召喚されたのは?
明日の為にその一。ネタは思いついた時に書くべし! 書くべし!
――これは、ある世界でのお話しです。
その世界では長い間、人族と魔族が争っていました。あまりにも長い間争っていたので、争う理由なんてとっくの昔にわからなくなってしまっていたのですが、今更止める事など出来ず争い続けていました。
ある時、人族が異世界から生物を召喚する魔法を開発しました。
人族はすぐにこの魔法を使う事を決めました。この魔法で『この争いを終わらせられる力を持ったモノ』を召喚して、魔族に勝利しようと考えました。
しかし、召喚には膨大な魔力が必要でした。そこで国は、国民全員に事情を説明して、皆から少しずつ魔力を分けてもらう事で、何とか必要な分の魔力を集める事が出来ました。
準備は全て整い、女王や臣下の者達が見守る中、魔術師達が召喚魔法を行います。
詠唱を終えた瞬間。眩いばかりの閃光が魔法陣から溢れ出し、次いで、物凄い煙が部屋中を覆い尽くしました。
煙が部屋中に充満する中、何か蠢く物体が魔法陣の上に見えたので、皆は召喚に成功したと確信しました。
煙が晴れて、その物体がはっきりと見える様になって――その場に居た全員が驚愕しました。
その場に居た者だけではありません。後に、結果を知らされた国民全員が同じ思いを抱きました。
――『自分達は、何てモノを召喚してしまったのだ!!』と――
それからは、誰もが毎日のように後悔し続けました。城に居る者達は常にビクビクしながら生活していました。女王様も臣下の者達も、皆頭を抱える日々を過ごしました。魔術師達は、ある部屋に篭ったきり出てこようとしませんでした。
そしてある日、召喚されたモノはどこから聞いたのか、魔族の元へ向かうと言い出しました。
誰も止める事など出来ませんでした。女王も、ただ頷く事しか出来ませんでした。
同行する人は誰もいない、単独での旅路となりました。
魔族の領土に入ると、当然魔族が襲って来ましたが、結果的にはどんな魔族も傷つける事が出来ませんでした。
そして遂に、魔族の女王が居る城へとたどり着きました。門番は呆気なく血を流して倒れ、城内の魔族は誰も手が出せないどころか守るべき玉座の間を自分から教える始末。魔族の女王ですら対峙した瞬間に崩れ落ちる膝を止める事が出来ませんでした。
ソレは魔族の女王に停戦を要求してきました。女王は要求を呑む事しか出来ませんでした。
――こうして長く続いた争いは終わりました。
――1年後。人族と魔族の国境に新たに造られた城のとある一室で、二人の女性が一つのテーブルに同席している。
1人は人族の女王。もう1人は魔族の女王。
「……こうして、貴女と同じテーブルでお茶を飲む事になるなんて、思ってもみなかったわ……」
「それはこちらも同じじゃ……」
「彼のおかげ……と言う事かしら……」
「そうじゃの……」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………のぅ」
「何かしら?」
「一言良いか?」
「どうぞ」
「では――――
お主ら、なんてモンを召喚しとるんじゃぁぁぁーーーーっ!!!!」
「んなこたぁ、わかってるわよぉぉぉーーーーっ!!!!」
心の底……イヤ、魂の雄叫びとも言える魔族の女王の絶叫に、同じ声量で返す人族の女王。
一頻り叫んでゼイゼイと息を荒げている中――部屋のドアが開いて誰かが入ってくる。それは――
「どうしたの、おねえちゃんたち? おおごえだして?」
――身長は100センチを越えるかどうか。
髪は艶があり腰まで届くストレートヘア。
肌は透き通るように白く赤子の様にスベスベ。
瞳は大きくつぶらで純真無垢の輝きを宿している。
そして愛くるしい顔はとってもと〜っても可愛い女顔。
――そこに居るのは見紛う事無き可愛い男の娘――
「なっ、何でも無いのじゃっ!!」
「そっ、そうよ!! 何でも無いわっ!!」
……先程までの剣幕は何処へやら、作り笑いで取り繕う二人。
男の娘はそんな二人を首を傾げて見てる。そして、そんな仕草に心の中で萌える二人。
何とか誤魔化す為に、人族の女王が咄嗟に話しを逸らす。
