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疾風のグラス  作者: 坂本彰史
1/1

静かなる闘志

不定期更新

手直しあり

「・・・・またです。ボス」



「・・・ったく!何回目だ!これで!」




「あーあーあー・・・完全になめられてるなこれ・・・」




また一人。仲間を殺された。ここ一か月で六人目。異常だ。




「天下のヴェントルファミリーもここまでなめられるようになってしまったか」




雨に濡らされた街路。入り組んだビル群のその一角、真っ黒なスーツに身を染めた大柄な男たちが、その体に釣り合わないちんけなビニール傘をさして立っていた。その数は五人。見つめる先は皆同じだ。



「・・・次々と・・・仲間が殺されていく・・・」




「・・・ちくしょー・・・」





力なく呟く男たちは怒りのやり場に困っていた。受け入れがたい現実を受け入れなければならない。受け入れた上で、その先にどうするのか。どう行動を起こすのか。




もしかしたら、次は自分か。



そんな思いがそれぞれの中で交差していく。




「・・・もう・・・限界だ」




一人の男が落としたその言葉に、その場にいた全員の視線がその男に集まる。



何を言ってるんだ。明らかに男たちの目はそうは言っていなかった。その通りだ。俺もだよ。よく言った。

男たちの目はその男に向けた共感に溢れている。



「我慢しろ」



そんな男たちの目を、気持ちを、相殺するかのように低く重い声が響く。




「まだ、首領の許可が出ていない。許可が出るまでは、俺たちは何も出来ない」




「しかし!ボス!このままやられていくのをただ待ってろって言うんですか!?六人ですよ?あなたを守る親衛隊がもう六人も殺された!誰の仕業なのか、何の目的なのか、何も分からないまま我々は、ただただ六人もの仲間を殺されたんだ!次は誰だ!俺か?リックか?ジョーか?ダミアンか?それともあなたか?」



「おい!ジモー!ボスに向かって!」



「だってそうだろ?明らかに俺たちを狙っている!狙われているんだよ俺たちは!なのに首領の判断はどうだ?待機だと?何もするなだと?それじゃあ殺されるまで待ってろ、じっとしていろってことじゃないか!」



ジモーは怒りのあまり傘を地面に投げつける。雨など、体に降りかかる雨粒などお構いなしだ。



「なんでそうなる?言ったじゃないか首領は。情報部隊が・・」



「その情報部隊が問題だって言ってるんだ!」



なだめようとするリックの言葉を、ジモーは遮る。



「一か月経った!最初の被害者、ソルティアが殺されて一か月だ!首領は言った。情報部隊に早急に調べさせていると!そうだよな!」



「・・・ああ・・」



力なく頷くリックをよそに、ジモーの怒りは止まらない。



「それがどうだ!情報部隊から上がってきた情報は何があった!?いつ問い合わせても現在調べている途中ですからしか言わない!それしか言えないんだあいつらは!その間に俺たちは次々と仲間を失い、いよいよ六人目がこうしてここに横たわる事態になっているんだ!なのに!なのにだ!奴らは今も!どこかで!目的もなく情報を集めているフリをしている!」




「・・・フリって・・」




「フリだろうが!何も仕事をしないそれなのに奴らはヴェントルファミリーの名前だけを使いどこかで遊び呆けている!仲間がこうして殺されているのにもかかわらずだ!」



「ほう、ジモー。情報部隊が遊び呆けているという情報をどこで手に入れた?」



「え?」



大柄な男たちの中でも、比較的小柄な男がジモーの怒りを遮る。小柄ながらもどっしりとした体つき、人を射殺すかのような鋭い目つき、重厚で雨の中でもよく通る声質。それらを集約したようかのような冷たくて、闇に包まれたオーラを放つ。その男こそジモーらが所属する、ヴェントルファミリーのボスの位に君臨する男、ロッシ・デ・ヴェントルという男だ。ロッシは続ける。



