17話
焚き火の炎が小さく弾ける音の中、ベンは一度言葉を切り、拳を握りしめた。
「……その後、俺とマリは街の外にある“更地”へ向かった」
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街外れ。
人が寄りつかなくなって久しいその場所は、ただの荒地にしか見えない。
ベンとマリは周囲を確認すると、決められた位置に立ち、静かに三度足踏みをした。
――ゴゴ……。
低い振動と共に、地面の一部が盛り上がり、隠し扉が姿を現す。
「……ベンに、マリか」
中から顔を出したのは、地下を警備する男だった。
「今日は来る日じゃないはずだが、どうした?」
「実は……」
マリが一歩前に出て、頭を下げる。
「私たちの幼馴染が、レジスタンスに入りたいと言い出して……勝手ながら、リーダーに会わせる約束をしてしまいました」
「申し訳ありません」
男は一瞬考え込むように顎に手を当てた後、静かに頷いた。
「……人手は確かに足りない。リーダーは奥の作戦室だ。直接話せ」
そう言い、扉を完全に開いた。
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地下へと続く階段を降りると、そこには広く入り組んだ空間が広がっていた。
物資、作戦図、簡易ベッド――息を潜めながらも戦い続ける者たちの痕跡。
ベンとマリは、すれ違う仲間たちに軽く頭を下げながら、最奥の作戦室へ向かう。
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ノックをして中へ入ると、そこには椅子に深く腰掛け、天井を仰ぐ女性がいた。
目を閉じ、疲労を隠そうともせずに。
――レジスタンスのリーダー。
神速剣士。
「リーダー、お疲れのところ失礼します」
ベンは姿勢を正す。
「僕たちの幼馴染が、レジスタンスに入りたいと……勝手に、会わせる約束をしてしまいました」
ナゴミはゆっくりと目を開き、二人を見る。
「あら……本来なら叱るところね」
だが、わずかに口元を緩める。
「でも、今は人が欲しい時期。許しましょう。名前は?」
「ガガ、です。夕方にここへ来るよう伝えています」
――次の瞬間。
ドンッ!
ナゴミは机を叩き、勢いよく立ち上がった。
「……今、ガガと言った?」
二人は凍りつく。
「まさか……まだ伝わっていなかったのね。不味いわ」
「リ、リーダー? どういう意味ですか……?」
ナゴミは歯を噛みしめ、低い声で告げる。
「少し前、偵察隊が“神”と密会する男を目撃した。その男の名が――ガガ」
ベンの顔から血の気が引く。
「そんな……同姓同名じゃ……」
「……それを願いたい。でも事実よ」
ナゴミは即座に判断を下した。
「この隠れ家は放棄する。今すぐ――」
その時。
扉が乱暴に開かれ、血相を変えた隊員が飛び込んできた。
「報告! 武装兵と、爆破神ダーマがこちらへ向かっています!」
「既に偵察に出た者との通信は途絶……戦死したものと!」
ナゴミは一瞬だけ目を閉じ、覚悟を決めたように言った。
「……戦闘準備。全員に伝達しなさい」
そして、ベンとマリを見る。
「お前たちは逃げなさい。奥に、魔物が蔓延る森へ通じる通路がある」
「待ってください! 僕たちのせいで……!」
「命令よ!!」
鋭い声が地下に響く。
「生き延びなさい。
そして、レジスタンスを引き継ぐの」
ナゴミはベンを真っ直ぐ見据えた。
「ベン、あなたなら出来る。この街を――必ず、取り戻しなさい」
ベンは震える手でマリの手を握る。
「……今まで、ありがとうございました」
「必ず、生き延びます」
ナゴミは小さく微笑んだ。
「また会いましょう。――生きていれば、ね」
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旗の裏に隠されたスイッチ。
開いた扉の先へ、二人は走った。
背後で、爆音と衝撃が連続して響く。
「……リーダー……皆……」
洞窟を抜け、地上へ出た時。
遠くで、隠れ家があった場所が赤く燃え、黒煙が天へ昇っていた。
「……追っ手だ」
兵士の姿を見つけ、ベンは歯を食いしばる。
「ガガ……」
二人は覚悟を決め、魔物の蔓延る森へと足を踏み入れた。
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一方――。
燃え尽きた隠れ家の前。
焦げた死体、引き裂かれた仲間たちの亡骸の中で、
ナゴミは剣を構え、二人の神と対峙していた。
「しぶといねぇ、流石“神速剣士”」
爆破神ダーマが笑う。
「もう生き残りは、あんたと逃げた二人だけだよ?」
ナゴミはガガを睨みつけた。
「……何故だ。お前は、幼馴染だろう」
ガガは肩をすくめ、冷たく笑った。
「見返りの問題さ。
力、地位……神の名。そっちには無いだろ?」
「……そう」
ナゴミは静かに剣を鞘に納め、低く構える。
「なら、その希望を――断つ」
「神速抜刀」
次の瞬間、ガガの絶叫が響いた。




