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記憶を無くした者  作者: ひろろ
第2章
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29話

 

 研究所での調査を続けていたその時、ガイマの意識に直接声が響いた。


『主様。各地に向かわれていた皆様が、それぞれ帰還されています。主様は、いつお戻りになられますか?』


 ガイマは資料から目を離さず、念話で応じる。


「メイドか。もうすぐ戻るつもりだ」


 一枚、また一枚と書類を束ねながら続ける。


「それと聞きたい。スピードたちに調査を依頼していた湖の件、何か分かっているか?」


『はい。その湖については、レモン様が破壊された地点を可能な限り復元し、調査を行われました。いくつかの資料を回収されています』


「そうか……」


 一瞬、視線を伏せる。


「なら、今すぐ戻る。会議室に皆を集めておいてくれ」


『承知しました』


 念話が途切れる。


 ガイマはドラに視線を向けた。


「ドラ、そろそろ戻るぞ。一度、情報を整理する必要がある」


「……やっぱり、暗黒神ダークが絡んでる?」


 ガイマは静かに頷いた。


「あぁ。近いうちに、奴と直接話をする必要が出てくるだろう」


 一瞬、間を置いてから続ける。


「その時は……カテレナ、スズモ、ホムンクルスたち、それにノノやナミは連れて行かない」


 ドラは理由を察し、苦く笑う。


「激戦になる。犠牲が出る可能性が高い……だから、最悪の場合は私とお父さんだけで済むように、か」


「そうだ」


 ガイマは短く答えた。


「それに、皆には俺に頼らず生きる術を身につけてほしい。普通に生きるということをな」


「……それも、別れの準備?」


「……そう取ってもいい」


 ガイマは魔法陣を展開した。


「話はここまでだ。戻るぞ」


 二人の姿は、淡い光とともに消えた。



 ---


 次の瞬間、ガイマは広い会議室に立っていた。


 すでにナミ、ホムンクルスたち、そしてカテレナが席についている。


「皆、忙しい中集まってくれてありがとう」


 ガイマは会議室を見渡す。


「まずは、状況を整理しよう」


 各自から報告が上がる。


 ・ホムンクルス製造を目的とした実験が行われ、多数の人命が犠牲になっていること

 ・湖底の復元地点では、魔物の改良と他拠点への輸送が行われていたこと

 ・生きた人間への魔物移植による人体実験

 ・各施設で、資料を外部へ転写・送信していた痕跡

 ・ここ最近、「神」を名乗る者たちの活動が異常に増えていること


 全てを聞き終え、ガイマは深く息を吐いた。


「……情報をありがとう」


 一同を見回し、静かに言う。


「この件についての調査は、ここで打ち切る。

 これ以上深入りする必要はない」


 そして続けた。


「それぞれに話したいことがある」


「ホムンクルスの皆は、このまま待機してくれ。カテレナは、俺と別室で話そう」


 ナミに視線を向ける。


「ナミにも頼みたいことがある。少し待っていてくれ」


 皆がそれぞれ指示通りに動き出す。



 ---


 別室。


 カテレナがガイマの後を追い、扉が閉まる。


「カイマ、話って何?」


「大事な話?」


 ガイマは少し考え、穏やかに口を開く。


「いや、大したことじゃない」


「ただ……そろそろ、お前たちに“神の名”を与えてもいいと思ってな」


 目を見開く。


「神の名……?」


「私たちには、まだ早すぎます」


「いや、十分すぎる」


 ガイマははっきり言った。


「それに、薄々気づいているだろう?」


「お前たちが“自由神”と呼ばれていることに」


「それは……周りが勝手に言ってるだけで」


「そうです」


「なら、俺が認める」


 ガイマは微笑んだ。


「今日から正式に、自由神だ」


 一瞬の沈黙。


 やがて、カテレナが息を整え、決意したように言う。


「……カイマが言うなら」


「今日から、私たちは自由神カテレナ」


「そうね」


 頷く。


「自由神カテレナとして生きるわ」


 ガイマは頭を軽く叩いた。


「それでいい」


 そして、声を少し落とす。


「その名の通り、世界を自由に見てこい。誰にも縛られず、自由に生きろ。ただし――間違った道だけは選ぶな。それだけは忘れるな」


 不安そうにガイマを見る。


「……カイマ?」


「なんだか、急すぎるよ」


「私たちに、何か隠してるでしょ?」


 ガイマは一瞬だけ目を伏せ、すぐに微笑んだ。


「俺はな……お前たちに、本当の自由を味わってほしいだけだ。俺は、どこへ行っても一人になれない‥‥だから、代わりに見てきてほしい。世界を巡って、どうだったかを、その話を、いつか俺に聞かせてくれ」


 カテレナは少し黙り、やがて頷いた。


「……分かった」


「世界を自由に巡ってみる」


「でも、覚えておいて」


 強い視線で言う。


「私たちに命令できるのは、カイマだけ」


「それ以外は、全部自由よ」


「それでいい」


「それと……」


 もう一人が言う。


「最初に、私たちの故郷に送ってくれない?」


「今から」


「……分かった」


 ガイマは魔法を展開した。



 ---


 荒れ果てた、かつての故郷。


「ここでいいか?」


 ガイマが問う。


 カテレナは何も言わず、ガイマに抱きついた。


「今まで、ありがとう」


「私たちはこれから、自由に世界を見てくる」


「あなたに出会えたこと……本当に感謝してる」


「ありがとう、カイマ」


 手を振りながら、歩き出す。


 ガイマはその背中を見送りながら、心の中で呟いた。


(元気でな、カテレナ)


(俺が生きていれば……また会おう)


(その時は、世界を巡ってどうだったか、全部聞かせてくれ)


 二人の姿が見えなくなるまで見届け、ガイマは静かに転移した。


 ――次に向かうのは、ナミの待つ場所だった。


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