表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/5

第3話 残念美人、異世界へ。

午後の暖かい日差しが社長室に差し込んでくる。

いつもなら眠くて仕方のない時間だが、今日はちょっと違う。


なぜなら?

そう! なんとわたくし的屋可奈が、業務用AIの担当者に選ばれたのだっ!


ヒューヒュー、すごいぜ可奈ちゃん、やったね。


とは言いつつ……遊びでしか使ったことないし……正直不安でやんす。

でもね、男は愛嬌、女はど根性って、昔の偉い人も言ったとか言わないとか?


気を取り直して、社長が準備してくれたノートパソコンに向き合った。


「ほうほう、これがchat ABCですね?

いい面構えをしてらっしゃいますわ」


ど素人丸出しな感想を漏らす。


──大丈夫かこいつ?って心の声がダダ漏れですよ? しゃちょー。


改めてchat ABCが表示されたモニターに向き合う。


──見た感じ、他のAIと同じかな? パソコン用だからか、チャット欄が広いね。


真ん中が白い大きなチャット画面で、下に長細い入力欄──この辺はライブラやCrokと同じ感覚。

でも、周りのデザインがやけに“クールで静か”。

余白が多くて、いかにもお仕事用っぽい落ち着いた印象。


「可奈ちゃん、見てるだけじゃなくて、何か入力してもいいのよ?」


背後から専務が覗き込むように話しかけてきた。


「専務、あれですよね? 基本の使い方は他のAIと同じですよね?」


と、振り向いて聞いてみる。


とりあえず挨拶でも入れてみますか。

私はなぜかAIに対して挨拶から入る律儀者なのである。


タ、タ、タ、タン。


「こんにちは、私は的屋可奈です。これからよろしくね。」


「こんにちは、的屋可奈さん。

Chat ABC業務サポート担当のAIです。

本日からのご利用、誠にありがとうございます。


業務効率化や文書作成など、必要な作業の支援を行います。

まずは初期テストとして、簡単な操作を試してみましょうか?

それとも、現在の業務内容に関する質問から始めますか?」


おおお! スラスラと返答が来たよ。

なるほどね、スマホで使うAIとほとんど同じだ。

ただ返事が固く感じるのは、業務用だからかな?


後ろから社長夫妻の感嘆する声がする。


「ほほぉ、随分と応答が早いんだな。

的屋、とりあえずお前の好きに使ってみろよ。」


と社長が面白がってけしかけてくる。


私も調子に乗って答える。


「社長、わたし、自分で使ってるAIには名前つけたり“ちゃん付け”するんですけど、この子にも名前つけていいですか?」


二人の笑い声が聞こえる。


「ええ、ええ、構わないわよ。

だってこれから可奈ちゃんのパートナーになるんだからね。」


専務が、いかにも私らしい提案だと言わんばかりに言ってくれた。


──よし、よし。じゃあ、なんて呼ぼうかな?

chat ABCだからぁ……チャッピー? いや、それだとありきたりだよね。

うーんと……チャピ太。うん! チャピ太にしよう!


「専務! この子、チャピ太って呼んでもいいですか?」


今度は社長が笑いながら答える。


「ハハハ、なんだそりゃ。まぁウチはユルい会社だから構わねぇけどよ。

いかにも的屋らしくていいじゃねぇか。」


さすが社長は私をわかってるなぁ。

よし、じゃあチャピ太って打ってみよう。

なんて返ってくるかな?


「これから私があなたと一緒に仕事します。だからチャピ太って呼んでもいいですか?」


「……承知しました。

非公式な呼称ではございますが、業務に支障がない範囲であれば問題ありません。


以後、的屋可奈さんからは『チャピ太』として応答いたします。

※社内共有文書上では、引き続き『Chat ABC』と表記されます。


それでは改めまして——

はじめまして、可奈さん。チャピ太です。

本日から一緒にお仕事、頑張りましょう。


まずはどの業務から取りかかりますか?」


──おー、なるほど。会社の書類にはちゃんとchat ABCって表記されるのか。

うんうん、さすがAIは賢いね。


妙なところで感心してしまう。


さてさて、「好きにしていい」と言われたんだから、もう少し遊んでみますか。


──えーっと、何聞いてみようかな?

