24話
煙をかき分け、ガイマが爆破神ダーマがいたはずの場所へ踏み込んだ瞬間――そこには、もはや人影はなかった。
代わりに、柱に一枚の札が貼られている。
「……罠か――」
そう呟いた直後、その札が白く光った。
次の瞬間、轟音とともに爆炎が炸裂し、ガイマの視界は完全に赤に染まった。
「――っ!!」
避ける間もなく、爆風に飲み込まれ、体が宙を舞う。
「愚かな」
冷え切った声が、上から降ってくる。
天井を見上げると、そこには魔法で逆さに張り付くようにして佇む爆破神ダーマの姿があった。
「そこに俺がいると思い込んだのが敗因だ。……だが、まだ反応がある。直撃はしたが、死んではいないか」
煙がゆっくりと晴れていく。
そこに現れたガイマは、全身の衣服が裂け、焼け焦げていた。しかし――致命的な傷はない。
「……甘かったな」
ガイマは息を整えながら、低く呟く。
「咄嗟に魔力を全身に巡らせた。爆破の威力を分散させたおかげで助かったが……」
視線を巡らせる。
床も、壁も、天井も――爆破を受けたとは思えないほど無傷だ。
「……やはりおかしい。この屋敷そのものが」
あの爆破を受けて、この程度の損傷だと?
ダーマは内心で舌打ちする。
(防御に特化した術式……いや、空間そのものに細工をしているのか)
直接マーキングして爆破するべきか。それとも――まだ様子を見るか。
ダーマは、あえて動かず、観察を選んだ。
一方、ガイマは黒い棒状の尖った武器を出現させ、床へと突き立てた。
――弾かれる。
「……はじかれた?」
ガイマは眉をひそめる。
「床の強度を魔法で強化している? だが、これほど広範囲を維持するには、常識外れの魔力が必要だ……」
一瞬、記憶がよぎる。
「……そうだ。屋敷を調べていた時、妙な部屋があった。趣味の悪い銅像が四体、無意味に飾られていた部屋……」
違和感は、あそこだ。
「一度、確認する」
「……気づいたか」
ダーマが小さく呟く。
「だが、行かせるつもりはない」
ガイマの足元が、再び光を放つ。
「――爆破か!」
即座に後方へ跳び、紙一重で爆炎をかわす。
「やはりな……あの部屋が核だ」
屋敷内の至るところで光が瞬き、爆音が連鎖する。
だがガイマは止まらない。爆破を読み、かわし、一直線に目的の部屋へと向かう。
扉を蹴破ると、そこには四体の銅像が、部屋の四隅に配置されていた。
「……やはり」
ガイマは一体の銅像を、迷いなく斬り裂く。
――屋敷全体が、軋むように大きく揺れた。
「間違いない。こいつらが結界の要だ」
次々と銅像を破壊する。
最後の一体が砕け散った瞬間、揺れは止まり、屋敷は不気味な静寂に包まれた。
「……変化は、これからか」
再び武器を床へ突き立てる。
今度は、深く、確かに突き刺さった。
「――よし。これでもう、無差別爆破は使えない」
その頃、爆破神ダーマは屋上にいた。
「結界銅像が破壊されるのも時間の問題……」
歯を食いしばり、魔力を集中させる。
「ならば、この屋敷ごと爆破し、生き埋めにしてやる」
だが――
次の瞬間。
腹部に、強烈な衝撃。
「――が、はっ……!?」
背後から何かが突き刺さり、口から血が噴き出す。
「な……ぜ……?」
振り向こうとした、その視界に映ったのは――フードで顔を隠した人物。
「……レジスタンスの件で来たが、その必要はなかったようだ」
淡々とした声。
「生きていたか、ガイマ。それに……竜人族最後の生き残り、ドラも」
「貴様……何者だ……」
「今は名乗る必要もない」
突き刺した腕を引き抜く。
次の瞬間、ダーマの身体が内側から燃え上がる。
「ぐ……ぁ……!」
消火も間に合わず、爆破神ダーマは黒焦げの骸へと変わった。
その場を去ろうとした瞬間――
強烈な蹴りが飛ぶ。
それを受け止めたフードの人物は、わずかに笑った。
「……ホムンクルス隊のレガネスか」
「カイマの情報を知った以上、生かして帰すわけにはいかない」
レガネスは睨みつける。
「やる気か? だが本気でやれば、この街は消し飛ぶ」
一歩、距離を取る。
「安心しろ。お前達が生きていることは知らせない」
そして、低く告げる。
「だが――獣人の国は、間もなく陥落する。世界はそれを知ることになる」
凄まじい跳躍。
フードの人物は、夜空へと消えた。
レガネスは拳を握りしめる。
「……今は、追わない」
屋上へ続く階段で、ガイマと合流する。
「レガネス? その死体は……」
「爆破神ダーマよ。屋上で何かを始める前に始末した」
一拍置き、続ける。
「それと……獣人の国が危ない。早急に、皆と合流して今後を話すべき」
ガイマは無言で頷いた。
静かに、だが確実に――世界は、破滅へと動き出していた。