「ああ! そう言えば今、厨房で焼き菓子を造ってるわよ!」
「そ、そうじゃ! 美味しそうな焼き菓子じゃったぞ!」
「――おかしっ!!」
その言葉に、キラキラと眼を輝かせる男の娘。
……そして、ズキューーンと胸を撃ち抜かれる二人。
男の娘はすぐに、トタタタと厨房に向けて駆けていった。
後に残された二人は、ハァ〜と息を吐く。
「危なかったわね……」
「本当じゃ……」
「…………」
「…………話を戻すが。本当にお主ら、なんて者を召喚しとるじゃよ……あんな可愛い子を異世界から召喚するなんて……」
「言わないで。その事は私達も良〜く身に染みてわかってるから……」
呆れた様に言う魔族の女王と、疲れた様に言う人族の女王……眼が遠い。
「召喚した当初は、皆揃って後悔したわよ。こんな小さな子を親元から引き離してしまったんだって……だから私だけで無く、近衛騎士から侍女・使用人に至るまで、あの子のご機嫌取りに必死だったわよ。『お家に帰してっ!』って泣き付かれたらどうしようと、皆毎日ビクビクしてたわ。召喚した魔術師達なんて、罪の意識から自分から牢屋に入って出て来なかったわよ」
当時を思い出し、頬に手を当て深い溜息を吐く人族の女王。
「――しかも、どこから聞いたのか、『自分は争いを終わらせる為に呼ばれた』と言う事を知ってしまったものだから、魔族の元に向かうって言い張って……」
「止めなかったのか?……イヤ、止められなかったのか?」
「ええ……涙目プラス上目づかいのコンボは最強よね……」
「……最強じゃな」
「そんな訳で、行かせるしかなかったのよ。しかも、1人で行くって聞かなくて……まあ、これでもかって影の連中を付けておいたけど……後の事はソッチの方が知ってるでしょう?」
言われて、今度は魔族の女王が深い溜息を吐いて語りだす。
「まあのぅ……人間がやって来たと聞いて『返り討ちにしてやる!』と意気込んで行った者は皆、予想外過ぎるあの子の姿に手出し出来んかったし……城の門番は『入れて〜♪』の一言で鼻血出して倒れおったし……キッチリ門を開けた上でな」
「……流石はあの子ね」
「城内でも皆が皆、揃いも揃ってあの子の可愛らしさに手を出さんどころか……玉座の間がわからずに迷子になって泣きそうになるあの子に道案内までした程じゃよ……」
「…………」
「儂の前に現れたときは『やっとあえた〜♪(にぱぁ)』じゃぞ……一発で膝から崩れ落ちたわ」
「……そして?」
「『みんななかよくしよ?』と小首を傾げて言ってきよっての……そこで我慢の限界を迎えてな。気がついたら抱きしめて頭を撫でて『何でも願いを聞いてやるのじゃ!』と言っておったわ……」
「……それ、多分……イヤ、確実に私でも同じ事を言ったと思うわ」
「じゃろうな……」
「「ハァ〜……」」
揃って溜め息を吐く二人。しかし、ふと魔族の女王が尋ねる。
「で? 何であの子は未だにこの世界に居るのじゃ? 帰さんのか? 帰す方法は有るんじゃろ?」
「ああ、それがね、帰さないと言うか……帰したらマズイと言うか……」
「? どういう事じゃ?」
「…………事が済んだ後、あの子と色々話したんだけど……どうもあの子、奴隷だったみたいなのよ。それも生まれついての……しかも、男娼として育てられる途中だったみたいで……」
「?! 何じゃと!!」
「召喚されてからも騒がなかったのは、私達の元に売られたと勘違いしてたようなのよ。あの子が寝てる間に召喚した所為でね……今は色々教え込んだお陰で、普通の子供な振る舞いをしてるわ」
「……あの子が居た世界に戦争仕掛けてはダメかの?」
「……個人的には物凄く賛成なんだけど、ダメよ。あの子に気づかれたら『みんななかよくしよ?』って言ってくるわよ」
「……そうじゃの」
と、そこで再び部屋のドアが開いて、先程の男の娘が手にお菓子の入った籠を持って入ってくる。
「おねえちゃん!」
「何?」「何じゃ?」
「いっしょにたべよ〜♪」
「「勿論!!」」
そして美味しそうにお菓子を食べる男の娘と……その男の娘を見て萌える2人の女王。
――これは、この世界に平和を齎した一人の男の娘の物語の始まりに過ぎない。
ご愛読有難うございました。