22話
紫色へと変化した髪を揺らし、ミナは静かに周囲を見渡した。
その瞳は、先程までの激情とは違い、冷たく澄んでいる。
「……やはりね」
低く、どこか諦観を含んだ声。
「炎熱氷河を使ったのね。あれほど“使わせないで”と頼んでいたのに……」
自分の両手を見つめ、わずかに指を震わせる。
「このままでは、私の完全封印が解けてしまう。そうなれば、もう“私”では止められない」
風が吹き抜ける。
「……カイマ。早く気づいてもう一度、私を――完全に封じて」
そう言い終えると同時に、紫色の髪はゆっくりと元の色へ戻り、
ミナの身体は力を失い、そのまま地面へ崩れ落ちた。
少し離れた場所で、その光景を見ていたノノは眉をひそめる。
(……今の、何だし?一瞬、ナミの“中身”が別の誰かに入れ替わったみたいだったし……)
嫌な予感が胸を締めつける。
(とにかく、今は考えてる場合じゃないし)
ノノは急ぎ、倒れたミナの元へ駆け寄った。
一方その頃。
ベンは一瞬、ノノとミナの方を振り返り、歯を噛みしめた。
(……俺が行くべきは、あっちじゃない)
拳を握る。
(ガガを、このまま逃がしたら……また誰かが死ぬ)
「……勝手なことして、ごめん」
誰にも聞こえない声でそう呟き、
ベンは一人、走り出した。
【北の入り口組】
ガイマとレガネスは、北門から街へと侵入していた。
通りには、人々の姿がある。
談笑し、買い物をし、日常を送っている――ように見えた。
「……普通に住人がいるな」
ガイマは周囲を警戒しながら言う。
「これが本当に分身だっていうのか?……信じがたい」
レガネスは肩をすくめる。
「精度は高いけど、所詮は作り物よ。まあ、この程度なら私でも造れるわよ」
そう言いながら、彼女は進路を変える。
「爆破神ダーマは、この先の少し豪華な家。移動していなければ、だけど」
やがて屋敷の前に辿り着くと、
レガネスは地面に手を置き、目を閉じた。
――数秒。
「……いるわね。中に」
目を開き、ガイマを見る。
「カイマ、どうする?今すぐ行く?」
ガイマは一瞬考え、答えた。
「まだ誰も来ていない。ということは、他の組はすでに戦闘中だろう」
そして、ふと眉をひそめる。
「……さっき感じた感覚。熱いような、寒いような……嫌な感触だった‥‥。レガネス、あれは何だ?」
レガネスの表情が僅かに曇る。
「……ナミの魔法炎熱氷河。カイマ、あなたが禁術指定した魔法よ。使わないよう、封印していたはずの」
「……使った、だと?」
「ええ。少し……不味いことになるかもしれない」
ガイマは即座に問い詰める。
「何が不味い?」
レガネスは歩きながら、静かに言った。
「ナミには秘密がある。――魔道神と呼ばれる存在の。今は表に出ていないけど、いずれ世界にとって厄災になる可能性がある」
「だからこそ、あなたの記憶と、ナミの記憶を取り戻す必要があるのよ」
そして、表情を切り替えた。
「……とはいえ、今は目の前の敵に集中しましょう」
腰の刀を抜き、軽く振る。
次の瞬間、地面に
細く、ほとんど視認できないワイヤーが散らばった。
「……ワイヤー?」
ガイマが警戒する。
「敵か?」
その時。
「ちっ……」
屋敷の屋根から、美少年が姿を現した。
「気配は消してたつもりだったんだがな。……それに、ワイヤーに即座に反応するとは」
鋭い視線。
「お前、何者だ?それに……お前もベンの仲間か」
レガネスは鼻で笑った。
「その程度で“気配を消した”つもり?笑わせるな」
ガガを見据える。
「……あんたがガガね。ちょうどいい」
ちらりとガイマを見る。
「カイマ。爆破神ダーマは任せたわ」
「私は、こいつをベンのところへ連れていく。
今のあなたなら、苦戦はするけど……負けない」
その言葉を残し――
レガネスの姿が掻き消えた。
次の瞬間。
ガガの顔を掴み、そのまま地面を削る勢いで引きずる。
「なっ!?離せ、このクソ女!!」
ガガは魔法を発動しようとするが、
魔力が一切流れない。
「……無駄」
レガネスは淡々と言う。
「魔力循環を狂わせてる。それに――」
前方を走るベンを見据える。
「お前の相手は、あいつよ」
そう言って、ガガを投げ捨てた。
「……は?」
ベンが目を見開く。
「誰を連れてきたって――」
土煙の中から、無傷のガガが立ち上がる。
「あの女……俺の相手が、このベンだと?」
歯を剥く。
「なめるなよ」
ベンは短剣を抜き、構えた。
「……ガガ。お前の相手は、この僕だ」
「いいねぇ」
ガガは指をクイクイと動かし、挑発する。
「来いよ」
ベンは走り出す――が。
その瞬間、
小石が宙で細切れになった。
ベンは急停止する。
「……っ」
(ワイヤー……また、か)
レガネスは欠伸をしながら呟く。
「死なれると、後で怒られるからね」
ガガは苛立ち、レガネスへ向かおうとする。
「邪魔すんな――」
「相手、違う」
その刹那。
ベンが踏み込み、短剣を振るった。
ガガは即座に糸を張り、受け止める。
「そんな短剣で、この糸が切れるか!」
「切るつもりはないよ」
ベンは静かに言う。
「――ただの短剣だと思うな」
刃が、赤く燃え上がった。
「……属性付与!?」
ガガは即座に蹴り飛ばし、距離を取る。
「だが、今ので仕留められなかった時点で――
お前に勝ち目はない!」
ベンは立ち上がり、短剣を構え直す。
「……それは、やってみないと分からない」
二人の間に、張り詰めた殺気が満ちる。
戦いは、
ここからさらに激しさを増していく――。




