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記憶を無くした者  作者: ひろろ
第2章
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19話

 

 ガイマたちは、レジスタンスの地下拠点に到着していた。


 だが、そこに人の気配はない。


 内部は徹底的に荒らされており、資料、地図、書類はすべて引き裂かれ、机や棚は破壊され、床には切り刻まれた紙片が散乱していた。


 ドラは眉をひそめ、周囲を見回す。


「……これは酷いわね。完全に、意図的に潰しに来ている」


 足元を踏みしめながら進むガイマたちの背後を、皆が黙って追う。


 やがて彼らは、レジスタンス本来の地上出口へと辿り着いた。


 外に出た瞬間、誰もが言葉を失う。


 地面は無数に抉れ、焦げ跡が走り、周囲の木々は黒く焼け爛れていた。

 激戦があったことは一目で分かる。


 さらに――。


 人の死骸には鳥や魔物が群がり、既に原形を留めていないものも多い。


「……っ」


 ベンは喉元まで込み上げるものを必死に抑えたが、マリは耐えきれず、その場に崩れ落ちる。


「う、うげぇぇ……」


 激しく嘔吐するマリの背中を、ノノが静かにさすった。


「大丈夫だし……無理しなくていいし」


 ドラは視線を伏せ、低く言う。


「……さて、どうする?このままイースタンの街へ向かう?それとも、街を戦場にする覚悟を決める?」


 ガイマは沈黙し、少し考えてから言った。


「街に行けば、確実に戦場になるな……。ドラ、ノノ。どうするべきだと思う?」


 答えが出る前だった。


 遠くから、駆け寄る足音と共に、聞き覚えのある声が響く。


「ガイマ!!やっぱり、生きていたのね!」


 振り返ったガイマは目を見開いた。


「……ミナ!?無事だったのか!ゲイズも……って、そっちの手を振ってる女は誰だ?」


 ドラとノノが同時に呟く。


「……レガネスか」


「レガネス様!?えっ……姿を消したって聞いてたけど……?」


 長い髪を揺らし、軽い調子で近づいてきた女は、にっと笑った。


「久しぶりっす、ドラ、ノノ。ドラの気配を感じて来たんですよ。……やっぱり、主様は記憶を失ってるみたいですね」


 ミナがガイマに抱きつく横で、レガネスは一歩下がり、片膝をつく。


「世界神カイマ様のホムンクルスの一体、レガネス。ただいま帰還しました。ご命令を」


 ベンとマリは、完全に固まった。


「……は?ホムンクルスって、世界神カイマ様しか作れない存在だよな?」


「え、じゃあ……。世界神カイマ様って、生きてたの?でも写真と全然違……」


 混乱が広がる前に、ドラが手を打つ。


「話は中でしよう。皆、聞きたいことだらけだろうし」




 再び地下へ戻ると、レガネスは惨状を一瞥し、指を鳴らす。


 魔法で散乱した物をまとめながら、ノノを見て言った。


「……ねえノノ。本当なら、こういう時はお茶を出すべきじゃない?」


「ご、ごめんだし……」


 すかさずゲイズが口を挟む。


「いや、レガネスはここに来るまで、ほとんど何もしてないぞ。戦闘は俺とミナだった」


 レガネスは眉を吊り上げる。


「ゲイズ、嘘は良くないわ。私は道を教えたでしょ?ね、ミナ?」


「え……?えっと……道を教えただけ、かな……本当に何も……」


 ドラは苦笑する。


「……相変わらずね、レガネス。とにかく、まずは片付けましょう」




 掃除を終え、作戦室に集まった一同は、これまでの経緯と今後の方針を共有した。


 話を聞き終えたレガネスが、あっさり言う。


「じゃあ、ノノに魅惑を使って、住民を避難させればいいんじゃない?」


 ドラは即座に否定した。


「却下。ノノは顔が知られている。混乱を招くだけよ」


 ミナが手を挙げる。


「……なら、レガネスが行けばいいんじゃない?顔も知られてないし。ねえ、ダメ?ガイマ」


 ガイマはレガネスを見る。


「……可能か?」


「主様の命なら」


「……主様はやめてくれ。だが、できるなら頼みたい」


 レガネスは軽く微笑んだ。


「了解しました。終わり次第、ドラに連絡します」




 レガネスが去った後、空気が少し重くなる。


「……本当に、一人で大丈夫なのか?」


「心配いらん。あいつは、やる時はやる」


「……正直、私も少し不安です」


「俺もだな」


「僕も……」


 ドラは静かに言った。


「待ちましょう。必ず、結果を出すわ」




 一方、イースタンの街近郊。


 レガネスは地面に手を当て、目を閉じる。


「……敵意を持つ者の位置を把握」


 街の構造、人物の思考が一瞬で流れ込む。

 敵意を持つ者は赤、持たぬ者は青。


「……把握完了」


 彼女は淡々と呟く。


「じゃあ、敵意のない人たちには眠ってもらって、転移。バレると困るから、幻影で代替……っと」


 地面に触れた瞬間、街の住民は一斉に眠り、同時に姿を消す。

 直後、その場には完璧な幻影が残された。


「これでいいわね。街は壊れても、また作ればいい」


 彼女は空を見上げる。


「……本当の姿は、まだ内緒」


 そう呟き、ドラへ報告を送った。



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