19話
ガイマたちは、レジスタンスの地下拠点に到着していた。
だが、そこに人の気配はない。
内部は徹底的に荒らされており、資料、地図、書類はすべて引き裂かれ、机や棚は破壊され、床には切り刻まれた紙片が散乱していた。
ドラは眉をひそめ、周囲を見回す。
「……これは酷いわね。完全に、意図的に潰しに来ている」
足元を踏みしめながら進むガイマたちの背後を、皆が黙って追う。
やがて彼らは、レジスタンス本来の地上出口へと辿り着いた。
外に出た瞬間、誰もが言葉を失う。
地面は無数に抉れ、焦げ跡が走り、周囲の木々は黒く焼け爛れていた。
激戦があったことは一目で分かる。
さらに――。
人の死骸には鳥や魔物が群がり、既に原形を留めていないものも多い。
「……っ」
ベンは喉元まで込み上げるものを必死に抑えたが、マリは耐えきれず、その場に崩れ落ちる。
「う、うげぇぇ……」
激しく嘔吐するマリの背中を、ノノが静かにさすった。
「大丈夫だし……無理しなくていいし」
ドラは視線を伏せ、低く言う。
「……さて、どうする?このままイースタンの街へ向かう?それとも、街を戦場にする覚悟を決める?」
ガイマは沈黙し、少し考えてから言った。
「街に行けば、確実に戦場になるな……。ドラ、ノノ。どうするべきだと思う?」
答えが出る前だった。
遠くから、駆け寄る足音と共に、聞き覚えのある声が響く。
「ガイマ!!やっぱり、生きていたのね!」
振り返ったガイマは目を見開いた。
「……ミナ!?無事だったのか!ゲイズも……って、そっちの手を振ってる女は誰だ?」
ドラとノノが同時に呟く。
「……レガネスか」
「レガネス様!?えっ……姿を消したって聞いてたけど……?」
長い髪を揺らし、軽い調子で近づいてきた女は、にっと笑った。
「久しぶりっす、ドラ、ノノ。ドラの気配を感じて来たんですよ。……やっぱり、主様は記憶を失ってるみたいですね」
ミナがガイマに抱きつく横で、レガネスは一歩下がり、片膝をつく。
「世界神カイマ様のホムンクルスの一体、レガネス。ただいま帰還しました。ご命令を」
ベンとマリは、完全に固まった。
「……は?ホムンクルスって、世界神カイマ様しか作れない存在だよな?」
「え、じゃあ……。世界神カイマ様って、生きてたの?でも写真と全然違……」
混乱が広がる前に、ドラが手を打つ。
「話は中でしよう。皆、聞きたいことだらけだろうし」
再び地下へ戻ると、レガネスは惨状を一瞥し、指を鳴らす。
魔法で散乱した物をまとめながら、ノノを見て言った。
「……ねえノノ。本当なら、こういう時はお茶を出すべきじゃない?」
「ご、ごめんだし……」
すかさずゲイズが口を挟む。
「いや、レガネスはここに来るまで、ほとんど何もしてないぞ。戦闘は俺とミナだった」
レガネスは眉を吊り上げる。
「ゲイズ、嘘は良くないわ。私は道を教えたでしょ?ね、ミナ?」
「え……?えっと……道を教えただけ、かな……本当に何も……」
ドラは苦笑する。
「……相変わらずね、レガネス。とにかく、まずは片付けましょう」
掃除を終え、作戦室に集まった一同は、これまでの経緯と今後の方針を共有した。
話を聞き終えたレガネスが、あっさり言う。
「じゃあ、ノノに魅惑を使って、住民を避難させればいいんじゃない?」
ドラは即座に否定した。
「却下。ノノは顔が知られている。混乱を招くだけよ」
ミナが手を挙げる。
「……なら、レガネスが行けばいいんじゃない?顔も知られてないし。ねえ、ダメ?ガイマ」
ガイマはレガネスを見る。
「……可能か?」
「主様の命なら」
「……主様はやめてくれ。だが、できるなら頼みたい」
レガネスは軽く微笑んだ。
「了解しました。終わり次第、ドラに連絡します」
レガネスが去った後、空気が少し重くなる。
「……本当に、一人で大丈夫なのか?」
「心配いらん。あいつは、やる時はやる」
「……正直、私も少し不安です」
「俺もだな」
「僕も……」
ドラは静かに言った。
「待ちましょう。必ず、結果を出すわ」
一方、イースタンの街近郊。
レガネスは地面に手を当て、目を閉じる。
「……敵意を持つ者の位置を把握」
街の構造、人物の思考が一瞬で流れ込む。
敵意を持つ者は赤、持たぬ者は青。
「……把握完了」
彼女は淡々と呟く。
「じゃあ、敵意のない人たちには眠ってもらって、転移。バレると困るから、幻影で代替……っと」
地面に触れた瞬間、街の住民は一斉に眠り、同時に姿を消す。
直後、その場には完璧な幻影が残された。
「これでいいわね。街は壊れても、また作ればいい」
彼女は空を見上げる。
「……本当の姿は、まだ内緒」
そう呟き、ドラへ報告を送った。




