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記憶を無くした者  作者: ひろろ
1章
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07話

 

 完全に目眩ましから回復した三人の男たちのうち、一人が低く息を吐いた。


「……本当は、こんなことはしたくなかったがな。仕方ないか」


 そう呟くと、彼は物陰に隠していた“もの”を引きずり出した。


 ――子供。


 まだ幼く、ぐったりと意識を失っているその子を見て、木の陰から様子を窺っていたミナの胸が強く締めつけられる。


(……子供? いったい、何をする気……?)


 男は躊躇なく子供の頬を強く打った。


「起きろ!!」


 乾いた音とともに、子供は小さくうめき声を上げ、ゆっくりと目を開く。


「いっ……ここ、どこ……?」


 状況を理解できていない幼い声。その瞬間、男は歪んだ笑みを浮かべた。

「おはよう。……悪く思うなよ。恨むなら――」


 男の視線が、木の陰へと向けられる。


「――隠れている女を恨むんだな」


 次の瞬間。


 男の手に握られていたナイフが、ためらいなく子供の胸へと突き立てられた。


「……っ!」


 短い断末魔すら上げられず、子供の身体から力が抜ける。


 その光景を目の当たりにし、ミナの思考は一瞬で白く弾けた。


「な……なにを……!」


 理性よりも先に身体が動いていた。

 ミナは木陰から飛び出してしまう。


「な、なにをしているの!? どうして……どうして殺したの!?」


 その瞬間だった。

 背後から強い衝撃。


「――っ!」


 ミナは地面に押し倒され、息が詰まる。


「隙だらけだな」


 耳元で、嘲るような声が響いた。


「よくも舐めた真似をしてくれたな。お前が大人しくしていれば、そのガキは死なずに済んだんだ」


 押さえつけられたまま、ミナの視界に残りの二人の男が近づいてくる。


「そうだよなぁ。可哀想になぁ、まだまだこれからだったってのに」


「ほんとだ。ひでぇ女だよ、お前は」


 怒りと悲しみが、ミナの胸で渦巻く。


「……違う……」


 震える声で、ミナは叫んだ。


「子供は……子供は関係なかった!! ふざけないで!!」


 だが男たちは嘲笑する。


「勝手に吠えてろよ。それより――」


 押し倒している男が、いやらしい視線でミナを見下ろす。


「今の状況、分かってるか? 男三人に押さえつけられてるんだぜ?」


「けけけ。こんな上玉、滅多にいねぇ。たっぷり楽しませてもらうぜ」


「終わったら、ずっと俺らの玩具だな」


「――さあ、始めようぜ」


 その言葉を聞いた瞬間、ミナの意識は怒りで焼き切れた。


 ――次の瞬間。


 ミナの視界が、暗転する。


 だが、完全に失われたわけではなかった。


「……何故だ」


 低く、冷たい声が、ミナの口から漏れる。


「何故……意識が覚めた?」


 男たちは一瞬、動きを止めた。


「……この状況は、何?」


 ゆっくりと顔を上げたミナの瞳は、先ほどまでとはまるで違っていた。

 感情の色が消え、底知れぬ冷気を湛えている。


「……それと」


 静かな怒気を孕んだ声。


「その汚らわしい手で、触れるな。この――塵芥が」


 次の瞬間。


 押さえつけていた男の両腕が、何か鋭利な力によって切断された。


「――ぎゃああああああ!!?」


 血が噴き出し、男は悲鳴を上げながら後退する。


 それを見た残りの二人は、反射的に距離を取った。


「な、何をした!?」


「……お前、さっきの女とは別人か……?」


 その問いに、ミナ――否、“それ”は薄く笑う。


「何をしたか、ですって?」


 冷酷な声。


「触れてはならないものに触れた手を、切り落としただけよ」


 ゆっくりと立ち上がり、男たちを見下ろす。


「私に触れていいのは、私が認めた者だけ」


 そして、淡々と告げた。


「ええ。私は別人よ。封印されていた存在……」


 瞳が妖しく光る。


「……あなたたちのせいで、目覚めてしまったけれど」


 男たちは震え始める。


「やってはいけないことをしたのよ。だから――」


 指先で、くい、と後方を示す。


 地面が歪み、棺桶がせり上がった。


「――死で償いなさい」


 叫び続けていた男が、棺桶に引きずり込まれる。


「うるさいわ。生き血を捧げなさい――《ブラッド・コフィン》」


 棺桶の中から、血が溢れ出し、やがて静寂が訪れる。


 残った二人は腰を抜かし、地面を這いずる。


「ひ……ひぃ……!」


「化け物……来るな、来るな!!」


 それを見て、彼女は静かに言った。


「化け物……ええ、そうよ。でもね、その封印を解いたのは、あなたたち」


 黒い炎が、二人の足元から立ち上る。


「断末魔は不要よ。――さようなら」


 一瞬。


 男たちは、跡形もなく塵と化した。


 沈黙。


 彼女は小さく息を吐く。


「……力を使ったおかげで、また眠れそうね。また、あの方に完全に封印してもらわないと……」


 血溜まりは消え、地面は元の土へと戻る。


 そしてミナの身体は、静かにその場へ倒れ込んだ。




 一方、洞窟内部――ガイマ



 洞窟は想像以上に入り組んでいた。


「……くそ」


 ガイマは焦りを隠せない。


「ミナに任せてから、かなり時間が経ってる……」


 さらに奥へ進むと、行き止まりに突き当たる。

 その瞬間、鼻を突く強烈な悪臭。

「……っ!」


 原因を探し、視線を向けたガイマは、言葉を失った。


 血に染まった手術台。

 瓶の中に保存された人体の部位。

 壁にこびりついた血痕と、長い時間が経過した死体。


「……こんな……こんなこと、許されるわけがないだろ……!」


 怒りが込み上げる。


(生き残りは……いない、かスズモは……何を隠している?)


 考えても答えは出ない。


「……引き返すか」


 振り返った、その瞬間。


「おや?」


 背後から、肩に触れられた。


「侵入者、ですか」


 振り向いた先には、端正な顔立ちの男が立っていた。


「ここを見た以上、生きて帰すわけにはいきませんね」


 ガイマは反射的に距離を取り、構える。


「誰だ、お前……! これをやった張本人か!」


 男は顎に手を当て、ガイマをじっと見つめる。


「……似ているまさか、生きていたとは。ダーク様やマルクト様からは、聞いていなが……」


 次の瞬間。


 視界が、消えた。


 男は一瞬で懐に入り込み、拳を叩き込む。


「――がっ!」


 衝撃とともに、ガイマは壁へ叩きつけられ、血を吐く。


(……見えなかった……こいつ……別格だ……)


 男は冷たく告げる。


「弱い。ただ似ているだけの偽物か」


 黒い尖った杭を召喚し、ガイマへと突き立てようとする。


「――では、死んでもらいましょう」


と。

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