18話
ベンは、これまでに起きた出来事をすべて語り終えた。
焚き火の爆ぜる音だけが、その場に重く残る。
ガイマは、ベンに何か言葉をかけようと口を開きかけた、その時だった。
「……近くで話し声が聞こえた。間違いなく、生き残りだな」
「散々逃げ回りやがって……今度こそ後悔させてやる」
低く、粘つくような声が闇の向こうから届く。
空気が一変した。
ドラは即座に立ち上がり、静かに言った。
「……私が始末してこようか?」
その視線はガイマを向いている。
しかし、ガイマは首を横に振った。
「いや、俺が行く。
お前たちは、ここで待っていてくれ」
怒りを抑えきれない声だった。
その表情に、誰も言葉を挟めなかった。
――カイマが、あんな顔をするのはいつぶりだろう。
ドラは胸の奥でそう思う。
記憶を失ってなお、変わらない部分がある。
それが今、はっきりと表に出ていた。
――カイマおじさんの、あんな顔……初めて見たかも。
ノノは息を呑む。
追っ手に同情の念すら浮かぶほどの、圧倒的な怒り。
――怖すぎて声が出なかった……。
――でも、ノノが止めないってことは……。
マリは、ただガイマの背中を見送るしかなかった。
ガイマは一人、闇の中へと歩み出る。
少し離れた場所。
ガイマの姿を認めた二人の男は、即座に武器を構えた。
「気づいて出てきやがったか!
悪いが、てめぇを殺せって命令でな!」
「おい、一人だけか?
女はどうした?情報じゃ、女もいるはずだろ!」
挑発するような声。
ガイマは静かに問い返す。
「……お前たちは、自分たちがしていることを正しいと思っているのか?」
男たちは鼻で笑った。
「正しいかどうかなんて関係ねぇんだよ!
暗黒神ダーク様が言うことが正しい。それだけだ!」
「俺たちが先に人を殺した?言いがかりをつけた?
ああ、そうだよ。だがな、従えば生き残れる。力も地位ももらえる。
それが現実だろ?」
ガイマは、ゆっくりと目を閉じた。
「……そうか」
低く、冷えた声。
「ほんの少しでも、マトモな心が残っているなら、殺さずに済ませようと思った。
だが……無理なようだな」
その瞬間。
ガイマの体から、凄まじい黒い魔力が噴き出した。
魔力は炎のように纏わりつき、地面が唸るように震え始める。
男たちは一瞬で理解した。
「ひっ……な、なんだこの魔力……!」
「やめろ……やめてくれ!殺さないでくれ!!」
ガイマは冷たく言い放つ。
「命乞いか。
お前たちは、これまで殺してきたレジスタンスの者たちから、同じ言葉を向けられなかったのか?」
沈黙。
「……助けたことはないだろう?
なら、俺が助ける理由もない」
ガイマの両手に、黒い火球が生まれる。
「安心しろ。一瞬だ」
放たれた黒炎は二人を包み込み、断末魔すら上げさせることなく、灰へと変えた。
魔力が収まる。
ガイマは、自分の手を見つめる。
「……体の調子が、異様にいい。
スズモと戦った時より……いや、それ以上だ」
思い浮かべただけで、魔法が形になる。
「俺は……何者なんだ?
あいつらの言っていた“カイマ”本人なのか……?」
答えは出ない。
「……考えても仕方ないか」
ガイマは踵を返した。
一方その頃、ドラたちの元にも異変は伝わっていた。
大地の揺れ、そして押し寄せる魔力の波動。
「……やっと、元の力の半分くらいは戻ったみたいね」
ノノは静かに言う。
「私が体内から出たことで、魔力を奪い続けていた弊害が消えた。
魔力も、魔法も……思い出し始めてる」
ドラは頷く。
「それでも、まだこんなものじゃない」
一方、魔力を感じ取れないベンとマリは、不安げに揺れを感じていた。
「……地震、か?」
「それにしては、すごかったけど……大丈夫なの?」
やがて、ガイマが戻ってくる。
「……始末してきた」
淡々とした声。
「それで、ベン、マリ。
これからどうする?イースタンの街に戻るのか?」
二人は顔を見合わせ、深く頭を下げた。
「……戻って、街を取り戻したい。どうか、力を貸してくれ」
「お願いします。私たちの街を……」
ガイマはドラとノノを見る。
二人は、迷いなく頷いた。
「頭を上げて。
その手伝い、引き受ける」
ガイマは言う。
「明日、イースタンの街へ向かおう。
今は暗いし、無理をする必要はない」
「……ありがとうございます」
こうして、彼らは翌日、イースタンの街へ向かうことを決めた。
一方その頃――イースタンの街。
薄暗い一室で、魔力封じの枷と口枷を付けられたナゴミは、鋭い視線で二人を睨んでいた。
爆破神ダーマと、ガガ。
「睨むなよ。飯も与えてやっただろ?
だが、それも今日までだ」
ダーマは嗤う。
「お前は転移魔法で、記憶神の元へ送られる。
記憶を書き換えられ、こちら側の同胞になるんだ」
ガガは嬉々として言う。
「良かったな、ナゴミ。
レジスタンスのことなんて全部忘れて、暗黒神ダーク様に仕えようぜ!」
その時、転移魔法陣が輝き、白衣に眼鏡の男が現れた。
「遅くなった。
前回は抵抗されて廃人にしてしまったが……今回は慎重にやる」
男はナゴミを抱え、魔法陣へと踏み出す。
「では、連れて行こう」
光が溢れ、二人の姿は消えたのだった。




