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記憶を無くした者  作者: ひろろ
第2章
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27話

 

 スピードと年老いた人物の戦いは、もはや戦闘と呼べるものではなかった。


 一方的――

 それ以外の言葉が見当たらない。


 年老いた人物の体には無数の裂傷が走り、衣服は裂け、血が滲んでいる。

 呼吸は荒く、足元も定まっていない。


「はぁ……はぁ……ば、馬鹿な……」


 よろめきながら叫ぶ。


「あり得ん……!魔道神ナミならともかく……お前のような得体の知れん存在に……このワシが……!」


 スピードは無表情のまま、肩をすくめた。


「あり得てるから、今こうなってるんだろ」


 淡々と、冷たく。


「それに――お前に名乗る必要もない」


 一歩、前に出る。


「そろそろ終わりにしようか」


 そう呟いた瞬間。


「――部分変化」


 スピードの足が、肉の軋む音と共に変貌する。

 人の脚は豹の脚へと姿を変え、鋭い爪が地面を抉った。


 次の瞬間――


 年老いた人物の視界から、スピードが消えた。


「な――っ!?」


 背後。


 気づいた時には、もう遅い。


「……まさか……」


 震える声で、年老いた人物が言う。


「お前は……世界神カイマが作り出した……ホムンクルス……!」


「気づくの、遅すぎ」


 スピードはそう言い、

 年老いた人物の首元を、指先で軽く叩いた。


 ――トン。


 それだけで、老人の意識は断ち切られ、その場に崩れ落ちた。



 ---


 少し遅れて、ナミがその場へ到着する。


「スピード様」


 倒れている老人と、スズモに視線を向ける。


「その方は……?それと、スズモは……」


「気絶してるだけだ」


 スピードは即答する。


「問題ない。命に別状はないよ」


 そして捕虜を一瞥し、


「こいつは地下の件に関係してるはずだ。ご主人に引き渡す」


「地下は……」


 ナミは、表情を曇らせる。


「大量の死体と資料がありました。やはり……ホムンクルスの製造方法を探っていたようです」


「……あたいらの作り方を、か」


 スピードは鼻で笑う。


「ご主人だから出来ることなのにね」


 肩を回しながら言う。


「ま、とりあえず戻ろう。一度、ご主人のところへ」


「ええ。では……転移します」


 ナミが魔法を唱えると、光が二人を包み――

 その場から姿が消えた。



 ---


 次に現れたのは、静かな屋敷。


「お帰りなさいませ」


 迎えたのは、メイド長と数名のメイドたち。


「ナミ様、スピード様、スズモ様。主様は現在ご不在でございます」


「そうか」


 スピードは捕虜を見て言う。


「なら、帰って来るまで休ませてもらう。この捕虜、可能なら記憶を読んでおいてくれ」


「それと、川底の調査も出来るなら頼む」


「承知しました」


 メイド長は振り返る。


「ウズ。捕虜を移動させ、記憶を読み取って」


「分かった」


 ウズと呼ばれたメイドが捕虜を抱え、その場を離れる。


 スピードも別方向へ去り、

 ナミはスズモを抱えて静かにその場を後にした。



 ---


 残されたメイド長は思案する。


「さて……調査は誰に任せましょうか」


 指折り数える。


「今、こちらにいるのは……レガネス様、ガレオン様、それに――レモン様」


 その瞬間。


「なら、僕が行くよ」


 黄色い髪の女性が、音もなく現れた。


「レガネスとガレオンは忙しそうだしね」


 軽い口調で続ける。


「完全な復元は無理だけど、少しなら復元して調査できる」


「……レモン様」


 メイド長は一礼する。


「お願いしてもよろしいでしょうか」


「うん」


 レモンは笑って言った。


「主様が戻るまでには終わらせるよ」


 そう言い残し、姿を消す。


 メイド長もまた、持ち場へと戻っていった。



 ---


 一方、その頃――

 カイマは、髭を生やしたドワーフの男とドラと共に、

 分厚い氷に覆われた巨大な湖の前に立っていた。


「ドリー」


 カイマが口を開く。


「この氷に穴を開けられる武器を作って欲しい。……無理だろうか」


 ドリーは氷に近づき、

 分厚い氷を何度か軽く叩く。


「主よ」


 にやりと笑う。


「ワシを呼んだ時点で、出来ると思ったからじゃろ?少し時間はもらうが、構わんかの?」


「ああ」


 カイマは即答する。


「時間なら、いくらでも使っていい」


 ドリーは空間から工具を取り出し、作業を始めた。


 その横で、ドラが尋ねる。


「父さん、本当にここで間違いないのか?」


「ああ」


 カイマは湖を見つめる。


「この湖の底に研究所がある」


「研究の失敗で暴走した氷結ドラゴンを始末した後、念話で……俺に語りかけてきた」


 ドラは歯を食いしばる。


「……氷結ドラゴンは、本来穏やかな存在だ」


「それを“神”を名乗る者たちが実験に使った……」


「本来なら元に戻れたはずだった。だが、暗黒神ダークが手柄を横取りし、討伐した」


 カイマは静かに続ける。


「不自然な点が多すぎる。普段、ダークはこういう討伐には出てこない」


「だが、この時だけは違った」


「……この湖底の施設と、ダークは繋がっている」


 ドラは納得しつつも、疑問を口にする。


「でも……父さんなら、この氷を壊せるだろ?

 どうしてドリーに頼んだ?」


「壊すだけなら簡単だ」


 カイマは首を振る。


「だが、この氷は――氷結ドラゴンの“命”そのものだ」


「彼女は、自分の命を込めて封じた。もう二度と悪用されないように」


「それを無下に壊すわけにはいかない」


 その時。


「出来たぞい」


 ドリーが声を上げる。


「これが、その氷を破壊する武器――手甲炎舞てっこうえんぶ


 ドラへ投げ渡す。


「……ただの手甲に見えるが」


 装備し、魔力を込めた瞬間。


 手甲が赤く燃え上がる。


「なるほど……」


 ドラは氷を殴りつけた。


 ――ジュウウウ……


 氷が溶け始める。


「このまま、湖底まで貫通させる」


 魔力をさらに込めると、

 溶解速度は加速し、ドラの姿は氷の中へ消えていった。


「……成功だな」


 カイマはドリーを見る。


「忙しい中、感謝する」


「今度、必要な物があれば言ってくれ」


「気遣い無用じゃ」


 ドリーは笑う。


「ワシは、武器が作れればそれで良い」


「なら……」


 カイマは少し考え、言った。


「秘密裏に買い取った工房を、お前に託そう」


「身分を隠し、武器を作りながら生活するといい」


「ただし――強力すぎる武器は作るな」


 ドリーは目を細める。


「それはありがたいの。強力な武器は……主と、その仲間にしか作らん」


「なら、頼む」


「では転移させる」


 光が走り、ドリーの姿は消えた。


 湖を見つめ、カイマは呟く。


「……そろそろ、ドラも貫通する頃か」


 そう言い、溶けた氷の方へ歩き出した。


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