「ジモー。お前はどこで情報部隊が遊び呆けている姿を目にし、この場でそんなことを言っている?」




「・・・え・・・いえ・・・あの・・・」



「情報とは常に正確でなければならない。でなければそれをもとに動く我々が偽の情報と、正確な情報が錯綜する中を、まるで迷路に迷い込んだかのようにその場その場で行き当たる得体の知れないモノや、人、出来事に、どれが正しくてどれが正しくないのか、自分の中での葛藤のもとにぶち当たることになる。そうすればどうなる?敵がどこに潜伏し、何人がいて、何をしてくるのか。常におびえながら、警戒しながら、戦う俺たちは、百パーセントその相手を倒せると言い切れるのか?百パーセントそいつに殺されないと言い切れるのか?」




「・・・しかし・・その情報が入らないんじゃ・・・」




「入らないから何だ?入らないから、裏も取れていない自分の私利私欲だけにまみれたでたらめな情報をぼやくのか?それを聞いた俺たちはどうなる?お前のその情報部隊は仕事もしないで遊び呆けているという情報を、ただひたすら、情報部隊からの情報を仲間が殺され続けているのをよそに待ち続けている俺たちに話してどうなる?今にも溢れ出さんとするこの怒りが、憎しみが、力が、お前のでたらめな一言で、仲間であるはずの情報部隊に向けることになるかもしれんのだぞ」



「・・・しかし・・・」



ジモーは投げつけた傘をもう一度拾ってさす。


「・・・ジモー・・・ボスの言うとおりだ・・待つしかない。情報部隊だって混乱しているんだよ。急にこんなことになっているんだから」




「・・・・・・・」





「・・・ジモー・・・リック・・・ジョー・・・ダミアン・・・」




ロッシが四人に向き合う。



「お前たちはこうなりたいか?」



ロッシは顎で彼らの前に横たわる男をさす。



「・・・そんな質問・・・答えるまでもありません」




ロッシはジモーの言葉に頷くと、横たわる男に目をやる。




「・・・俺がこいつを見て何も思っていないと思うか?」



「・・・え?」



「マリー。お前がいなければ俺はここにいない。ソルティアも、トウギーも、ルイも、クレルもナタレーもそうだ。お前たち四人だってもちろんそうだ。誰一人、要らない奴なんていない。誰一人失っていい奴なんていない。そんなことは十も二十も承知だ。分かってる。分かってるんだ。だけどこうしてマリーまでもが殺された」



「・・・ボス・・・」




悲しげに語るその背中にジモーらはかける言葉が見つからない。




「・・・このまま黙っているとおもうなよ・・・俺の親衛隊に、ヴェントルファミリーに、このロッシ・デ・ヴェントルに喧嘩を売ったまま生きていけると思うなよ・・・」



ロッシはまたジモーらに向き直る。その表情は怒りに満ちている。




「情報部隊の情報が来るまで待機するという首領の命令を無視するわけにはいかない。だからといって俺たちがこのまま待っていれば次は誰が敵の餌食になるか分からない」



「・・・どうする・・・おつもりですか?」




「俺たちが待っているのは情報部隊ではない。情報部隊が持ってくるであろう確固たる情報だ。つまり情報さえあれば、俺たちも動けるということじゃないか?首領は、情報のない俺たちにむやみに動くなと言ってるんじゃないのか?」




「・・・しかしその情報が・・・」



「待っていよう」




「は?」




「待っていようじゃないか。俺たちを狙っているのなら。情報部隊が中々得られないその対象が、俺たちを狙っているのなら、その情報もろとも俺たちが引きつけてしまえばいい」




ニヤリと笑うその不気味な笑みには恐怖すら感じる。




「・・・なるほど・・・」




「今すぐ処理隊に連絡しろ。マリーだけじゃない。ほかの五人が殺された場所、日時、状況、すべてを照らしあわし、敵が次に現れる場所を考えてみよう。何か規則性があるはずだ。これ以上やられるわけにはいかない!彼らの犠牲を無駄にするな!必ず、必ず今度は俺たちが奴らを捕らえる!そして情報部隊が手こずっているものさえも手に入れてしまえば、奴らをひと泡吹かすこともすることも出来る。それでいいか?ジモー」



何も考えていないわけがない。ただじっと黙っているわけがない。自分が生涯を捧げて仕えると決めた男が、命を捨ててでも守り抜くと決めた男が、このままでいるはずがない。分かっている。分かっているのに何で自分は。



「はい!」



自責の念を押し殺しながらジモーはポケットから携帯を取り出す。





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