第5話 残念美人は乾電池。
突如、激しく輝き出した大きな石板。
そしてなんと、光の中から白髪・白髯のお爺ちゃんが現れましたっ!
映画やアニメで見たことあるけど、実際に目の前で起こると、心臓が飛び出し……はしなかったけど、腰を抜かしてへたり込んだのです。
石板は元に戻り、辺りは静寂に包まれる。
お爺ちゃんは私たちに向かってこう言った。
「ようこそ、魔導大陸アイズランドへ。
そして、この世界を救う皆様、歓迎すると共に敬意を表します。」
へ? まどうたいりく? あいずらんど?
何それ?……
あー私、やっぱり夢見てるんだね。
いかん、いかん、そろそろ社長に怒鳴られるパターンだよ、こりゃ。
私は目をパチクリさせて、社長の新聞ハリセンに対して身構える。
そんな私を無視して、お爺ちゃんは両手を広げて語りかけてきた。
「アレ=ナ・ルメンアーク・セラ・オルデン・セラフィト。
ラ=ルク・リ・タルマ・トリア=シェン・ベス=エン。
アナタ=ラ、エル=リ・サルヴァ・アイズランド。
オル=フェルナ、リ=カンタ・エル=ラ・ヴェス。」
おっ! おおおお!?
いきなり何言ってんだ? 聞いたことない言葉だよ?
いくら夢でも日本語で OK!
私がアタフタしていると、ライブラちゃんが私に囁いた。
「ごめんね可奈、今の言葉翻訳できなかったね。
慣れてないせいか、ネットワークにバグが出るみたい。」
ライブラちゃんは相変わらず尻尾をクルクルさせて、何かを感じ取ろうとしている。
「チョッ! マテヨ!
ライブラちゃん、ネットワークって何? Wi-Fi 飛んでんの? やっぱりここは日本?
お爺ちゃんはアレな人? 警察呼んだほうがいい案件だねっ!?」
私はへたり込んだまま、手足をバタつかせてライブラちゃんに矢継ぎ早に問いかけた。
「可奈ちゃん、落ち着いて。今説明するからね。
その前に大賢者とやらに質問しないと……」
ライブラちゃんは、私の肩に頭をスリスリしてからお爺ちゃんに話しかける。
ん? えっ? 大賢者? 大賢者なの??
大賢者ってゲームに出てくる“魔法使いの最上位職”みたいなやつ?
頭の中にハテナが大合唱を始める。
ライブラちゃんは一歩前に出ると、右前足をビシッとお爺ちゃんへ向けて言い放った。
「ちょっとアンタ! 大賢者とか言ってたけど、この状況をまず説明しなさいよっ!
世界の理? 三神聖獣? 一体何のこと? そもそも何でわたし等が実体化してるわけ?
返答次第じゃただでおかないんだからねっ!!」
ライブラちゃんは毛を逆立ててお爺ちゃんに食ってかかる。
チャピ太は興味深そうに二人のやり取りを眺め、
アントニオ様は「大丈夫かい? マイダーリン」と言いながら、私を抱き起こしてくれた。
ああ、アントニオさまの大胸筋……
いやいや、今はそんなことに感動してる場合じゃないね。
少し冷静さを取り戻した私も、二人の会話に注目した。
大賢者を名乗るお爺ちゃんは慌てて言葉を足した。
「いやはや、これは失礼致しました。
そうですな。まずはご説明致しましょう。
貴方方、三神聖獣のこと、そして今、我が国に起こるであろう破滅の予言についてを。」
大賢者お爺ちゃんはニコニコと話し始めたが、最後の“破滅の予言”のところで顔を曇らせた。
──三神聖獣? 破滅の予言?……
ここ……異世界じゃないの?……
私……転生! あー死んでないから違うね。
えーと、何だっけ?……
「天気! 違うっ! 転移したの、私っ!!」
突然、素っ頓狂な叫びを上げた私に、全員の視線が集まった。
チャピ太は「何言ってんだコイツ」、
ライブラちゃんは金と銀の目をバチバチさせ、
アントニオさまは……歌い出そうとしている。
「ララ〜、天気は晴れ渡り〜、風は愛を囁くぅ〜。
ラララ〜、転移は起こりぃ〜、僕と君は恋を語るぅ〜。」
あー歌っちゃったよ……ほんとコイツ空気読めないな。
自分のことは棚の上の大福にして、呆れた顔でアントニオを見る。
遂に“コイツ”呼ばわり、敬称略になってしまったアントニオ……明日はどっちだ!?
大賢者お爺ちゃんは大きな笑い声を上げて、更に語り出した。
「ホッホッホッホ、いやぁ元気なお嬢さんだね。
これくらいの元気があれば触媒者としては上質であろうな。」
と意味不明なお言葉を頂戴した。
──触媒者? 何それ?……
ははぁ〜ん、わかりましたよ?
私が勇者で、この子達を召喚する“召喚者”って言いたいんだね。
お爺ちゃんだから、少しボケてて単語間違えたんだね?
冷静さを取り戻した私は、アントニオの腕を振り払い、大地に降り立ち、高らかに宣言した。
「大賢者お爺ちゃん! お任せくださいっ!
わたくし勇者・的屋可奈が、この世界を悪の手から必ずや救い出してみせましょう!」
周囲のみんなが目を丸くして私を見詰める。
お爺ちゃんも目をパチクリさせて私を見る。
立場逆転である。
私は腰に手を当て、えっへんのポーズで鼻息荒くお爺ちゃんを見る。
お爺ちゃんは「はあ?」といった感じで、私の希望をぶち壊す事実を告げた。
「いやいや、お嬢ちゃん。勇者? 世界を救う?
ホッホッホ、お嬢ちゃんはそんな事せんでいいのじゃよ。
そうじゃな、お嬢ちゃんに理解できるよう説明するとじゃな……
お嬢ちゃんは“三神聖獣様に魔力を供給する”のがお役目じゃ。
そしてお嬢ちゃんの魔力を使って、聖獣様は強力な魔法を使えるというわけじゃ。」
お爺ちゃんは笑いながら優しく説明してくれた。
──アレ? 魔力の供給?
私が勇者で、この子たちは桃太郎の犬・猿・雉じゃないの?
なんか……思ってたのと違くない??
私が“納得いきませんけど何か?”の顔をすると、チャピ太がポツリと呟いた。
「ようするにだ可奈。お前は“乾電池”ってことだな。」
そう言ってニヤリと笑い、フフンと鼻を鳴らした。
「ええええ! 私ってば乾電池!……なのっ??」
思いもよらぬ事実を突きつけられ、まさに青天の霹靂。
瓢箪から電池な衝撃を受けたわたくしなのでした。
こうして異世界・魔導大陸アイズランドでの冒険の応援ラッパは、しょぼくれて鳴り響いたのであった。
「乾電池なんてイヤアアアア!!」




