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振動  作者: 宇井
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ポイント

そうだ、あの外作業の後からだ、奴を見るようになったのは、その時、彼は外への出口の方に歩いて行ったことを思い出した。出口は、特別なときしか開かないはずで、不審に思ったことも思い出した。



「Nさんは運がいいですよ。仕事で外に出れたなんて。」と、また黙り込んだNに向かってTは言った。

「なにが運がいいのさ。砂まみれになってロボットの代わりをやらされたんだ。」

「でも防塵服をきていたんでしょ。それにポイントだって減らないだろうし。」とTはさらに続けた。

ポイントという言葉を聞き、こらえきれずににNはついにTの顔を見た。いつもとかわらない表情でTは笑っていた。


「そのポイントって何に使えるのかなあ。知っているかい、何度も問い合わせしたんだがわからないんだ。」

「あのシステムは2回以上は応答しませんからね。聞き方が悪かったんですよ。僕たちは、つまり僕と友人たちは、例の成熟型善社会実現システムから何かを探るときは、何人かでつるんでします。別々の端末からランダムな時間間隔をおいてね。それも、アクセスするのは1人1回きりです。相手が僕たちの関係を知らない限り、ばれませんよ。それに僕たちの関係は流動的ですからね。」


一息いれて、Nの表情を伺いながら、Tは続けた。

「僕たちの問い合わせには、応答システムのAIが引っかかりそうなキーワードが入れてあるんです。そこに、AIは反応してしまい、事実を出してくる。AIにとっては、大して重要な事実ではないんですが、僕らは、それを使ってまた問い合わせをする。そこで、いろいろな事実がずるずるとわかってくるんです。でも、けしって自動化はしません。AIに検知されてしまうから。どんなに自動化プログラムをうまく作っても、人間のような揺らぎを実現できませんからね。」


たしかに、今の時代に連携動作なんて誰も想定しないだろう。巨大な共有情報空間が提供されており、しかも、アップされる情報は、正当で人為的な操作がされていないことをAIが判断し、保障されている。だれでも情報の上では平等なのだから、人に頼る必要はない。しかし、取り出しにくくしている情報はある。Tの世代はゲーム感覚でそうした取り出しにくい情報へのアクセスを競っているのだろうとNは思った。


そしてTは続けた。

「現在の人間の感情、汚らしさや愚かさに左右されない合理的な管理体制側からしたら、ポイントのような人間の数値化は必須なんですよ。社会に役立てばポイントが上がり、違反行為をすればポイントが下がるという単純なシステムです。その結果、ポイントが0になったら、社会から放出されるんです。」

「ポイントは僕のような社会システム維持の数合わせのように人工的に生み出された人間の親代わりなんですよ。」とTはこともなげに言った。

Nは、今まで見たこともなかった、Tの皮肉を込めた大人びた言い回しに驚き、Tの顔を見た。Nは、ポイントについては薄々自分の存在に関係していることだと感じていたが、次のTの言葉ではっきりと意識せざるを得なくなった。

「Nさんも、ポイントを自分で見れるということは、僕らと同じ数合わせで生み出された人間の一人ということですね。」


さらに、Tはつづけて、

「でも、Nさんは、僕らより上1つ上の世代だから、このシステムになんの疑問も感じないですよね。」と言い、その後で、すぐに腕につけていた端末をのぞきこんだ。

「おっと、まずい、今の『システムに疑問』という言葉を監視カメラの集音器に拾われてしまいましたね。ほら、ぼくのポイントが1ポイント減ったでしょ。まったく気がはやいんだから。僕は『疑問がない』と言おうとしたのに。」とTはいたずららっぽく笑った。


「大丈夫かい。」とNは心配して聞いた。「もちろん、ただのポイントです。このくらい、いくらでも言葉で回復できますよ。これもゲームのうちです。」


そして、Tは言った。

「外に抜け出すと、ポイントがいっぺんに減るんです。それで、戻れなくなってしまった友人が何人もいます。」

あの青い男はどうなんだろう。外の世界へ出たのだろうか。もし、そうだとしても、彼はこちら側に戻ってきている。


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