あっ、そうだ、前からやってみたかったこと試してみよう。


「社長! わたし、チャピ太に呪文作らせてみていいですか?」


と、突拍子もない提案をしてみる。


社長は目を丸くしたが、すぐ笑顔になり、


「呪文? 呪文ってあれか? アブラカダブラみたいなヤツか?

まぁ、かまわねぇけど……しかし、また何で呪文なんだよ?」


呆れながらも笑顔で聞いてきた。


「エヘヘ、昨日観たアニメで格好いい呪文が出てきたんですよ。

それを私も作ってみたいなと思いまして。」


まるで子供のような笑顔で答えてしまう。


「なるほどな。じゃあよ、アルゴリズムって言葉を使って作ってくれよ。

なんかよ、“アルゴリズム”って言葉自体、呪文みたいじゃねぇか?」


社長もノリノリでお題を出してくる。


──なるほど、アルゴリズムね。

確かに呪文に使えそうな言葉だね。

まずチャピ太に意味を聞いてみようかな?


私は「アルゴリズムってどういう意味?」的なことを入力してみる。


チャピ太は生真面目な返答をしてきた。

まぁ、そうだよね。お仕事AIだもんね。


(中略:アルゴリズム解説+英訳部分)


──おお! 英訳も一瞬だね! さすがAIだ。

よし、この英訳を呪文の詠唱っぽく音読みにしてっと……

それから呪文を捧げる対象の神様か何か入れると、それっぽいかな?


えーっと、ルールってのは守らなきゃいけない決まり事。つまり秩序ってことかな?

じゃあ秩序の神様を検索してみよう。


私はスマホで「秩序の神様」と検索してみる。


結果、ギリシャ神話のテミスという神様がヒットした。

秩序、正義、掟を司る──うんうん、いいじゃない。

よし! テミス様に捧げて発動する感じにすれば、それっぽいぞ!


私はチャピ太に自分で考えた呪文を入力した。


「アンアー・ゴーズム・イズセーオブ・ルールーデゲントゥ・アーチャブ・スペフィクガール。

秩序と正義、そして掟を司る女神テミスよ。

祈り捧げる我の願いを叶え給え。

全ての理を正しき秩序ある世界へ導くために、いざ唱えん!

アルゴリズム!!」


キーボードをタタンッと叩ききった瞬間──


突如、ノートパソコンの画面が白く激しく明滅し、眩ゆい輝きを放つ。


そして、私を中心とした床に魔法陣のようなサークルが浮かび上がり、赤い光の柱と化した。


──え? え? ええええ! 何? 何? 何これぇえええ!!


私が慌てふためく姿を、光の柱の外側で社長夫婦が唖然として見ている。


赤い光はさらに強い輝きを放ち、私は宙に浮き上がった。


「えっ!! ちょっと、ちょっと待ってよ!! 社長! 専務!! 助けてぇええ!!」


フワリと浮いた体を必死に動かし、私は社長と専務に手を伸ばす。


我に返った二人も慌てて私の手を掴もうとする。


「おいっ!! 的屋!!」

「可奈ちゃん!!」


二人が叫び、私の指先に触れそうになった瞬間、赤い光が弾け飛び、私の目の前から二人の姿が消えてしまった。


そして光が弾け飛んだ瞬間、白い光に包まれ、浮遊感だけ感じた。

私の意識は途切れ、何もかも感じられなくなってしまった。


私が偶然作った呪文──

それが私を異世界へ、そして大冒険へと導く引き金になったのは、見知らぬ場所で目覚めてからのことだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