青い学生服を整える。
そして魔法陣の上に立ったエクトは目を閉じた。
召喚開始だ。
エクトの全身から青いオーラが漂い始める。
ほぼ同タイミングで魔法陣も青く光り出した。
「オレに答えろ魔女! 出てこい!」
エクトは片手を天井に向けて突き出した。
するとエクトの頭上で光が生まれ、それは瞬時に弾けた。
その弾けた光の中から一人の少女が現れた……が!
「きゃああああーっ!?」
「は?」
召喚の位置が悪かった。
エクトは召喚した少女の下敷きになってしまう。
グシャン! という鈍い音と「ぎゃああああ!」というエクトの悲鳴が轟いた。
「あ~びっくりした! ちょっと誰よ! あんな高いところにあたしを召喚したヤツは!」
青い学生服姿の少女が怒声を上げる。
俺を含めた全員が少女の下敷きになっているエクトを指差した。
エクトに馬乗り状態だと気づいた少女は、さらにあることに気づいた。
エクトの顔面がスカートの内側に入っていることに。
「――っっっ! どこに顔入れてんのよおおおおっ!」
赤面した少女が立ってエクトの脇腹にドゴンと蹴りを叩き込んだ。
「グホッ! イテェなオイ! 何しやがゴフッ! や、やめろ! 待てブホォッ!」
ひたすら蹴られるエクトを見て俺は思わず拍手した。
「いやぁオープ先生ぇ。これは見事なお手本ですねぇ」
「そ、そうだな。みんなも魔女の召喚位置には気をつけるんだぞ。でないとああなる」
「了解です先生! 自分の真上に召喚するとああなるんですね!」
「なるほど! 良い勉強になった!」
「これは参考になるな!」
「真上に召喚するとあんな目に遭えるってことだな!」
あ、こいつらやる気だ。
「先生」と先ほどの少女がオープ先生の元にやってくる。
「今後の女子生徒達のためにここにいる男子全員ボコボコにしておいて良いですか?」
「「「いやああああ! やめてボコらんといてええええ!」」」
クラスメイト達が悲鳴を上げた。
何となくザマミロ。
ん? でも男子全員なら俺も?
「まぁまぁ落ち着きなさい君。彼らが本当にそんなことをしたら全員サンドバッグにしてかまわんよ」
「「「先公コノヤロオオオオ――ッ!」」」
俺も叫んだ。
「あーうるさい。それより君は?」
「失礼しました。魔道女子学校のレニー・エスティマールです」
背筋を伸ばし綺麗な姿勢で少女は名乗った。
見れば凄くスタイルの良い少女だった。
出るところは出ていて腰も細い。
肌も白くて綺麗だ。
【アイツ】に勝るとも劣らない美の付く少女である。
そんな事を思っていたらクラスメイト達がヒソヒソと何かを話している。
「おいレニーって!」
「ああ聞いたことがある! めちゃくちゃ頭いいんだろ?」
「学科テストは100点しかとったことないらしい」
「それだけじゃねぇ。偵察部隊の情報では『魔道女子学校』で1~2位を争う美女なんだ!」
「確かに狂暴だがスゲェ可愛い!」
ちょっと待てお前ら。
いま何て言った?
偵察部隊?
女子校に?
兵隊さんコイツらです。
「レニー・エスティマール……うむ、確かに。ではそこで死んでいるエクトくんを連れて隅っこで待機してなさい」
「はい」
レニーはエクトの片足を掴みズルズル引きずって行く。
お坊っちゃん、なんて哀れな光景だ。
「さ、次はお前だレヴァン」
あーあ、遂に来ちゃったよ。
「ハイハイ。やらせて頂きます」
そう言い終えると誰かが俺の赤い髪で覆われた頭部を叩いてきた。
誰だ? と俺は振り返って、そして絶句した。
そこには死んだはずのエクトの姿があったからだ。
「まぁ頑張りたまえレヴァンくん。応援してるよ」
「生きてたのか……」
「そもそも死んでねぇよ!」
「うるさいから寝てりゃいいのに」
「ふん。まぁせいぜい恥かいてこいよ。みんなで一緒に嘲笑ってやるからよぉ」
うぜぇ。
俺はやる気のでない身体を無理矢理に前進させた。
すると背後から話し声が聞こえてくる。
「レヴァンもかわいそうだよなぁ」
「ああまったくだ」
「魔法使えないのに魔女召喚なんかやらされて」
「結果は見えてるんだけどな」
みんな俺に同情してくれているのか。
なんだろう。
意外と嬉しい。
「待てお前ら! レヴァンにはメチャクチャ可愛い幼馴染がいるのを忘れたのか?」
「忘れるわけねぇよ。有名だぜ。将来の夢はレヴァンのお嫁さんだって堂々と発表した女の子だろ?」
「そのうえその子は偵察部隊の情報では『魔道女子学校』で1~2位を争う美女なんだ!」
「くそ! 無能の癖にゆるせねぇ! やっぱ失敗しろリア充!」
「レヴァン爆発しろ! いやほんとマジで!」
なぜだ!
さっきまで同情してくれていた奴らから殺気を感じる。
ま、とりあえず無視しよう。
いつものことだから。
俺は魔方陣の上に立ち、瞳を閉じて念じた。
できれば【アイツ】を俺の魔女として召喚したい。
俺は本気でそう願った。
すると急に全身が熱くなった。
急激な体温の変化に驚いて目を開けると、足元の魔法陣が赤く光っている。
魔法陣が反応している!?
魔力のない俺に?
「どういうことだ!?」
遠くでエクトが驚愕している。
他のクラスメイト達も。
「オープ先生! レヴァンのヤツ魔法出来てません!?」
「レヴァンが魔力ゼロなのって嘘だったんですか!?」
「そんな嘘をついて何になる? 何にせよこれは予想外だ! レヴァンくん! 集中しろ! そのまま続けるんだ!」
「は、はい!」
エクトの二の舞にならないよう上ではなく前に召喚しようと意識する。
光が俺の目の前に現れ、そして弾けた。
すると少女は現れた。
召喚できた!
そう思ったのも束の間だった。
ゼロ距離過ぎる場所に召喚してしまい、出てきた少女の顔が迫る。
そしてその少女と不覚にも唇が重なってしまった。
ファーストキスが!
そんな損失感を抱きながら俺は少女に押し倒された。
倒れた俺に覆い被さる形になった少女は即座に身を起こし大絶叫する。
「わたしのファーストキスがああああ! レヴァンにあげたかったのにいいいい!」
俺に?
いや、この声──まさか!